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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 13

「リリスの初心者マークと、連結されたクレジットカード」

 カランコロン。

 昼時のポポロ屋の扉が開き、ペタペタと気の抜けた足音が店内に響いた。

「わぁ~! ここが本物のポポロ屋ですね! いっつも『タロ・イーツ(天界からのデリバリー)』で頼んでましたけど、やっぱり出来立ての匂いは最高ですぅ!」

 ピンク色のジャージに身を包み、左胸にはなぜか『初心者マーク』の刺繍。そして足元は天界指定の健康サンダルという、およそ神族とは思えない気の抜けた出で立ちの少女――見習い女神のリリスであった。

「ルナキン(リアン特製・日替わりランチ)のメガ盛りと、飲む太陽芋のミルク割り! それからカジノの串カツも追加でお願いしますぅ!」

 カウンターに座るなり、リリスは凄まじい勢いで注文を連発した。

 ルチアナ(先輩女神)から「下界の視察」という名目で使いっ走りにされたのだが、本人の目的は完全に「ポポロ屋でのドカ食い」である。

「……よく食うな。お前さんで、もうご飯のおかわり三杯目だぞ」

 リアンが呆れたように空になった茶碗を受け取る。

 いくら神族とはいえ、見た目は華奢な17歳の少女だ。その小さな腹のどこに消えていくのか。

「えへへ~、美味しいから無限に入っちゃうんですぅ。モグモグ……あ、お会計はこれでお願いします☆」

 リリスはジャージのポケットから、キラキラと輝く『エンジェルすまーとふぉん』を取り出し、リアンが差し出した魔法の決済端末にピピッとかざした。

 ――『ピピーッ! 警告。ルチアナ名義・魔法クレジットカード、利用可能枠(1,000,000G)まで残り【350G】です。』

 端末から、無機質で冷酷なエラー音声が流れた。

「ん? あれぇ? なんか赤いランプが点滅してますよぉ?」

「……おい。おというよりルチアナ、カードの限度額が完全に天井に張り付いてるぞ。これ以上食ったら無銭飲食になるが、払えるのか?」

「えっ!? う、うそぉ!? この間までまだ10万Gくらい余裕があったのに……あっ! ルチアナ先輩、また『月人アイカツ(ソシャゲ)』のガチャで天井まで回したんだ……!!」

 リリスは真っ青になって頭を抱えた。

 ポポロ村の極上飯と、ダメ女神のソシャゲ課金。その二つの欲望が合わさり、ルチアナの口座はついに「完全ブラック(破産寸前)」へと至っていたのだ。

「ひぃぃぃ……! こ、これ以上食べたら、私が店の裏で皿洗いにされちゃいますぅ……!」

 リリスはガタガタと震えながら、残った串カツのキャベツをちびちびと齧り始めた。

 ◇ ◇ ◇

 その頃、ポポロ村の入り口。

 上空から、黄金の神気を纏った一団が、厳かに、そして圧倒的な威圧感を放ちながら降臨していた。

「……ここが、我が天界の若き天使たちを堕落させたという、諸悪の根源……ポポロ村ですか」

 天使族族長、ヴァルキュリアである。

 彼女は片手に『聖槍グラニ』を握りしめ、背中の黄金の翼を大きく広げていた。その後ろには、精鋭たる聖騎士軍がズラリと並んでいる。

「カジノという名の欲望の渦。そして、堕落の味覚……。どのようなおぞましい光景が広がっているかと思えば……む?」

 村に足を踏み入れたヴァルキュリアは、予想外の光景に目を丸くした。

 そこには、ルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国という、本来なら血みどろの争いをしているはずの三国の兵士たちがいた。

 しかし、彼らは争うどころか、全員で仲良くほうきを持ち、村の道をピカピカに掃き清めていたのである。

「(な、なんと……! いがみ合っていた三国が、手を取り合って奉仕活動を……!? これは一体……)」

 ヴァルキュリアが混乱していると、そこへ、カゴを持ったキャルルが買い物帰りに通りかかった。

「あ、みんな! 今日もお掃除ありがとうねぇ。頑張ってね☆」

 キャルルが(満月の夜の記憶が全くないまま)無邪気に手を振った、その瞬間だった。

 数百人の屈強な兵士たちが、一斉にほうきを置き、軍靴の踵をガチッと鳴らして直角90度に腰を折った。

「「「チーッス!! 姉御ォォォォォ!! お疲れ様ですゥゥゥ!!!」」」

「「「姉御の歩く道、俺たちがチリ一つ残さず磨き上げますゥゥゥ!!!」」」

 顔面を蒼白に引きつらせ、ガタガタと震えながら絶叫する兵士たち。

 その光景を見たヴァルキュリアの背筋に、ゾクリと冷たい悪寒が走った。

「(ば、馬鹿な……!! 歴戦の猛者である三国の兵士たちが、たかが一匹の月兎族の少女に対し、これほどの恐怖と服従を示しているだと!?)」

 ヴァルキュリアの脳内で、とんでもない方程式が完成してしまった。

「(純粋な暴力や恐怖だけでは、あの狂犬のような三国をあそこまで完璧に統率することは不可能です。……間違いない。あのウサギ、対象の精神を根底から作り変える『極大の洗脳魔法マインドコントロール』を使っているのですね!!)」

 事実、キャルルは「物理的な暴力(破壊と再生の無限ヤキ)」だけで彼らを調教したのだが、生真面目なヴァルキュリアにはそんなヤクザ顔負けの所業など想像もつかなかったのだ。

「なんという悍ましい村……! 天使たちが帰ってこないのも、あのウサギの恐るべき洗脳のせい……!」

 ヴァルキュリアは怒りで唇を噛み締め、聖槍グラニを天高く掲げた。

 黄金の神気が、バリバリと雷鳴を伴って村の空を覆い始める。

「許しません! 私が直々に、この邪悪なる洗脳の根源を断ち切り、ポポロ村を完全浄化して差し上げます!! 全軍、突撃準備ィ!!」

 勘違いが勘違いを呼び、正義感という名の最も厄介な暴走が始まろうとしていた。

 一方で、村の反対側からは「朝倉月人」の限定グッズをじゃらじゃらとぶら下げた芋ジャージ姿の魔王ラスティアも、陽気な足取りで近づいてきている。

 世界の頂点に立つ者たちの「最悪の鉢合わせ(三つ巴のカチコミ)」まで、あと数分。

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