EP 5
「新台『CR異世界転生トラックでドン!』と狼王の誘い」
「……おいおい、マジかよ」
ポポロ屋の裏手、カジノ・ポポロのテントから這い出してきたインテリヤクザ邪神・デュアダロスは、アルマーニのスーツをヨレヨレにし、背中の昇り龍の刺青をミミズのように縮み上がらせていた。
彼は、通りがかった狼王フェンリルを震える手で掴んだ。
「……ニート狼、聞け。……あの人魚姫の嬢ちゃん、アレはアカン。……アレは『ガチの呪い(極大バフ)』や」
「あァ? 何言ってんだ、オッサン」
フェンリルはマルボロ・アイスブラストを吹かしながら、うざそうに手を振り払った。
「嬢ちゃんが歌うたびに……客が全員『丁』、全員『半』に全ツッパしよるんじゃ……! そして、サイコロの目が……全部客の張った通りに出おる……ッ!!」
デュアダロスは血の涙を流して絶叫した。
「ワシのシノギ(胴元資金)が……一晩で、一晩で素寒貧じゃああああ!!」
「…………ほう?」
フェンリルのチャラい瞳が、一瞬にしてギラリと輝いた。
彼はタバコを噛み潰すと、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「幸運の女神……ねぇ。へへっ、面白ぇじゃねぇか」
フェンリルはそのまま、ポポロ屋の店内へとズカズカと乗り込んだ。
カウンターで、まかないの『特大ハンバーグ定食』を幸せそうに頬張っていたリーザの前に、フェンリルは仁王立ちになった。
「よう、地下アイドル」
「えっ……? あ、パチンコで全財産スッてた狼のお兄さん! サインなら、今なら温かいゆで卵一つで……」
「そんなもんはいらねぇ。おい、嬢ちゃん」
フェンリルはリーザの目の前に、ルナミスマートで買った『特製・高級いちご大福』をドンッ!と置いた。
「これ、やるよ」
「えっ!? いちご大福!! 本物の、いちごが入ってるやつぅ!!」
リーザの瞳が、金貨を見つけたニャングルのようにカッと見開かれた。
パンの耳と雑草で飢えを凌いできた彼女にとって、本物の果物が入った高級和菓子は天上の食べ物である。
「これをやる代わりに、俺様とこれからデートしねぇか?」
「デート……?」
リーザがいちご大福を頬張りながら、不思議そうに首を傾げた。
「デートって、温かいご飯をいっぱい食べさせてくれて、さらに『おひねり』もくれる、あのデート?」
「あァ、そうだ。……ただし、場所は『ルナミス帝国』だ」
フェンリルはニヤリと笑い、リーザに顔を近づけた。
「今日、帝国のパチンコ屋でよぉ……話題の新台が入るんだよ。『CR異世界転生トラックでドン!』っていう、最高に脳汁が出そうな台がな」
(…… CR異世界転生トラックでドン!?)
そのタイトルを聞いた瞬間、リーザの体内に、かつてルナミス帝国のガード下で培われた「パチンカー(落ち玉拾い)の本能」が、ピクリと反応した。
「トラックに撥ねられるたびに、確変(大連チャン)のチャンスが訪れるっていう、画期的な台だ! だが、俺様の冷気だけじゃ、どうにも不安でなぁ」
フェンリルはリーザの肩をガシッと掴んだ。
「お前のその『幸運のバフ』を、俺様の台にぶち込んでくれ! 勝ったら……上がり(勝ち金)の三割を、お前に『スパチャ』としてやるぜ!」
「三割……!?」
リーザの脳内に、山積みのサバ缶、茹で卵、そして……温かいカツ丼(お吸い物・松付き)のビジュアルが、走馬灯のように駆け巡った。
「……やりますぅぅぅ!! アイドルとして、ファンの夢(狼王のパチンコ勝ち)を叶えるのも、私の務めだもん!!」
「しゃあ! 話がわかるじゃねぇか! 行くぞ、地下アイドル!!」
「おー!!」
こうして、ポポロ村のダメ神(重度のギャンブル依存症)と極貧地下アイドルという、最高に欲望に忠実なコンビによる、初の「パチンコ遠征珍道中」が幕を開けたのである。
「……たく、アホらし」
ポポロ屋の厨房から、ネギを刻むリアンが呆れ果てたように深くため息をつく音だけが、平和な朝の店内に響いていた。




