EP 14
「母の襲来と、絶体絶命の言い訳」
「しゃああっ! まずはあの極上マグロ将軍の大トロからいただきだぁぁ!」
「逃がさねぇぞ……! クラーケンの下足は俺が全部炭火焼きにしてやる……!」
ポポロ屋の扉を蹴り開け、飢えた獣が、ヨダレを垂らしながら深海軍勢へと襲い掛かろうとした、その瞬間である。
「待ってぇぇぇぇ!! ストォォォォップ!!」
ピンク色の閃光が、リアンたちの前に立ち塞がった。
頭に『鳩の羽』をくっつけ、口元に『パン屑』をつけたままの極貧地下アイドル・リーザである。
「リアンさん、フェンリルさん! お願いだから私のお母様(と地元の近衛兵たち)を食材(海鮮丼)にしないでぇぇ!!」
「チッ。邪魔すんじゃねぇよ、リーザ。あんな活きのいい海鮮、逃す手はねぇだろ」
リアンが舌打ちをして巨大包丁を下ろした、その時。
「……おお、リーザ! 我が愛しの可哀想な娘よ!!」
広場を埋め尽くす海水の波を割り、巨大な真珠の神輿から女王リヴァイアサンが身を乗り出した。
彼女はリーザの姿(特に頭の鳩の羽と、口元のパン屑)を見た瞬間、ボロボロと大粒の真珠の涙を流し始めた。
「なんという痛ましい姿……! あのテレビ番組は真実だったのですね! 誇り高きシーランの王女に、鳥類と争い、その残飯をすすらせるとは……! やはり、このポポロ村の野蛮な下等生物どもは、一匹残らず海の底へ沈めて……」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
リヴァイアサンの背後に、さらに巨大な津波が形成されていく。
ポポロ村完全水没まで、あと数秒。
「ヒィィィッ! リーザ、なんとかしなさいよ! あんたのお母様、マジで村ごと沈める気よ!!」
キャルルがウサギ耳を抱えて悲鳴を上げる。
(ど、どうしよう……! このままじゃ、ポポロ村が沈められちゃうし、リアンさんに地元の魚人たちが三枚におろされちゃう!)
リーザのポンコツな脳細胞が、かつてない速度でフル回転を始めた。
母の怒りを鎮め、かつ、自分の「極貧生活」を正当化する、魔法のような言葉。
ルナミス帝国のガード下で培った『アイドルのハッタリ力』が、限界を突破した。
「ち、違うのママ!! 誤解よ!!」
「誤解……? 何が誤解だというのです! その頭の羽とパン屑は、貧困の証ではないですか!」
リーザはビシッ!と母を指差し、胸を張って言い放った。
「アレは……『役作り』の一環なのよ!!」
「「「…………は?」」」
母リヴァイアサンだけでなく、背後のリアンやキャルルまでもが、間の抜けた声を漏らした。
「や、役作り、とは……?」
「そ、そうよ! 私、実は今度……ルナミス帝国で『大作映画の主演デビュー』することが決まったの!」
リーザは冷や汗を滝のように流しながら、口から出まかせを並べ立てた。
「そ、その映画のタイトルは……えーっと、『どん底からのシンデレラ~鳩とパン屑と私~』よ! 大都会で貧困に喘ぎながらも、夢を諦めない少女の感動巨編! だから私、主人公の気持ちを完璧に理解するために、公園で『メソッド演技(鳩と餌の奪い合い)』の特訓をしてたの! テレビ局の密着取材も、その映画のプロモーションの一環なんだから!」
「…………」
静寂。
波の音だけが響く中、リヴァイアサンはポカンと口を開け、リーザを見つめていた。
(あ、あわわ……無理があるよね、今の言い訳……! 怒られるっ……!)
リーザがギュッと目を瞑り、雷を落とされる覚悟を決めた、次の瞬間。
「…………まぁっ!!」
リヴァイアサンは、パァァァッ!と顔を輝かせ、両手を頬に当てた。
「映画の……主演デビューですって!? しかも、あんなにリアルで泥臭いメソッド演技までこなすなんて……! さすが、天才的な才能を持つ私の愛娘! 大女優の素質が爆発していますわ!!」
「……えっ?」
リーザだけでなく、村の全員がズコーッ!とずっこけた。
この女王、圧倒的なパワーの反面、娘への盲目的な愛ゆえに『信じられないほどチョロかった』のである。
「素晴らしいわ、リーザ! ママ、感動しました! よし、全軍に告ぐ! ポポロ村の殲滅作戦は中止! 代わりに……娘の『映画撮影の現場』を、この目で見学させてもらうとしましょう!!」
「「「…………はぁぁぁぁぁ!?」」」
沈没の危機は去った。
しかし、リーザのその場しのぎの『大ウソ』は、さらなる地獄(架空の映画プロジェクト)の幕開けを告げるファンファーレとなってしまったのである。




