EP 7
「圧倒的経済格差! サバ缶パン耳 VS チート美食」
ポポロ屋のアイドル(見習いウェイトレス)となったリーザの、ある日の夕食時のこと。
まかないの時間まで待ちきれなかった彼女は、ポポロ屋の隅のテーブルに、ルナミス帝国から持ち帰った「戦利品」をズラリと並べていた。
「ふふふんっ♪ 今夜は超豪華なフルコースよ!」
メインディッシュは、パチンコ屋の落ち玉で錬成した『サバの味噌煮缶』。パカッと蓋を開けると、濃厚な味噌の香りが漂う。
主食は、スーパーの特売で勝ち取った『パサパサの食パン(主に耳の部分)』。
そしてサラダは、ポポロ村の広場で丹念に摘み取ってきた『タンポポとヨモギの無農薬(雑草)サラダ』である。
「お魚のDHAでアイドルスマイルもピカピカ! 食物繊維もバッチリ! 完璧なサバイバル・ディナーね!」
リーザがパンの耳をサバ缶の汁に浸し、至福の表情でかじろうとした、その時だった。
「あらあら~。リーザちゃん、美味しそうなご飯ですねぇ☆」
トテトテと隣の席にやってきたのは、世界樹の杖を持った天然エルフのルナだった。
「でも、お野菜ばかりだと力が出ませんよぉ? 私も今からお夕飯にしますねっ。えいのえいのえいっ☆」
ルナが軽く杖を振った。
ボフゥンッ!!
まばゆい光と共に、ルナの目の前のテーブルに『とんでもないモノ』が顕現した。
ジュウゥゥゥゥッ!!という凶悪な音を立てる熱々の鉄板。その上に鎮座するのは、大人の顔ほどもある超巨大な『特厚・肉椎茸ステーキ(ガーリックバター醤油味)』だ。
さらにその横には、南国の高級フルーツをふんだんに使った『濃厚トロピカル・スムージー』と、湯気を立てる『ふかふかの自家製ミルクパン』のバスケットが添えられている。
「わぁい、上手に出来ましたぁ☆ いただきまーす!」
ルナはニコニコしながらナイフを入れ、肉汁(椎茸の旨味エキス)が滝のように溢れ出すステーキを口に運んだ。
「んん~っ! お肉みたいでジューシーですぅ♡」
「…………ッ!!?」
隣の席のリーザは、持っていたパンの耳をポロリと落とした。
サバ缶と雑草。VS。チート魔法で生み出された極上のステーキと焼きたてパン。
同じテーブルの上で、『天界とスラム街』ほどの圧倒的な経済(魔法)格差が生まれていたのだ。
強烈なガーリックバターの香りが、サバ缶のささやかな味噌の匂いを無慈悲に上書きしていく。
ギュルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!
リーザのお腹が、悲鳴のような轟音を鳴らした。
だが、彼女は人魚姫であり、アイドルである。矜持があるのだ。
「ふ、ふんっ! あ、あんな脂っこいもの、お肌に悪いに決まってるわ! アイドルは……アイドルは施しなんて受けないんだから! 私はこの健康的なサバ缶で……ひぐっ……」
リーザは涙目で震えながら、パサパサのパンの耳をかじった。
その様子を少し離れた席で見ていたキャルル(手作りサンドイッチと野菜ジュースを優雅に飲食中)が、見かねて声をかけた。
「ちょっとルナ、リーザが可哀想でしょ。……リーザちゃん、そんなに無理しないで。ルナのステーキ、一口食べる?」
キャルルの言葉に、ルナも「あっ」と気づいたように微笑んだ。
「ごめんなさぁい。お裾分けしますねっ☆ はい、あーん♡」
ルナがフォークに刺した、肉汁滴る極厚の椎茸ステーキ。
それが、リーザの口元へと差し出された。
「……あ、アイドルは……ファンからのプレゼント以外の施しは……」
リーザはプルプルと首を振ってやせ我慢を貫こうとした。
しかし、ガーリックバター醤油の凶悪な匂いが鼻腔を突き抜けた瞬間。
彼女の中の「生存本能」が、全プライドをへし折った。
「……食べますぅぅぅぅぅ!!!」
ガバァッ!!
リーザはルナのフォークごとステーキに食らいつき、涙と鼻水を流しながら一心不乱に咀嚼した。
「おいひぃ……! 温かいご飯、おいひぃよぉ……! スムージーも飲んでいい!? パンもかじっていい!?」
「ふふっ、いっぱい食べてくださいねぇ☆」
結局、サバ缶と雑草サラダはそっちのけで、ルナのチート美食に完全に寄生(タダ飯)するリーザであった。
「アイドルは施しを受けない」という彼女の誓いは、ポポロ村の圧倒的な『食の暴力』の前に、毎食のように打ち砕かれる運命にあるのだ。




