EP 14
「ポポロ帝国防衛戦! 襲来する死蟲機の群れ」
翌朝。
ポポロ村は、耳をんざくような半鐘の音と、悲鳴によって目を覚ました。
「て、て、大変でっせーッ!!」
朝の仕込み中のポポロ屋に、ニャングルが転がるように飛び込んできた。その顔は毛が逆立ち、かつてないほど引きつっている。
「村の北側から、魔物の大群が押し寄せてきとる! あれは……天魔窟の主、魔王サルバロスの放った生物兵器『死蟲機』の群れや!!」
「死蟲機だと?」
リアンが包丁を置き、外へ出た。
村の入り口方面から、もうもうと土埃が舞い上がっている。
ズザザザザ……! カチャ、カチャカチャ……!!
無数の不気味な金属音が響き渡る。土埃の中から姿を現したのは、黒光りする強靭な甲殻を持ち、鋭いハサミと無数の脚を蠢かせる異形の魔物たちだった。
その姿は、巨大なカニやエビ、あるいはシャコを禍々しくしたような外見である。
「ひぃぃっ! キモい! 足がいっぱいあるぅ!」
キャルルがウサギ耳をペタンと伏せて悲鳴を上げた。
「……ほう」
だが、リアンの目は違った。最強の料理人としてのセンサーが、激しく反応していた。
「(甲殻類系の魔物か。あの黒光りする殻……いい出汁が取れそうだな。身もギッシリ詰まってそうだ)」
緊迫する空気の中、ポポロ屋の宿泊用離れから、ドグラが重厚な鎧姿で現れた。
「おお! 朝からけたたましいと思えば、敵襲か! なんと素晴らしいタイミング!」
ドグラは全く怯えることなく、むしろ嬉しそうに腕組みをした。
そして、隣でガタガタと震えている息子の背中を、バンッ!と力強く叩いた。
「イグニスよ! ポポロ帝国将軍としての初陣(視察)、この父の目の前でとくと見せてもらうぞ! あの下等な蟲どもを、お前の力で一網打尽にしてみせよ!」
「へっ!? お、俺様が!? 一人で!?」
イグニスは裏返った声で叫んだ。
群れの数は、ざっと見ても五百匹は下らない。一匹一匹が重装甲の戦車のようなサイズだ。いくら次期竜王とはいえ、たった一人でさばき切れる数ではない。
「おい、イグニス」
背後から、リアンが冷酷な声をかけた。
「あいつらに店を壊されて『帝国がただの定食屋だった』とバレるか、それともお前が将軍として討ち取ってメンツを保つか……選べ」
「うぐっ……!!」
「ついでにな。……甲羅の中の身が潰れると調理しにくい。できるだけ『打撃』じゃなく『斬撃』で綺麗に仕留めろ」
「無茶言うなァァァ!!」
逃げ場を完全に塞がれたイグニスは、涙目で愛用の両手斧を構え、死蟲機の群れへと突撃していった。
「ウオォォォォ! 俺様はポポロ帝国の将軍、イグニス・ドラグーンだ! まとめてかかってこいやァ!」
ガキィィィン!!
イグニスの斧が、先頭の死蟲機の甲羅に直撃する。
だが、鈍い金属音が響き、斧が弾き返された。
「硬っ!? なんだこの殻、鋼鉄以上じゃねぇか!」
『ギチギチギチ……!!』
死蟲機たちが不気味な鳴き声を上げ、巨大なハサミを一斉に振り下ろしてくる。
イグニスは持ち前の身体能力で間一髪躱すが、次から次へと波状攻撃が襲いかかる。
「燃えろ! 『竜王の息吹』!!」
ゴォォォォォッ!!
イグニスが口から灼熱の炎を吐き出す。数十匹の死蟲機が炎に包まれた。
――しかし。
『……チチチチ』
「嘘だろ!? 炎が効かねぇ!?」
死蟲機の甲殻は熱にも異常な耐性を持っていた。炎の中から無傷で現れた蟲たちが、イグニスを完全に包囲する。
「(ヤ、ヤベェ……! 数が多すぎる上に、硬すぎて斧が通らねぇ! このままじゃ押し潰される!)」
イグニスの体力がゴリゴリと削られていく。
全身傷だらけになりながらも、父の手前、絶対に引くことはできない。
「おお……! あえて敵の包囲網に飛び込み、自らを囮にして村への被害を抑えているのか! なんという将軍の鑑!」
遠くから見ているドグラは、相変わらず盛大な勘違いをして感涙している。
「(親父! 助けてくれ親父!!)」
心の中で悲鳴を上げるイグニス。
その時。群れの奥から、周囲の死蟲機の三倍はあろうかという、巨大なシャコ型の『死蟲機将』が姿を現した。
その前脚は、直撃すれば岩山をも粉砕する威力を秘めている。
『ギシャアアアアッ!!』
死蟲機将が、イグニスに向けて必殺の超音速パンチの構えを取った。
「(……終わった)」
イグニスが絶望して目を閉じた、その瞬間。
「あぁん? 表がえらく騒がしいやないけ……」
ポポロ屋のテラス席。
そこには、15分の休憩時間(アルバイトの権利)をもらい、優雅に『羽付き焼きチーズ』と『赤ワイン』を楽しもうとしていたインテリヤクザ邪神、デュアダロスの姿があった。
死蟲機将が放った超音速パンチの余波(衝撃波)が突風となり、テラス席のテーブルを直撃。
デュアダロスの手から、大事な大事なワイングラスが滑り落ち――。
パリンッ。
乾いた音を立てて、極上の赤ワインが地面にこぼれ落ちた。
「…………あ?」
デュアダロスの動きが、完全に停止した。
「……ワシの、休憩時間を……ワシの、赤ワインを……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
インテリヤクザ邪神の全身から、天を焦がすほどの『ガチの怒気』が噴出した。
世界を二分した本物の恐怖が、ポポロ村の大気をビリビリと震わせる。
「……落とし前、きっちりつけさせたるでぇ!!」
絶体絶命のイグニスの前に、ブチギレた最恐の邪神が、アルマーニのベスト姿で立ち塞がった。




