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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 2

「開帳カジノ・ポポロと、絶対遵守の『二度漬け禁止』」

「さぁさぁ! 張った張った! 丁か、半か! 迷うた奴から身包み剥がれるのが、この鉄火場カジノ・ポポロやで!!」

 拡声器を持ったニャングルが、ダミ声を張り上げる。

 ポポロ屋の裏手に張られた巨大なテントの中には、ルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国の国境警備兵たちが、国籍の壁を越えてギッシリと詰めかけていた。彼らの目は血走り、手には今月支給されたばかりの給料袋が固く握られている。

 そして、その熱狂の中心。

 緋色の毛氈もうせんが敷かれた台の前に、ドカッと胡座をかいて座る一人の男。

「……」

 最高級のアルマーニのジャケットとシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になったインテリヤクザ邪神・デュアダロスである。

 鍛え上げられたしなやかな肉体。その背中から肩にかけて、見事な『昇り龍の刺青(※魔力で無理やり浮かび上がらせた模様)』が、ヌメッとした汗をかいて照明に鈍く光っている。

(……最高だ)

 デュアダロスは、内心で打ち震えていた。

 地下ダンジョンで何百年もヤクザ映画を見ながら夢見てきた、伝説のワンシーン。

 周囲を取り囲む荒くれ者たちの熱気と怒号。そして、自分の手の中にある竹の壺と、二つのサイコロ。

 カラカラカラッ……!

 カァァァン!!

 デュアダロスは芸術的な手首のスナップで壺を振り、台に力強く叩きつけた。

「……丁半駒揃いやした。勝負!!」

 ドスの効いた、完璧な壺振りの発声。

 パッと壺が開かれる。

「うおおおおお!! 丁だぁぁぁ!!」

「クソッ! 今月もカミさんに怒られるぅぅ!」

 兵士たちの悲喜交々がテントを大きく揺らす。

 デュアダロスは静かに目を閉じ、胴元としての至福の幸福を噛み締めていた。

(これだ……ワシが求めていた娑婆しゃばの空気は……!)

 ◇ ◇ ◇

「おい。博打に夢中になるのは勝手だが、腹は減ってないか?」

 テントの入り口から、巨大な銀盆を掲げたリアンが現れた。

 その瞬間、むせ返るような熱気と汗の匂いに包まれた賭博場に、強烈な『油とソースの暴力的な匂い』が混ざり合う。

「リアン大将! 待ってました!!」

「ギャンブルと言えば、それだよな!」

 リアンがドンッと台の端に置いたのは、山盛りの『特製・串カツ盛り合わせ』と、キンキンに冷えた『ジョッキのエール(麦酒)』だった。

 豚バラ、牛ヒレ、レンコン、うずらの卵、そしてポポロ村特産の甘い玉ねぎ。

 細かいパン粉を薄く纏わせ、高温のラードでカラッと揚がった黄金色の串たち。

「うめぇぇぇ! サクサクだ! それに中の肉汁が凄ぇ!」

「このドロッとした黒いソース、甘辛くて最高だぜ! ビールが止まらん!」

 負けた兵士も勝った兵士も、串カツに群がり、ビールを浴びるように飲む。

 しかし、一人の獣人兵が、一口かじった串カツをもう一度ソースの共有容器に突っ込もうとした、その瞬間。

 ドンッ!!

 リアンの包丁が、獣人兵の指の数ミリ横の台に深く突き刺さった。

「……あ?」

 リアンの目が、絶対零度の殺気を放っている。

「ルールを説明し忘れたな。ウチの串カツは、**『ソースの二度漬け禁止』**だ。もし衛生観念を無視して、かじった後の串を共有のソースに突っ込んだ奴がいたら……」

 リアンは懐の『銃口剣』をチャカッと鳴らした。

「……その腕ごと切り落として、次の串カツの具にするからな」

「ひぃぃぃぃ!! す、すんませんッ!!」

 獣人兵は泡を吹いてその場で土下座した。

 カジノの胴元(邪神)よりも、厨房の主(元暗殺者)の食へのこだわりの方が圧倒的に恐ろしい空間である。

 ◇ ◇ ◇

 その頃、賭博のテーブルの端っこで、身内同士の醜い争いが起きていた。

「よし! 俺様の今月の小遣い、全額『半』に賭けるぜ!!」

 イグニスが鼻息を荒くして、なけなしの銀貨をドンと置いた。

「イグニス君……それ、キャルルちゃんから貰ったお小遣いでしょ? なくなったら今月、草しか食べられなくなるわよ?」

「うるせぇ! 男には勝負しなきゃならねぇ時があるんだよ!」

「あ、じゃあ私も参加しますぅ☆」

 ルナがトテトテと歩み寄り、世界樹の杖を無邪気に振った。

 えいのえいのえいっ☆

 台の上に、ジャラジャラと大量の『金貨の山』が生成される。

「私はこの金貨全部、『丁』に賭けますぅ!」

「おおおお!? なんだあのエルフの嬢ちゃん、大金持ちじゃねぇか!」

 兵士たちがどよめく。

 だが、壺振りのデュアダロスの『邪神の眼』は誤魔化せなかった。

「……おい、エルフの嬢ちゃん」

 デュアダロスは鋭い眼光で、ルナの生成した金貨の山を睨みつけた。

「ワシの目は誤魔化せねぇぜ。その金貨……3日もすりゃあ石っころに戻る『魔法の偽造硬貨』じゃねぇか。極道の神聖な鉄火場に泥塗ろうってのか?」

 デュアダロスの背中の龍が、怒りで微かに赤く発光する。

「アッ……バレちゃいました? てへぺろ☆」

 ルナが可愛く舌を出した瞬間。

 リアンの拳が、ルナとイグニス(そして巻き添えのニャングル)の脳天にクリーンヒットした。

 ゴツンッ!!

「「「痛ぁぁぁい!!」」」

「身内でイカサマと散財してどうする。お前ら全員、店の裏で皿洗いしてこい」

 リアンに首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられていくポンコツ三人組。

 それを見送ったデュアダロスは、ふっと笑い、串カツを一本手に取った。

(……悪くねぇ。こんな騒がしい娑婆も、悪くねぇな)

 邪神デュアダロスは、たっぷりとソースに漬けた(一度漬け)豚バラ串をかじり、満足げに再び竹の壺を握り直すのだった。

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