EP 4
「劇的! ビフォーアフター ~公爵家の裏技(ネット通販)を添えて~」
村の中心から少し離れた、小高い丘の上。
キャルルが案内してくれたのは、かつては立派だったであろう一軒の屋敷だった。
「……ここよ」
ギィィィ……。
錆びついた門を開けると、そこには「お化け屋敷」と呼ぶに相応しい廃屋が鎮座していた。
屋根は半分抜け落ち、壁は怪しげな蔦に覆われ、窓ガラスは一枚も残っていない。庭にはいつから放置されているのか分からない粗大ゴミの山ができている。
キャルルはひどく申し訳無さそうに、自慢の長い耳をぺたんと垂れ下げた。
「ごめんね、リアン君……。村の空き家で、店舗としても使えそうな広さがあるのはここしかなくて。せっかくお店を出すって言ってくれたのに、こんな所しか用意出来なくて……」
彼女は村長として、命の恩人であり専属シェフ(予定)の男に、こんなボロ屋をあてがうことを本気で恥じているようだ。
だが、俺――リアン・クラインは、むしろ口角を上げた。
「構わない。むしろ好都合だ」
「えっ? でも、雨漏りするし、床もフカフカで抜けそうだし……」
「基礎さえしっかりしていれば問題ない。それに、中途半端に人が住んでいた痕跡があるより、サラ地の方がやりやすいからな」
俺は腕まくりをした。
前世の知識と、現世のチート魔法。そして『現代の物流』があれば、家一軒建てるなど造作もない。
「見ていろ。――一瞬で新築にしてやる」
俺は廃屋の玄関ホールに立ち、指を鳴らした。
「出ろ、『喰丸』」
ボヨンッ!
足元の空間から飛び出したピンク色のワームが、期待に満ちた目で(目はないが気配で分かる)俺を見上げる。
「仕事だ。この屋敷の『ゴミ』判定されるものを全て食え。カビた木材、腐った家具、割れたガラス、害虫……全部だ」
「キュイ!!」
喰丸が歓喜の声を上げ、猛然とダッシュした。
その捕食スピードは圧巻だった。
バクバクバクバク!
腐った床板を掃除機のように飲み込み、崩れた天井の残骸をブラックホールのように吸い込み、庭の雑草ごとゴミ山を文字通り「消滅」させていく。
「えっ、ちょっ、ええええええええええええ!?」
キャルルが目を白黒させている間に、わずか数分で、お化け屋敷は「骨組みだけの綺麗なスケルトン状態」になった。
暗殺の証拠隠滅以外で喰丸が役に立った瞬間である。
「掃除完了。次は資材だ」
俺は虚空に手をかざし、俺だけのユニークスキル『ネット通販』を発動させた。
脳内に浮かぶホログラムの検索ウィンドウに「建材 リフォームセット 業務用」と打ち込む。支払いには、公爵家時代に貯め込んだ莫大な裏金(魔石)が自動換算されるシステムだ。
「ポチッとな」
ドサササササッ!!
何もない上空の空間が歪み、大量の段ボール箱や木材、漆喰の袋が雨のように降り注いできた。
見慣れた「笑顔の矢印マーク」が入った箱の山に、キャルルが腰を抜かしてへたり込む。
「な、何これ!? 空から大量の荷物が!? ていうか、この箱に書いてあるニッコリした矢印のマークは何!?」
「『地球商会』だ。ちょっとした裏ルートの取引先さ。気にするな」
「気にするわよ! 私の知ってる魔法と違う!!」
キャルルのツッコミを華麗にスルーし、俺は次なる指示を出す。
「『影丸』、リフォーム開始だ。図面は俺の頭の中にあるイメージ通りに」
ズズズ……。
俺の影から、漆黒の騎士が音もなく立ち上がった。
普段は敵を拘束し、闇の刃で切り刻む冷酷無比な暗殺騎士。しかし今は、その手に「金槌」と「ノコギリ」を握っている。
影丸は無言で一礼すると、己の影を触手のように無数に分裂させた。
ある影は釘を打ち、ある影は木材を運び、ある影はペンキを塗る。
カンカンカン! ギコギコ! シュババババ!
「は、速い……!? なんだこれ、熟練の職人さん100人分くらいの動きしてる……!?」
キャルルが呆然と呟く。
影丸の超高速突貫工事により、壁が貼られ、屋根が修復され、窓には透明度の高い強化ガラスが嵌め込まれていく。
外壁は清潔感のある白漆喰と、温かみのあるレンガ造り。
ものの十分で、美しい洋風のレストランが完成してしまった。
「よし、外側は完成だ。次は中身だ」
俺は新しくなったドアを開け、真新しい厨房スペースへと入った。
ここからが料理人としての聖域作りだ。
再びネット通販を開き、今度は「業務用厨房機器」のカテゴリを検索する。
「システムキッチン、大型冷蔵庫(動力は魔石で代用できるように後で改造する)、オーブンレンジ、製麺機、圧力鍋……それと、客席用のテーブルセットだ」
光と共に、ステンレスの輝きを放つ最新鋭の調理家電や道具が次々と召喚され、所定の位置に鎮座していく。
このアナステシア世界には絶対に存在しない、「清潔で機能的な現代の厨房」が、そこに爆誕した。
「す、すごい……ピカピカ……。鏡みたいに自分が映ってるわ……」
キャルルが、業務用冷蔵庫の銀色の扉に映る自分を見て、恐る恐る指で触れている。
俺は『ネット通販』で購入した純白のコックコートに袖を通し、真新しい包丁をまな板の上に置いた。
窓からはポポロ村の豊かな畑が一望できる。
最高のロケーションだ。
「よし。――『ポポロ屋』の完成だ」
俺が満足げに宣言すると、キャルルは呆然とした顔から一転、尊敬の眼差しを俺に向けてきた。
「リアン君……君、本当に料理人なの? 大工の神様か何かじゃなくて?」
「ただの準備の良い料理人だよ。さて、キャルル」
俺は冷蔵庫から、キンキンに冷えたミネラルウォーターを取り出し、彼女に投げ渡した。
「開店祝いだ。最初の一品、何かリクエストはあるか?」
「えっ!? い、いいの!? じゃあ……」
キャルルは喉を鳴らし、少し考えてから、両手を合わせて満面の笑みで言った。
「あの『おでん』! リアン君が作る、最高のおでんを食べてみたい!」
「承知した。俺の持てる全ての技術を注ぎ込んで、最高の出汁を取ってやるよ」
こうして、ただの廃屋だった場所は、大陸で最も近代的で、最も美味い料理を出す定食屋『ポポロ屋』として生まれ変わった。
暗殺公爵による、前代未聞の飯テロ無双が、今まさに始まろうとしていた。
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