EP 16
「暗殺カメラワークと極道邪神! 狂気のハリウッド(物理)撮影」
「よーし。空撮用ドローン、スタンバイ。……シーン1、テイク1。アクション!!」
ポポロ村の広場に、メガホン(お玉)を持ったリアンの野太い声が響き渡った。
ブゥゥゥゥンッ!!
上空では、リアンがプロポ(魔導通信石)で遠隔操作する『ドンガン地下帝国製・魔導長距離自爆ドローン(※爆薬を抜き、レンズを積んだ空撮仕様)』が、獲物を狙う暗殺蜂のように高速で旋回している。
「あー、都会の風は、つめたいなー。お腹がすいたなー(棒読み)」
広場の中央(路地裏セット)では、頭に鳩の羽をつけたリーザが、驚異的な大根芝居を披露していた。
「おいイグニス! 照明の角度がズレてるぞ! 女優の顔に綺麗な陰影を作れ!」
「無茶言うなよ! 俺様は竜人族の次期族長だぞ!? なんで火炎ブレスで『女優を美しく見せる逆光』なんて繊細な作業しなきゃならねぇんだよ!!」
足場の上からイグニスが文句を言いながらも「ふぅーっ……」と細く火を吹き、完璧な照明(ガチの火炎)を作り出す。
そこへ、路地裏の影から『悪の組織のボス』が現れた。
「……おう、嬢ちゃん。こんな所で鳩の餌なんか漁ってると、痛ぇ目見るぜ……?」
アルマーニの高級スーツにサングラス。カジノの一件以来、ポポロ屋の裏に居座っていたインテリヤクザ邪神・デュアダロスである。
ゴゴゴゴゴゴッ……!!
デュアダロスが一歩踏み出した瞬間、背中の『昇り龍の刺青』が鈍く光り、本物の邪神による『極道の殺気』が広場を包み込んだ。
「ひぃっ……!?(ガチビビリ)」
「さぁ、その豆(鳩の餌)を置いて、このシマから消えな。……でなけりゃ、海の底(ドラム缶)に沈めることになりやすぜ」
本職(邪神)の恐ろしすぎる脅迫に、リーザは本気で涙目になりながらセリフを棒読みした。
「や、やめてー。わたしは、まけないぞー。このオーガニックなお豆は、わたしの晩ごはんなんだからー(ガクガク)」
「よし、カット! 悪役の顔面圧は100点だ! 次、シーン2! 都会の理不尽(交通事故)シーンいくぞ!」
リアンの合図と共に、ドンッ!と地面を蹴る音が響いた。
「キャルル! 立ち位置に付け!」
「わ、分かってるわよぉぉぉ!!」
ズサァァァァッ!!
重さ数十キロはあるドンガン製の『魔導録画機(手持ちカメラ)』を担いだキャルルが、タローマン製の特注安全靴から土煙を上げ、マッハの速度で所定の位置に滑り込んだ。
月兎族の圧倒的な脚力と『月影流』の足捌きがあって、初めて成立する超重量級カメラの高速移動である。
「フェンリル! トラクター出せ!」
「しゃああっ! 待たせやがって!!」
ブロロロロロロォォォォンッ!!!
猛烈な排気音と共に、イグニスがデコトラ風に改造した『農業用魔導トラクター』が猛スピードで突っ込んできた。運転席でハンドルを握るのは、神の眷属・狼王フェンリルだ。
「オラァァァ! この前のパチンコ(CR異世界転生トラックでドン)の恨み、ここで晴らしてやるぜ!! 今度こそ撥ねられて確変出しやがれェェェ!!」
「えっ!? ちょっ、速い速い! 轢かれるぅぅぅ!!」
時速100キロを超えるトラクターが、リーザに激突する寸前。
「……フッ」
カメラの死角に立つリアンの指先が、僅かに動いた。
彼の指には、暗殺用の見えない『極細鋼糸』が何本も巻き付いており、その先はリーザの芋ジャージ(衣装)の背中に繋がっていた。
「暗殺術・操り人形!」
ビュンッ!!
リアンが鋼糸を力強く引いた瞬間、リーザの体が物理法則を無視した軌道でふっ飛び、トラクターの突撃をミリ単位で回避した。
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
「今だルナ!! 爆破特効!! キャルル、爆風に耐えて寄れ(ズームしろ)!!」
「はーい! 都会の厳しさを表現するんですよねっ? えいのえいのえいっ☆」
ルナが世界樹の杖を振った瞬間。
リーザの背後数十メートルの空き地で、ドズゴォォォォォォンッ!!! と、超ド級の極大爆発魔法が炸裂した。
「あつっ!? 髪が! 鳩の羽が燃えるぅぅぅ!!」
「『月影流・地ずり鐘打ち』の構え……ッ! 負けないわよぉぉぉ!!」
本物の爆風と熱波が押し寄せる中、キャルルは特注安全靴で地面にガッチリと根を張り、凄まじい衝撃波に耐えながら、炎を背に泣き叫ぶリーザの顔を完璧なアングルでドアップに捉えた。
上空では自爆ドローンが爆炎の周りを旋回し、ハリウッド超大作すら鼻で笑うレベルの『ガチのダイナミック映像』を記録していく。
「す、凄い……!! なんというリアリティあふれるカースタントと爆発! その業火を背に立ち尽くす我が娘の、なんと神々しいことか!!」
特等席で見学していたリヴァイアサンは、ハンカチを噛み締め、スタンディングオベーションで拍手喝采を送っていた。
爆風で腰を抜かしてアホ面を晒している娘が、海神の目には『理不尽な運命に抗う悲劇のヒロイン』にしか見えていなかった。
「……よし。画の迫力とカメラワークは完璧だ」
リアンは魔導録画機のモニターをチェックし、満足げに頷いた。
主演の演技力はスライム以下だが、暗殺者のワイヤーアクション、月兎族の超機動カメラ、そして神々のガチ魔法によって、映像作品としては前代未聞のクオリティに仕上がっている。
「ニャングル! 尺(時間)はどうだ!」
「バッチリでっせ監督! ゴッドチューブのアルゴリズム的に、次のラストシーンで『泣き』を入れたら、PV数は億を超えまっせ……!」
「上等だ。……急がねぇと、深海タラバの鮮度が落ちちまうからな」
メガホン代わりのお玉を腰に差し、リアンは舌舐めずりをした。
極上の海鮮打ち上げまで、あと少し。
狂気の映画撮影は、いよいよリーザの「アイドルとしての真骨頂」が試される、感動のクライマックスへと突入しようとしていた。




