EP 8
「母・リヴァイアサンからの手紙と、アイドルグッズ(薪)」
その日、ポポロ屋の前に『巨大なシャコ貝の宝箱』がドンッ!と重苦しい音を立てて鎮座した。
「……なんだこれ。ウチは海鮮の仕入れは頼んでねぇぞ」
仕込み中のリアンが眉をひそめると、エプロン姿のリーザが「あっ!」と声を上げて駆け寄った。
「これ、シーランからの定期便だわ! お母様……女王リヴァイアサンからの仕送りよ!」
リーザがシャコ貝に触れると、パカァッ!と宝箱が開き、中から眩いばかりの金銀財宝……ではなく、大量の『リーザ親善大使特製グッズ』が雪崩のように溢れ出してきた。
純金箔押しの等身大リーザ・ポスター、真珠で作られた応援用ペンライト、そして高級シルクのライブ用タオル。
そしてその頂上に、一通の仰々しい防水巻物が置かれていた。
「えっと……お母様からのお手紙ね」
リーザが巻物を広げると、隣からキャルルとルナが覗き込んだ。
『愛しの娘、リーザへ。
ルナミス帝国での親善大使としての活躍、そしてトップアイドルとしての大成功、母として鼻が高いです!
お前からの手紙を読み、母は涙しました。
【帝国の近衛兵(警察)に特別警護されながら、VIP専用の個室(取調室)で極上の豚肉料理(カツ丼)を振る舞われた】こと。
そして、【広場に集まった何百人もの熱狂的なファン(炊き出しに並ぶテント村のおじさん達)の最前列で、魂の歌を響かせた】こと。
さすがは我がシーランの誇る人魚姫! 帝国の経済格差を、その歌声で救っているのですね!』
「…………」
キャルルのウサギ耳が、スッと真下に垂れ下がった。
「ねぇ、リーザ。あんた……お母様にどんな手紙送ってんのよ」
「えっ? 起きた事実をありのままに、アイドルらしく『ポジティブ』に変換して書いただけよ? 私、嘘はついてないもん!」
「それが嘘(詐欺)だって言ってんのよ!! お母様、完全に『娘が帝国でスタジアムライブを成功させた大物アイドル』だって勘違いしてるじゃない!!」
キャルルが頭を抱えてツッコミを入れるが、リーザは全く悪びれる様子がない。
『母国シーランでも、お前のグッズを大量に作り、毎日海中パレードをして応援しています! 今回送った特製グッズをファンに配り、さらに布教に励みなさい。愛を込めて。母リヴァイアサンより』
手紙を読み終えたリーザは、「お母様……ありがとう!」と感動の涙を拭った。
「美しい親子の絆ですねぇ☆」とルナが拍手をする中、リアンが呆れたようにため息をついた。
「で、どうすんだよこのゴミの山。ウチの店に置くスペースなんてねぇぞ。売って生活費の足しにでもするか?」
「リアンさん、なんてこと言うの! これはお母様の愛が詰まった、私の大切な公式グッズよ! 絶対に売ったりなんかしないわ!!」
リーザはプクッと頬を膨らませて怒ると、等身大ポスターが貼られた『分厚い純木製の特大パネル』を手に取った。
そして……。
バキィィィィィィンッ!!!
「……え?」
キャルルの目の前で、リーザは自分の顔がデカデカと印刷された木製パネルを、見事な膝蹴りで真っ二つにカチ割ったのである。
「よしっ! いい材質の木ね! 乾燥もバッチリだわ!」
リーザは割ったパネルの破片を抱え、満面の笑顔でリアンに振り返った。
「リアンさん! 見て! 最高級の『薪』がこんなに大量に手に入ったわ! これなら、今夜はポポロ屋のストーブで、太陽芋の焼き芋が作れるわよね!?」
「…………お前、自分のグッズだろ」
「アイドルはね! 飾られるより、温かいご飯(焼き芋)の熱源になる方がよっぽどファンサービスになるのよ!! ペンライトも、夜の雑草摘みの照明にピッタリだし! シルクのタオルは、冬の防寒具にリメイクするわ!」
母の壮大な勘違いと愛の結晶は、極貧サバイバー・リーザの手によって、一瞬にして「ただの優秀な越冬・サバイバル物資」へとクラスチェンジを果たしたのである。
「……こいつの図太さ、マジでルチアナ超えてるかもしれねぇな」
「お母様が不憫すぎるわ……」
バキッ! メキィッ!
ポポロ屋の裏手で、自分の等身大パネルを嬉々として薪割りにする人魚姫の姿。
そのあまりにも逞しすぎる後ろ姿に、ポポロ村の面々はただただ無言で遠い目をするしかなかった。




