EP 6
「戦略空母『轟丸』抜錨! 剣と魔法の世界に降るプラズマの雨」
「……出てこい、俺の厨房(艦隊)よ」
リアンが手元のスイッチを押し込んだ瞬間。
ポポロ村の上空を覆っていた分厚い暗雲が、圧倒的な大質量の『何か』によって真っ二つに引き裂かれた。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォ……ッ!!!
空気が震え、大気が悲鳴を上げる。
太陽の光を完全に遮り、ポポロ村の上空に姿を現したのは、神話のドラゴンでも巨大魔法陣でもない。
黒光りする強固な装甲。無数に立ち並ぶ対空砲火(CIWS)とミサイルハッチ。そして、はるか彼方まで続く広大な飛行甲板。
リアンのチート能力の結晶、【召喚・極】――空飛ぶ超巨大戦略空母打撃艦隊『轟丸』であった。
「な、なんやあれは……!?」
「空に、鉄の島が浮かんどるで……!」
村人たちが腰を抜かし、コタツで堕落していた神々すらも、ミカンを落として空を見上げている。
剣と魔法のファンタジー世界に、現代(あるいは未来)の超巨大ミリタリー兵器が君臨した、圧倒的に場違いな光景だった。
リアンは静かに目を閉じた。
彼の意識は、ポポロ屋の厨房から一瞬にして『轟丸』の艦橋にある指揮官用アバター・くるみ割り人形の『センチネル』へとダイブする。
目を開けると、そこは無数の計器が青白く光る最新鋭のブリッジだ。
『――システム・オンライン。生体認証クリア。お帰りなさいませ、キャプテン!』
スピーカーから、元気で少しミリタリー調のAI音声が響き渡った。
轟丸の全システムを統括する自動AI『賢者君』である。
「状況を報告しろ、賢者君」
『イエッサー! 進路クリア! 飛行甲板にて、巨大機械竜『空丸』10機のハッチオープン、発着準備完了! 降下猟兵『弓丸』部隊10,000体、スタンバイOKです! いつでも行けます、キャプテン!』
センチネル(リアン)の網膜ディスプレイに、眼下で蠢くおぞましい死蟲軍の群れが映し出される。
数は数万。しかし、リアンの目にはそれがただの『大量の殻付きエビ』にしか見えていなかった。
「……まずは前菜だ。生意気に最前線でイキってる連中を、跡形もなく消し飛ばせ」
『了解! イエッサー! ゴーゴー! 全てを殲滅しろ! 死蟲機どもの尻を容赦なく蹴飛ばしてこい!!』
賢者君のテンションMAXの号令と共に、轟丸の甲板から10機の巨大な機械竜『空丸』が、鼓膜を劈くジェットエンジン音を響かせて空へ飛び立った。
キュイィィィィン……!
ピピピピピピピピピッ!!
空丸の赤いセンサー眼が発光し、眼下の死蟲軍の最前線部隊(死蟻型や死甲虫型)を一瞬にして捉える。
1機につき100体。10機で合計1,000体の目標を同時捕捉する『マルチ・ロックオン』。
「全てを灰にしろ」
リアンが冷酷に命じた、次の瞬間。
ズドドドドドバババババァァァァァァンッ!!!!
空丸たちの顎から、超高熱のプラズマ砲が雨あられのように撃ち下ろされた。
それは、魔法陣も詠唱も必要としない、純粋で絶対的な『科学兵器の暴力』。
「ギ、ギィィィィィ!?」
「ガチチチチッ!?」
強固な装甲を誇っていたはずの死甲虫も、酸を吐き出そうとしていた死蟻も、プラズマの直撃を受けた瞬間に甲殻ごとドロドロに溶解し、爆発四散していく。
剣と魔法の世界のバケモノたちは、オーバーテクノロジーの絨毯爆撃の前に、反撃の糸口すら掴めないまま文字通り「一瞬で蒸発」していった。
◇ ◇ ◇
「……………………」
一方その頃。
天魔窟の薄暗いモニタールーム。
死蟲軍の指揮官である魔人ギアンは、モニターに映し出されたその光景を前に、握りしめていたエナジードリンクの缶をポロリと床に落としていた。
ボシュゥゥ……と、床に零れた炭酸飲料が泡を立てる音だけが、静まり返った部屋に虚しく響く。
「……え」
ギアンは震える手で、道化師の仮面に触れた。
ピキッ、と。彼自身の動揺によって、仮面に小さなヒビが入る。
「……は……?」
彼が見ていたモニターの映像。
そこには、自分が手塩にかけて育てた『絶望の最前線部隊』が、見たこともない鉄のバケモノ(空母と機械竜)から放たれた極太の光線によって、ゴミのように消し飛ばされる瞬間が記録されていた。
魔法ではない。神の奇跡でもない。
意味がわからない。何が起きたのか、頭の処理が全く追いつかない。
「な、なんだよアレ……。ウソだろ? 俺の、俺の死蟲軍が……」
インテリジェンスを気取っていた残忍な魔人の顔が、信じられないバグ(理不尽)に遭遇した「ただのゲーマー」の顔へと歪み始めていた。
だが、彼にとっての本当の絶望は、この後に降り注ぐ『容赦のない物理兵器による乱獲』によってもたらされることになる。




