EP 9
「成金蛇目の残骸ビジネスと、究極の『甲殻類』解体ショー」
空飛ぶ超巨大空母『轟丸』の広大な飛行甲板。
そこには、弓丸部隊が地上の『天魔窟』周辺から回収してきた、大量の死蟲機の残骸が山のように積まれていた。
「……よし。食える部位(腹肉や脚)と、食えない部位(魔導回路や装甲板)の分別は終わったな」
リアンが腕組みをして頷いた、その時である。
甲板の端から、けたたましいヘリコプター(魔導式)のプロペラ音が鳴り響き、一人の男が揉み手をしながら猛ダッシュで近づいてきた。
「リアン様ァ! またド派手にやらかしたみゃあ! こりゃあ極上の魔導スクラップだぎゃ!」
全身を成金趣味の極彩色スーツで包み、首には太い金のネックレス。パチンコ屋の社長のような風貌の蛇目族――ゴルド商会長、オロチ(50歳)である。
彼はリアンから流れる「ネット通販の地球物資」で巨万の富を築き上げた男であり、リアンに対しては狂信的なまでの忠誠(と銭の匂い)を抱いていた。
「この強固な装甲板に、未解明の動力パイプ……! うちの商会で買い取れば、莫大な利益が出るみゃあ! リアン様、全部わしに卸してちょーでゃあ!!」
オロチがヨダレを垂らしながら金貨の詰まったアタッシュケースを開けようとした、その瞬間。
残骸の山の陰から、鋭い猫撫で声が飛んだ。
「ちょーい待ちぃや!! 横からしゃしゃり出てくんなや、成金ヘビおやじ!!」
シャアァッ!と毛を逆立てて飛び出してきたのは、ポポロ村の裏経済を(一応)仕切る商人猫、ニャングルであった。
「このポポロ村はワイのシマやで! リアンはんの出す極上のおこぼれ(スクラップ)は、ワイが一番に買い取るっちゅー縄張りの掟があんねん! すっこんどれ!」
「にゃにィ!? たかが村のケチな行商人ごときが、このゴルド商会長のオロチ様に口答えする気だぎゃ!? 資金力が天と地ほど違うみゃあ!」
バチバチバチッ!!
甲板の上で、名古屋弁の巨大商会長と、関西弁の商人猫による、醜くも熱い『銭儲け(シノギ)の縄張り争い』が勃発した。
「ワイかて意地があんねん! 金貨50万G、即金で払うでっせ!」
「甘い、甘すぎるだぎゃ! わしは金貨100万Gに、ルナミス帝国のタワーマンション最上階の権利書をつけるみゃあ!」
「ぐぬぬ……! 資本の暴力や……! せ、せやったらワイは、キャルルはんの隠し撮りブロマイド(非売品)を……!」
「おみゃあ、それ犯罪だぎゃ! リアン様に消されるみゃあ!」
ギャーギャーと騒ぎ立てる二人の商人を前に、リアンは氷のように冷たい視線を向けた。
「……おい」
リアンの低くドス黒い声に、オロチとニャングルの背筋がピッと凍りつく。
「俺の甲板で騒ぐな。……スクラップは『金貨150万G』でオロチに卸す。ニャングル、お前にはその運搬の『下請け』を任せる。上前はくれてやるから、これで手を打て。文句がある奴は、あの空丸(機械竜)のプラズマ砲の的にするぞ」
「「ひぃぃっ! は、はいぃぃ!! まいどありぃぃ!!」」
圧倒的な暴力と、完璧な黒字経営の采配。
リアンの一言で、バチバチの縄張り争いは「元請け」と「下請け」という見事なピラミッド構造に収束した。二人は肩を組み、ホクホク顔でスクラップの山を運び出し始めた。
究極の『甲殻類』解体ショー
邪魔なゴミ(非食用スクラップ)が片付き、甲板の中央に残されたのは、リアンが厳選した『食用』の部位だけだった。
巨大な死王蟻の腹部。
死甲虫の太く身の詰まった脚。
見た目は完全にグロテスクな巨大昆虫の死骸である。常人なら直視することすら避けるだろう。
「……さて。邪魔者も消えたし、極上の仕込みといくか」
リアンはエプロンの紐をキュッと締め直し、右手を虚空に伸ばした。
バチバチッ!と紅き雷光が走り、リアンの手に一振りの刃が握られる。
持ち主の感情に呼応して威力が跳ね上がる神殺しの伝説武具――『雷霆』。
だが、今のリアンの手にあるそれは、武器ではなく『至高の出刃包丁』として顕現していた。
「いくぞ」
シュパァァァァンッ!!
リアンの腕がブレた。神速の刃が、死王蟻の硬い甲殻の隙間を完璧な角度で滑り込む。
魔物の硬い装甲が、まるで薄い紙のようにスパスパと切り裂かれていく。
「フッ!」
リアンが包丁を捻り、殻をベリッと剥ぎ取った。
その瞬間――。
「……完璧だな」
グロテスクな外殻の下から姿を現したのは、透き通るような白と淡いピンク色が混じり合う、『極上の特大エビ(あるいはカニ)』と全く同じ、プリプリの美しい身であった。
リアンは息をつく間もなく、次々と死蟲機の解体を進める。
太い脚の殻を割り、中からズワイガニのように太い身をスポンッと抜き出す。
頭部と殻の隙間からは、濃厚で黄金色に輝く『極上のミソ』をボウルにたっぷりと掻き出した。
トトトトトトッ!!
さらに、魔法ポーチから取り出した地球のニンニクを、目にも留まらぬ速さで微塵切りにしていく。
熱した巨大な鉄板に、たっぷりのバターとオリーブオイル、そして刻んだニンニクを投入。
ジュワァァァァァァァァッ!!!
艦内の甲板に、暴力的なまでの『ガーリックバター』の香ばしい匂いが爆発した。
「……ふふっ。いい匂いだ」
リアンは不敵に笑い、解体したばかりの『死蟲機』の特大肉を、容赦なく熱々の鉄板へと放り込んだ。
ジュゥゥゥゥッ!! という心地よい音と共に、透き通っていた身が鮮やかな紅色へと染まり、食欲を狂わせる海の幸の香りが、夜空へと立ち昇っていく。
時を同じくして。
艦内の『スーパー魔導温泉』で極楽を満喫していた神々たちの鼻腔に、その絶対的な匂いが到達した。
「……ッ!? な、なにこの匂い!!」
「ヤバい! バターとニンニクと……すっげぇ美味そうなエビの匂いがするぞ!!」
パチンコを打っていたフェンリルも、温泉に浸かっていたフレアたちも、慌てて服(館内着)を着て甲板へと全速力で駆け出していく。
戦火の残骸ビジネスは終わり、いよいよポポロ村(空母の甲板)は、熱狂の『シーフードBBQパーティー』へと突入しようとしていた。




