EP 4
「鉄火場の幸運の女神と、邪神を泣かせる五円スパチャ」
「さぁさぁ! 張った張った! 丁か、半か! ここは勝負の分かれ道やで!!」
ポポロ屋の裏手に設営された大型テント『カジノ・ポポロ』。
今夜も商人猫ニャングルのダミ声が響き、各国の国境警備兵や荒くれ者たちが血走った目でテーブルを囲んでいた。
その中心で、上半身裸のインテリヤクザ邪神・デュアダロスが、背中の昇り龍の刺青を鈍く光らせながら竹の壺を構えている。
「……丁半駒揃いやした。勝負!」
パッ。壺が開かれ、兵士たちの悲喜交々の歓声と絶叫がテントを揺らす。
デュアダロスはフッと笑い、胴元としての圧倒的な利益を熊手でかき集めようとした。
だが、その鉄火場のむせ返るような熱気の中へ、トテトテと空気を読まない足音が近づいてきた。
ピンク色のフリルエプロン姿。手にはどこから拾ってきたのか『木製のミカン箱』を抱えている。
ポポロ屋の新人ウェイトレスにして、極貧地下アイドルのリーザである。
「おっ! ポポロ屋の可愛いねぇちゃんじゃねぇか!」
「リアン大将のところから、串カツの出前でも持ってきてくれたのか?」
兵士たちが色めき立つが、リーザはニッコリと笑って首を振った。
彼女はミカン箱をテーブルのすぐ横にドカンと置き、その上にヒョイッと飛び乗った。
「みんなぁ~! ギャンブルの調子はどうぉ~!? 負け込んでるそこのお兄さんたちに、朗報ですぅ☆」
リーザは両手でハートマークを作り、ウィンクを飛ばした。
「私に『五円(銅貨一枚)』をスパチャ(投げ銭)するとね……なんと、めちゃくちゃ御縁があって、丁半博打で勝てちゃう幸運の女神のバフがかかるのよぉ~!!」
「「「なんだってぇぇぇ!?」」」
藁にもすがる思いのギャンブラーたちにとって、「幸運の女神」というワードは劇薬だった。
「ほ、本当か嬢ちゃん! 俺のなけなしの銅貨、受け取ってくれぇ!!」
「俺もだ! 五円スパチャだぁぁ!」
チャリン! チャリン!
リーザの足元に置かれたチップ箱に、次々と銅貨が投げ込まれる。
リーザは満面の笑みでマイク(※厨房から持ってきた大根)を握りしめ、ルナミス帝国のガード下で鍛え上げたあの曲を熱唱し始めた。
♪絶対無敵のスパチャアイドル!!
♪五円が積もれば 山となる!!
「うおおおお!! 女神の歌声だぁぁぁ!」
熱狂する兵士たち。デュアダロスは眉をひそめ、舌打ちをした。
「……チッ。ガキのお遊戯でサイコロの目が変わるかよ。張った張った! ……勝負!!」
デュアダロスが壺を開ける。
出た目は『丁』。
「……よし! 俺たち、全員『丁』に張ってたぜぇぇぇ!!」
「勝った! 女神のスパチャのおかげで勝ったぞぉぉ!!」
「……な、まぐれじゃ」
デュアダロスは冷や汗を拭い、再び壺を振った。
♪御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ!
♪推しの生活 支えてちょーだい!!
「おっしゃあ! もう一回『半』に全ツッパだぁぁ!!」
「リーザちゃんに五円追加スパチャだ!!」
カラカラカラ……カァァァン!!
パッ。出た目は『半』。
「うおおおおおお!! また勝ったぁぁぁ!!」
「すげぇ! リーザちゃんのおかげで大当たりだぁぁぁ!!」
「なっ……!?」
デュアダロスの顔面から、スッと血の気が引いた。
偶然ではない。
人魚姫にして王族の血を引くリーザの「純真な願い(スパチャ欲しい)」が、彼女の歌声に乗って、ガチで『広範囲の極大ラック(幸運)バフ』として機能してしまっていたのだ。
その後も、リーザが歌い続ける限り、客たちは怒涛の連勝を重ねていく。
逆に、胴元であるデュアダロス側の資金は、滝のようにドバドバと流出していった。
♪絶対無敵のスパチャアイドル!!
♪穴の数だけ 幸せあげる!
「あ、あかん……! デュアダロスはん! このままじゃウチのカジノ、一晩で破産しまっせ!!」
ニャングルが算盤を弾きながら、ついに泡を吹いて倒れた。
「や、やめろ……! やめてくれ嬢ちゃん……!!」
つい数分前まで極道の凄みを利かせていた邪神は、今や背中の昇り龍をミミズのように縮み上がらせ、涙目でミカン箱の上のアイドルにすがりついていた。
「ワシの……ワシが何百年も夢見て、やっと手に入れた娑婆のシノギ(鉄火場)が……! 嬢ちゃんの謎のバフのせいで、素寒貧になってまう……!!」
「えっ? でも私、スパチャもらうのやめられないわよ?」
リーザが小首を傾げると、デュアダロスは懐から震える手で『分厚い金貨の束』を取り出し、リーザの手にギュッと握らせた。
「た、頼む……! これ(営業妨害の示談金)を払うから、今日のところは帰ってくれぇぇ……ッ!!」
邪神の、まさかの土下座である。
「わぁっ! 金貨だぁ!!」
リーザは金貨の束と、銅貨でパンパンに膨れ上がったチップ箱を抱え、ホクホク顔でミカン箱から降りた。
「まいどありぃ~☆ それじゃあみんな、また明日ねぇ~!!」
「「「女神様、バンザーイ!!」」」
熱狂する客たちと、灰になって燃え尽きた邪神をカジノに残し。
リーザはルンルン気分で、明日の朝ごはん(サバ缶と高級食パン)を買いにルナミスマートへと駆け出していくのだった。




