表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/119

EP 13

「邪神の威厳と、チーズへの執着」

 ポポロ屋の厨房。

 超絶スピードで山積みの皿を洗い終えた邪神デュアダロスは、約束通りリアンから『特大の羽付き焼きチーズ』を受け取っていた。

「へっへっへ……! これよ、これ! この焦げ目の香ばしさがたまんねぇんだ!」

 先ほどまでのブチギレヤクザの面影はどこへやら。

 デュアダロスは厨房の隅にあるビールケースの上にちょこんと座り、両手で大切そうにチーズを持ちながら、幸せそうにハフハフと頬張っていた。

 その至福の時間を、背後から震える声が遮った。

「お、恐れながら……邪神デュアダロス様で、あらせられますか……?」

「ンァ!?」

 ビクッ! とデュアダロスの肩が大きく跳ねた。

 慌てて振り返ると、そこには屈強な老竜人――イグニスの父ドグラが、床に膝をつき、滝のような冷や汗を流しながら平伏していた。

「(ヤ、ヤベェ! 竜人の族長じゃねぇか! ワシがエプロン姿で皿洗いして、ビールケースに座ってチーズ食ってたの見られたか!?)」

 デュアダロスは一瞬で極道のポーカーフェイスを取り戻し、素早くエプロンを引きちぎって放り投げた。

 そして、アルマーニのベストの襟をスッと正し、残ったチーズを背中に隠しながら、低いドスを効かせた声を出した。

「……おぅ。なんや、トカゲの爺さんか。ワシの顔を知っとるとは、長生きしとるようやな」

「はっ! 神話に語り継がれるその圧倒的な魔力と威容、忘れようはずもございません! しかし、なぜ邪神様ほどの御方が、このような場所で……その、下働きのような真似を……?」

 ドグラが恐る恐る、最大の疑問を口にした。

「ギクッ!!」

 デュアダロスの心臓が跳ね上がった。

 『無一文でカチコミに来たら、美味いスープの誘惑に負けて食い逃げ未遂になり、借金返済のために皿を洗わされていた』などと、極道(邪神)のプライドにかけて絶対に言えるわけがない。

「(ど、どうする!? 適当な嘘で誤魔化さねぇと、ワシの伝説メンツが丸潰れや!)」

 デュアダロスは数秒の思考の末、任侠映画の知識をフル動員して、顔の半分を影で隠し、ニヒルな笑みを浮かべた。

「……クックック。爺さん、ワシがただの下働きに見えたか? こいつはな、一種の『シノギ(ビジネス)』なんや」

「シノギ、でございますか?」

「おうよ。あのリアンとかいう男……あいつの創る『焼きチーズ』という名のヤク(劇薬)にな、ワシは完全に惚れ込んじまったんや」

 デュアダロスは背中に隠していたチーズをチラリと見せ、ワザとらしくため息をついた。

「ワシほどの力があれば、力ずくで奪うこともできる。……だが、あの男の持つ『底知れぬ器(料理の腕)』には、ワシから進んで頭を下げてでも、正当な対価(労働)を払う価値がある。……ワシは、あいつと『盃を交わした』つもりで、ここで皿を洗ってやってるんや」

「な、なんと……!!」

 ドグラの目が、驚愕で見開かれた。

「あの男は恐ろしいでぇ。武力ではなく、ただ一つの『美味』でワシら神々を骨抜きにし、裏からこの世界を支配しようとしとる。……ポポロ帝国、とんでもない極道クレイジーな国やで」

 デュアダロスは、ただ「飯が美味くて離れられない」という情けない事実を、見事なヤクザ構文で「強者同士の魂の共鳴」にすり替えることに成功した。

 しかし、それがドグラの『勘違い』を、後戻りできない次元へと引き上げてしまった。

「(邪神デュアダロス様が……皇帝陛下リアンの器を認め、自ら進んで配下シノギに加わっているだと!?)」

 ドグラの全身がブルブルと震え出した。

 恐怖ではない。圧倒的な感動と、自らの息子がこれほどの巨大な組織(定食屋)の将軍を務めているという誇りだ。

「おおお……! 皇帝陛下! なんという恐るべきカリスマ! 神すらも魅了し、世界を掌握するその御力……! このドグラ、感服つかまつりましたァァァ!!」

 ドグラは、厨房の奥で翌日の仕込み(玉ねぎの皮むき)をしているリアンの背中へ向かって、涙ながらに絶叫し、額をガンガンと床に打ち付けた。

「ん? なんだあの親父。急に泣き出して……玉ねぎの成分でも飛んだか?」

 リアンは不思議そうに首を傾げたが、忙しいので無視することにした。

「お、親父!? 何やってんだこんな所で!?」

 そこへ、明日の薪割りを終えたイグニスが、タオルで汗を拭きながら厨房へ入ってきた。

「おお、息子よ!!」

 ドグラはガバッと立ち上がると、イグニスの両肩をガシッと掴んだ。

「イグニス! お前は本当に素晴らしい主君を持ったな! 邪神様すら従えるポポロ帝国……この父は、お前が将軍であることを誇りに思うぞ! 命を懸けて、皇帝陛下(店長)をお守りするのだ!!」

「へ? あ、あぁ……おう! 任せとけって! 俺様はポポロ帝国の右腕だからな!(バレてねぇ! よかったぁぁ!)」

 イグニスも安堵の涙を流し、竜人の親子は熱い抱擁を交わした。

「(……ふぅ。なんとか誤魔化せたぜ。危うくメンツが潰れるところだったわ)」

 デュアダロスはホッと息を吐き、冷めて硬くなる前に、残りの焼きチーズを急いで口に放り込んだ。

 こうして、様々な嘘と見栄、そして極上の定食が複雑に絡み合い、ポポロ村は「神すら従える最強の帝国」として、ドグラの心に深く刻み込まれたのだった。

 だが、この巨大すぎる勘違いが、翌日、本物の『敵』を前にして奇跡の爆発を起こすことになろうとは――。

 ポポロ屋の熱い夜は、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ