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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 14

「三つ巴のカチコミ! 競馬新聞、オタ活、そして聖槍」

 ポポロ屋の裏手に張られた、むせ返るような熱気と串カツの匂いが充満する『カジノ・ポポロ』の巨大テント。

 その一番奥の薄暗いテーブル席で、一人の男が「ルナミス競馬新聞」を広げ、赤ペンを耳に挟みながらブラックコーヒーを啜っていた。

「……ふぅ。やれやれ、魔王ラスティアが国庫を横領して失踪したおかげで、事後処理に追われて危うくメインレースの予想に遅れるところだったぜ」

 アバロン魔皇国の中間管理職、ルーベンス魔公爵である。

 彼は激務から逃避するため、空間転移魔法を使ってこっそりとポポロ村に潜入し、至福の休日(競馬予想とギャンブル飯)を満喫しようとしていたのだ。

「さて、今日の第三レースは……ん?」

 ルーベンスが新聞に赤ペンを走らせようとした、その時。

「ルチアナ~! 遊びに来たわよーっ☆」

 バサァッ!!と、テントののれんが乱暴にめくられた。

 入ってきたのは、全身に『朝倉月人(20)』の限定缶バッジをジャラジャラと装備し、手にはホログラム仕様の推し活うちわを持った芋ジャージの女。

「ゲッ!? ラ、ラスティア様!?」

 ルーベンスは慌てて競馬新聞で顔を隠した。

 なぜ、絶対魔王がこんな辺境のギャンブルテントに!? しかも、その手にある軍資金(国庫の金)で丁半博打を始める気か!?

 だが、ルーベンスの胃痛が限界を突破するよりも早く、さらに最悪の事態がテントを襲った。

 ドゴォォォォォンッ!!

 テントの入り口が、凄まじい黄金の雷光によって吹き飛ばされた。

「……そこまでです、堕落した者たちよ!!」

 逆光の中に現れたのは、黄金の翼を広げ、怒りに満ちた目で『聖槍グラニ』を構える天使族族長・ヴァルキュリアであった。

「ひぃぃっ! 風紀委員長だぁぁぁ!」

「や、ヤバい! 逃げろぉぉ!」

 カジノで丁半博打に興じていた若い天使たちが、蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げて逃げ惑う。

「(な、なんで天界のトップまで!? どうなってんだこの村は!!)」

 ルーベンスは新聞の陰でガタガタと震えた。

 魔王、天使族族長、そして魔公爵。本来なら世界を巻き込む最終戦争ハルマゲドンが起きるレベルのトップ3が、串カツの匂いが漂うテントの中に奇跡の鉢合わせを果たしてしまったのである。

「あら? 誰かと思えば、生真面目天使のヴァルキュリアじゃない」

 推し活うちわを持ったラスティアが、鼻で笑った。

「こんな所まで何の用よ? まさか、あんたも月人君のファンクラブに入りたいの?」

「ふざけないでください、魔王ラスティア! 私はこの邪悪な洗脳と堕落の村を、聖槍の雷で浄化しに来たのです!!」

 ヴァルキュリアの黄金の神気と、ラスティアの漆黒の魔力が、テントの中でバチバチと激突し、空間が軋みを上げる。

「(ヤバいヤバいヤバい! ここでコイツらが本気で激突したら、俺の休日どころか世界が終わる!)」

 ルーベンスは冷や汗を滝のように流しながら、なんとか逃げ道を探そうとテントの奥(ポポロ屋の厨房側)へと視線を向けた。

 ――そして、彼は見てしまったのだ。

「……おい、新入り。グラスの拭きが甘いぞ。水滴の跡が残っとるやないけ」

「うるせぇな……。今拭いてるだろ、極道気取りのオッサンがよ……ヒック……」

 厨房の奥の洗い場。

 そこには、ピンクのフリフリエプロンを着て皿を洗うインテリヤクザ邪神デュアダロスと、ゴム手袋をはめて涙目でジョッキを磨く狼王フェンリルの姿があった。

「……………………は?」

 ルーベンスの思考が、完全に停止した。

 魔皇国の歴史書にも載る、世界を二分した最恐の邪神。そして、絶対零度で大地を氷河期に変える調停者・狼王。

 その二柱が、並んで……皿を洗っている……?

「(ば、馬鹿な……!! あの伝説のバケモン二人が……ただの定食屋で下働き(シノギ)をさせられているだと!?)」

 ルーベンスの視線が、厨房の中央で黙々と『特大味噌カツ丼』を揚げている男――元暗殺者の店主リアンに向けられた。

「(あの男……! 邪神と狼王をアゴで使い、三国を武力で平伏させ、さらに神々を一つの場所に集結させている……! こいつ、どんだけ恐ろしい裏のカリスマを持ってやがるんだ!!)」

 有能な中間管理職ゆえの、深すぎる勘違い(深読み)。

 ルーベンスは、リアンの放つ「ただの料理に対する執念」を、「世界を裏から支配する覇王の覇気」だと完全に誤認し、恐怖のあまり膝から崩れ落ちそうになっていた。

 一方その頃。

 一触即発のヴァルキュリアの視界に、絶対に許してはならない『ある光景』が飛び込んできた。

「はぁ~。やっぱ仕事(何もしないこと)の後のタバコは美味いわねぇ」

 テントの隅に持ち込まれたコタツ。

 そこで、ヨレヨレの芋ジャージを着た創造神ルチアナが、スルメをかじりながら『ピアニッシモ・メンソール』をスパーッと吹かし、手元のスマホで『タロ・イーツ』のデリバリー画面をスクロールしていた。

「あ、ルチアナ先輩! 私のすまーとふぉんで勝手に課金しないでくださいよぉ! もう限度額……!」

「うるさいわねぇリリス、後で天界の経費で落とすからいいのよ」

 ピキッ。

 ヴァルキュリアの頭の中で、何かが完全にブチ切れる音がした。

「ルゥゥゥ・チィィィ・アァァァ・ナァァァ様ァァァァァァ!!!」

 ヴァルキュリアの怒声が、カジノのテントを揺るがした。

「ゲッ!? ヴァルキュリア!? なんでこんな所に!?」

「あなたが天界の予算を使い込んでいるせいで、私の書類仕事がどれだけ増えていると思っているのですか!! 今日という今日は……絶対に逃しません!!」

 ヴァルキュリアは聖槍グラニを放り投げると、もの凄いスピードでルチアナに詰め寄り、コタツの横の壁に両手で『激しい壁ドン』をキメた。

「ヒッ……!!」

「ここから5時間。私の『規律と愛の正座説教』を受けていただきますからね。覚悟なさい……!!」

 魔王、天使族族長、魔公爵。そして創造神。

 役者がすべて揃い、ポポロ村のテント内は、世界滅亡か、あるいは究極の修羅場かという、かつてない極限の緊迫感に包まれた。

 ――しかし、この後。

 彼らの怒りと争いを一瞬で無に帰す「伝説の歌」が、ポポロ屋の有線放送から流れ出ることになるのだが。

 今はまだ、誰もその結末を知る由もなかった。

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