EP 8
「空母(轟丸)の内部は極楽パラダイス? 癒やしの艦内ツアー」
「ひぃぃぃ……! な、なんやアレは……!!」
ポポロ村の広場で、村人たちが空を見上げて震えていた。
無理もない。村の上空には、全長数百メートルにも及ぶ黒鉄の超巨大空母『轟丸』が、轟音と共に威圧的にホバリングしているのだ。
死蟲軍という絶望が去った後に、さらなる意味不明な絶望(大質量)がやってきたと勘違いするのも無理はない。
そんな中、ポポロ屋の勝手口からエプロン姿のリアンがダルそうに出てきた。
「おい、お前ら。騒ぐな。あれは俺の『厨房』だ」
「「「ちゅ、厨房……!?」」」
村人たちがポカンとする中、コタツからようやく這い出してきた神々――ルチアナ、フレア、フェンリル、そしてイグニスとキャルルが、リアンの元へ駆け寄ってきた。
「ちょっとリアン! なにあれ!? すっごいデカい鉄の塊が浮いてるんだけど!」
「あーあ、俺様の出番(パチンコからの現実逃避)が完全に無くなっちまったじゃねぇか」
ギャーギャー騒ぐ神々を、リアンは面倒くさそうに手で制した。
「うるせぇな。あの中で、さっき仕入れた『極上のシーフード』の解体と下ごしらえをするんだ。お前らも来るか?」
「「「行く!!!」」」
飯の匂いを嗅ぎつけた神々の返事は、驚くほど早かった。
◇ ◇ ◇
シュゥゥゥゥ……。
リアンの転移魔法陣によって、一行は轟丸の広大な飛行甲板へと降り立った。
見渡す限りの鉄の床。並び立つミサイルポッドと対空砲。そして、甲板の端には巨大機械竜『空丸』が静かに羽を休めている。
「なぁになぁにこれ? すっごぉい! 乗っていい? リアン君、これ乗っていい!?」
キャルルが目をキラキラさせながら、空丸の装甲によじ登ろうとしている。(※ウサギの跳躍力で本気を出されたら装甲が凹むので、リアンが急いで止めた)
「……全く。ここは兵器庫であり、俺の城だ。勝手に触るなよ」
リアンがため息をつきながら歩き出すと、ルチアナが不満そうに口を尖らせた。
「え~、ただの鉄の塊じゃない。なんか油臭いし、殺風景だし……もっとこう、ワクワクするような場所はないわけ?」
「……フッ。神の分際で、人間の技術(叡智)を舐めるなよ」
リアンは不敵に笑い、甲板に設置された巨大なエレベーターのボタンを押した。
「中に『娯楽施設』があるから、飯の準備ができるまで遊んでいくか?」
エレベーターがゆっくりと下降し、轟丸の内部層へと一行を導く。
扉が開いた瞬間――神々は、絶句した。
「えっ……?」
そこに広がっていたのは、無骨な軍事施設ではなかった。
ピカピカに磨かれた大理石の床。
優雅なクラシック音楽が流れる、広々としたラウンジ。
壁一面に設置された最新型のマッサージチェア。
そして、奥の扉からは、色鮮やかなネオンの光と共に、あの『ジャラジャラ』という魅惑の音が響いている。
「パ、パチンコだぁぁぁぁぁ!!」
フェンリルが狂喜乱舞し、ネオン輝くカジノ(遊技場)ルームへと猛ダッシュしていった。
「あっちには『スーパー魔導温泉(露天風呂付き)』もあるぞ。タオルと館内着はそこから勝手に持っていけ」
「温泉!? しかも露天風呂!? キャアアアア! リアン、最高じゃないの!!」
肌荒れを気にしていた不死鳥フレアが、一目散に温泉ののれんをくぐっていく。
ルチアナも「お風呂の後は、ここの無料アイス食べるわよ!」と大はしゃぎで後に続いた。
「わぁ~! ゲームセンターまであるですぅ! イグニス、一緒にクレーンゲームやりましょう!」
「お、おうッス! キャルル、クレーンアームをへし折らないでくれよ!?」
つい数十分前まで「世界の危機」が迫っていたはずなのに。
今や超巨大空母の内部は、神々と獣人たちの欲望を満たす『極楽パラダイス(スーパー銭湯)』と化していた。
「……たく、平和な連中だ」
リアンは一人、その光景を鼻で笑いながら、艦内の奥にある『特大キッチンルーム』へと向かった。
そこにはすでに、弓丸部隊によって回収された『死蟲機』の部位が、山のように積まれている。
「さて、極上のBBQの準備といくか。……あ、その前に一仕事あったな」
リアンは包丁を研ぐ手を止め、甲板へと続くエレベーターを振り返った。
戦場の後片付け(と、莫大な利益を生むビジネス)の時間である。




