EP 15
「嘘から出た実(映画)。暗殺者監督と魔導ドローン、強制クランクイン!」
ポポロ村を呑み込もうとしていた大津波は嘘のように引き、広場には平和(?)な空気が戻っていた。
しかし、状況は先ほどよりもタチが悪くなっていたかもしれない。
「さぁリーザ! ママは一番特等席で、貴女の魂の演技を見学させてもらいますわ! カメラはどこかしら? 監督はどなた?」
ポポロ村の広場のど真ん中。
海の女王リヴァイアサンは、魚人兵士たちが大急ぎでセッティングした『真珠の超特大ディレクターズチェア』に優雅に腰掛け、目をキラキラと輝かせていた。
「あ、あはは……。ちょっと待っててねママ! 今、スタッフさんを呼んでくるから……!」
極貧地下アイドル・リーザは、引きつった笑顔で手を振り、ダッシュでポポロ屋の厨房へと駆け込んだ。
そして、仕込みに戻ろうとしていた元・暗殺者の料理人リアンの足元に、ズサーッ!と見事なスライディング土下座を決めた。
「リアンさん!! お願いしますぅぅ! 私の映画の『監督』をやってくださいぃぃ!!」
「……アホか」
リアンは冷酷な声で即答し、包丁で月見大根をトントンと切り始めた。
「自分で吐いた『主演デビュー』なんていう大ウソは、自分で拭え。俺は忙しいんだ」
「そんな殺生な! このまま撮影が始まらなかったら、お母様が『やっぱり嘘だったのね!』ってガチギレして、今度こそ村が塩の砂漠にされちゃいますよ!?」
「知るか。そうなったら、あの女王ごと魚介類を全部刺身にするだけだ」
一切の妥協を許さないリアンの態度に、リーザは「終わった……私のアイドル人生、そして命が……」と真っ白に燃え尽きかけた。
その時である。
広場から、リヴァイアサンのよく通る、美しくも威圧的な声が響き渡った。
「そうそう! 映画のスタッフの皆様に、主演女優の母から『差し入れ』を持ってきましたわ! 兵士たち、運びなさい!」
「「「ギョギョッ!!(ハハーッ!!)」」」
ズシンッ!! ズシンッ!!
ポポロ屋の前に、屈強な魚人兵士たちが『とんでもないモノ』を運び込んできた。
「こ、これは……!!」
窓の外を見た村長キャルルが、ウサギ耳をピンと立てて驚愕の声を上げる。
リアンが面倒くさそうに窓の外へ視線を向けた、その瞬間――。
彼の研ぎ澄まされた暗殺者(料理人)の瞳孔が、限界までカッと見開かれた。
そこにあったのは、氷を敷き詰めた巨大な荷車に乗せられた、二つの『海の至宝』であった。
一つは、大人の背丈を優に超える超巨大なカニ。赤黒く輝く分厚い装甲からチラリと見えるのは、はち切れんばかりに詰まった純白の身。**『幻の深海タラバ』である。
そしてもう一つは、鈍い銀色の光沢を放つ全長三メートルの魚体。美しいサシ(脂)が全身にびっしりと入り込んだ『極上・海王マグロ』**であった。
「……ッ!!」
リアンの喉が、ゴクリと鳴った。
(……アレは、ただの魔物じゃねぇ。海神の魔力をたっぷり浴びて育った、神格クラスの極上食材……! どんなルートを使っても、地上じゃ絶対に手に入らねぇ代物だ……!!)
「スタッフの皆様! 撮影が終わりましたら、この海鮮でパーッと『打ち上げ』をしてくださいな! さぁ、早くメガホンを取って!!」
女王の声が響く中。
ポポロ屋の裏手で、パチパチと算盤を弾く音が響いた。
「……計算、立ちましたで」
コテコテの関西弁と共に、ポポロ村の財務担当である猫耳族のニャングルが、煙管を吹かしながらニヤリと笑った。
「海神の娘の主演映画……。これをルナミスTV局、いや、神々の動画サイト『ゴッドチューブ』で配信すれば……広告費でポポロ村の今年の予算が100倍になりまっせ。ワイが『プロデューサー』として全面バックアップしたるわ」
ニャングルの悪魔の囁きと、極上のカニとマグロ。
その圧倒的な「金と食の暴力」を前に、元・暗殺者は完全にプライドを投げ捨てた。
リアンはスッ……と大根を切る手を止め、エプロンを脱ぎ捨てた。
そして、厨房の奥に置かれていた『巨大なお玉(汁物用)』をガシッと掴み、メガホンのように口元へと当てた。
「……おい、キャルル。村の地下シェルターに、ドンガン地下帝国から密輸した『魔導録画機(手持ちカメラ)』と『魔導長距離自爆ドローン』があったな」
「えっ? う、うん、あるけど……」
「今すぐ持ってこい。ドローンの爆薬を抜いて、空撮カメラに改造する。イグニス! お前はドカタ経験を活かして足場を組め! レフ板(※アルミホイルを貼ったベニヤ板)代わりに、お前の火炎ブレスで照明を当てるんだ!」
「マ、マジかよ!? 俺様、一応竜人族の族長の息子……」
「やれ。さもなくば今日のまかないはゲロオムレツだ」
「やりますぅぅぅ!!」イグニスが涙目で走り出した。
リアンから放たれる空気が、一瞬にして『プロの映画監督』へと変貌した。いや、暗殺のプロフェッショナルとしての技術を、すべて映像制作に全振りし始めたのだ。
「ルナ! お前は『特効』担当だ。爆発魔法でも幻覚植物でもなんでもいいから、画面を派手にしろ」
「はぁーい☆ お任せくださいねっ、えいのえいのえいっ☆」
「そしてキャルル」
リアンは、ドンガン製の重たい魔導録画機を月兎族の村長に押し付けた。
「お前の月兎族のマッハ1の足と、タローマン製の特注安全靴の踏ん張りが頼りだ。俺のワイヤーアクション(※暗殺用の鋼糸)に追従して、絶対にブレない完璧なアングルをキープしろ」
「む、無茶言わないでよ! 私、村長なんだけど!?」
全員の準備が整う中、リアンは絶対零度の、しかしどこか狂気を孕んだ笑みを浮かべ、主演女優の肩をポンと叩いた。
「俺は今から、**『世界で一番美味いロケ弁』**を食うために、俺の暗殺技術と最新魔導兵器をフル活用して、世界最高の映画を撮ってやる。……お前ら、絶対にNGを出すなよ。俺の機嫌(カニの鮮度)が落ちる前にな」
「は、はいぃぃぃっ!! 一生ついていきます、監督ぅぅ!!」
極上の海鮮と、莫大な広告費。
最も不純な動機によって結成されたポポロ村オールスターズの、カオスすぎる架空の大作映画『どん底からのシンデレラ~鳩とパン屑と私~』。
その強制クランクインの幕が、今、切って落とされたのである。




