EP 10
「甲板デッキの極上シーフードBBQと、勝利の打ち上げ花火」
エレベーターの扉が開いた瞬間、神々と獣人たちは理性を完全に吹き飛ばされた。
「お、おおお……! なんちゅう暴力的な匂いじゃ……!!」
「リアン! それ! その鉄板で焼いてるやつ、早く食べさせてぇぇ!!」
超巨大空母『轟丸』の飛行甲板。
夜風が吹き抜ける広大なデッキの中央には、特設の巨大鉄板が用意されていた。そこでリアンが豪快にコテを振るい、赤く染まった巨大なエビ(のようなもの)を焼き上げている。
焦げるバターとニンニクの香り。そして、醤油が鉄板で焼ける香ばしい匂いが、館内着(スーパー銭湯スタイル)の神々の胃袋を容赦なく締め上げた。
「騒ぐな。今出来上がったところだ。……ほらよ、ポポロ屋特製・『特大エビのガーリックシュリンプ』と、『巨大カニ脚のバター醤油焼き』だ」
ドンッ!!
大皿に山盛りになって出されたのは、プリプリに弾ける極太の身。
フェンリルが我慢できずに手掴みでガーリックシュリンプに噛み付いた。
サクッ……ジュワァァァァッ!!
「……ッッ!!??」
フェンリルの瞳孔が、限界まで見開かれた。
「ウ、ウメェェェェェ!! なんだこの凄まじい弾力!? 噛んだ瞬間に、濃厚な海鮮の旨味とニンニクのパンチが爆発しやがる!! ビールだ! リアン、生中持ってこい!!」
「俺もッス! このカニ脚……醤油とバターの焦げた匂いがたまんねぇ! 身が甘くて、口の中でトロけるッス!」
イグニスとフェンリルが、涙を流しながら無我夢中で甲殻類の身を貪り食う。
「ふふっ。お前ら、それだけじゃないぞ。……こっちが本命だ」
リアンが次にテーブルへ置いたのは、深皿に注がれた黄金色のスープだった。
頭部から掻き出した『ミソ』をベースに、生クリームと白ワインでじっくりと煮込んだ**『濃厚海鮮ビスクスープ』**である。
「はぁん……♡ すっごくいい香り……」
不死鳥フレアがスプーンでスープをすくい、一口飲んだ瞬間。
彼女の背中から、無意識のうちに美しく燃え盛る不死鳥の炎の翼がバサァッ!と現れた。
「……信じられない……!! 甲殻類の旨味が、これでもかってくらい凝縮されてるわ! 濃厚なのに生クリームでまろやかになってて……エステの100倍、お肌と心に潤いが満ちていくぅぅ……♡」
「あ~、これヤバい。ご飯にかけてリゾットにしたいわぁ。私、もう天界に帰りたくな~い」
ルチアナも完全に堕落した顔で、スープの皿を舐めるように空にしていく。
キャルルも「ほっぺたが落ちちゃいますぅ!」とウサギ耳をパタパタさせて大喜びだ。
全員が多幸感に包まれる中、ふとルチアナが首を傾げた。
「ねぇ、リアン。これ、すっごく美味しいんだけど……こんな極上のエビやカニ、ポポロ村のどこで仕入れたの? 海なんて近くにないわよね?」
ピタリ、と。
神々たちの動きが止まり、全員の視線がリアンに向けられた。
リアンはトングでカニ脚をひっくり返しながら、ニヤリと悪役のように笑った。
「ん? お前ら、さっきまで上空から見てただろ」
「「「……え?」」」
「数万匹の、最高に新鮮な『エビやカニ』が、天魔窟からわざわざ歩いてきてくれたじゃねぇか。……お前らが『キモい』って言って丸投げした、Aランク魔物の『死蟲軍』だよ」
――静寂。
神々の顔が、一瞬だけ青ざめた。
今、自分たちが「美味しい、美味しい」と涙を流して貪り食っていたのは、あの強酸を吐き、グロテスクに蠢いていた巨大昆虫のバケモノだったのだ。
「あ、あのキモい虫を……私、食べて……」
「お、俺は……あのバケモノを……」
一瞬の葛藤。
しかし、彼らの視線は再び、目の前の鉄板でジュージューと音を立てる『バター醤油焼き』へと引き寄せられた。
理屈(見た目)か、本能(食欲)か。
答えは、コンマ一秒で出た。
「「「死蟲機、最高ォォォォォォ!!!」」」
もう誰も気にしなかった。
見た目がバケモノだろうが、魔王軍の刺客だろうが関係ない。リアンの手にかかれば、それらはすべて『極上の食材』に過ぎないのだから。
再び大熱狂のBBQパーティーが再開され、甲板の上には底抜けに明るい笑い声が響き渡った。
◇ ◇ ◇
「……賢者君」
宴の熱気から少し離れた甲板の端で、リアンは静かに空を見上げた。
『ヒア・アイ・アム! キャプテン! いかがいたしましたか?』
「食後の余興だ。……『照明弾』の射出準備。最大出力で構わねぇ。……たまには平和利用も悪くねぇだろ」
『イエッサー!! 照明弾、花火モードへ移行! ファイヤー!!』
ズドォォォォォンッ!!
轟丸のミサイルハッチから、数十発の照明弾が夜空に向けて一斉に打ち上げられた。
それは本来、夜間戦闘で敵をあぶり出すための軍事兵器である。しかし、高度数千メートルで炸裂した光は、赤、青、緑と鮮やかな軌跡を描き、ポポロ村の夜空に極大の『打ち上げ花火』となって咲き誇った。
「うわぁぁぁぁっ!! すごい!!」
「たまやぁぁぁ!!」
キャルルが飛び跳ねて喜び、フェンリルやイグニスが酒の入ったジョッキを高く掲げて歓声を上げる。
ルチアナとフレアも、夜空を彩る光の花に見惚れながら、幸せそうに微笑んでいた。
絶望をもたらすはずだった死蟲軍は極上のBBQに変わり、空を覆う巨大兵器は美しい花火を打ち上げている。
絶対的な暴力と、圧倒的な料理の腕によって、世界は今日も完全に平和に保たれていた。
「……ふぅ」
リアンはエプロンで手を拭いながら、騒がしくも楽しげな神々と村人たちの背中を眺めた。
裏社会の血生臭い暗殺の仕事も、現代兵器による一方的な蹂躙も、結局は、この『美味い飯を食って笑う時間』を守るためのスパイスに過ぎない。
色鮮やかな花火の光が、リアンの横顔を優しく照らす。
彼は不敵な、それでいてどこか柔らかな笑みを浮かべ、夜空に向かって静かに呟いた。
「さて、明日は定食屋の仕込みだ。……また騒がしい一日になりそうだな」
最強暗殺公爵による、異世界定食屋の「美味しい無双(勘違い)」は留まることを知らない。
ポポロ村の平和と胃袋は、明日もリアンの包丁によって完全に支配されるのであった。




