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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 12

「親父の帰還と、皿洗いをする邪神」

 夕刻。

 ポポロ村を巡る『VIP視察ツアー(という名のボッタクリ散歩)』を終えた竜人族の族長ドグラは、大満足の笑顔で仮設・世界樹城(ポポロ屋)へと帰還していた。

「いやぁ、素晴らしい視察であった! 財務大臣殿、案内大儀であったぞ!」

「へへへ……毎度おおきに! ドグラ殿のまたのご利用、お待ちしてまっせ!」

 ニャングルはホクホク顔で、パンパンに膨れ上がった金貨袋を撫で回している。

 ドグラの手には、二日酔いの妖精(権田さん・40歳)と肩を組んで撮った、シュール極まりない記念写真がしっかりと握られていた。

「(ふむ……我が息子イグニスが仕えるポポロ帝国。特殊部隊の植物兵器に、強力な守護精霊。どれをとっても非の打ち所がない強国だ。……皇帝陛下にご報告せねばな)」

 ドグラは城(店舗)の裏口から入り、厨房の方へと足を向けた。

 すでにルチアナたち神々は大宴会を終え、座敷で酔い潰れてイビキをかいている。店内は仕込みの時間に入り、静まり返っていた。

 ――チャプッ、キュッ、キュッ。

 厨房の奥から、水音と皿を磨く音が聞こえてくる。

「(おお、誰か下働きが洗い物をしているのだな。どれ、将軍の父として労いの言葉でも……)」

 ドグラが厨房を覗き込んだ、その瞬間。

 彼の全身の鱗が、ゾワァッ! と逆立った。

「な……ッ!?」

 声にならない悲鳴が喉の奥で詰まる。

 シンクの前に立っていたのは、ただの下働きではなかった。

 特注のアルマーニのスリーピーススーツ。その高級なジャケットを脱ぎ捨て、ベスト姿になり、腕まくりをした男。

「オラァッ! この豚骨スープの頑固な油汚れが! 極道のシノギを舐めんなよ!!」

 スポンジにたっぷりと洗剤をつけ、物凄い剣幕で皿をこすりまくっているその男。

 顔は美形だが、全身から立ち昇る魔力は、世界を容易く消し飛ばすほどに凶悪で、禍々しい。

「(じ、邪神デュアダロス……!?)」

 ドグラは柱の陰に隠れ、ガチガチと歯を鳴らした。

 竜人族の長である彼が知らないはずがない。神話に語り継がれる、最恐のインテリヤクザ邪神。かつて世界を二分し、神々と大戦争を引き起こした存在だ。

 なぜ、そんなバケモノが、こんなところで皿洗いをしているのか。

「おい、邪神。洗い残しがあるぞ。そこの小鉢、もう一回洗い直せ」

「あぁん!? るせぇな! 今やってるだろうが!」

 カウンターに寄りかかったリアンが、冷徹な声で指示を飛ばす。

 邪神デュアダロスは牙を剥いて凄んだが、リアンがスッと『お会計(ツケ不可・残金2万5千円)』の札を指差すと、ビクッと肩を跳ねさせた。

「……チッ。わ、分かりやしたよ……。綺麗に洗えばいいんだろ、洗えば。ったく、何でワシがルチアナのジョッキまで洗わなきゃならねぇんだ……」

 デュアダロスはブツブツと文句を言いながらも、素直に小鉢を洗い直し、キュッキュッと布巾で丁寧に拭き上げ始めた。

「よし、綺麗になったな。……終わったら、賄い(まかない)の『焼きチーズ(特大)』を出してやる」

「マ、マジか!? よっしゃあ!! オラオラァ! 任せとけ、ピッカピカにしてやるぜ!!」

 賄いのチーズに釣られ、邪神の皿洗いスピードが音速を超えた。

 残像が見えるほどの高速スポンジさばき。極道のオーラが、完全に「有能なキッチンバイト」のそれにすり替わっている。

 その光景を柱の陰から見ていたドグラは、ついに膝から崩れ落ちた。

「(ば、馬鹿な……!! あの邪神デュアダロスが……文句を言いながらも、皇帝陛下の命令に絶対服従して皿を洗っているだと!?)」

 ドグラの脳内で、とんでもない方程式が完成しつつあった。

「(皇帝陛下は……『食事(賄い)』というたった一つの餌で、あの邪神すらも手懐け、アゴで使っているというのか……! なんという男だ! 神すら凌駕する、底知れぬカリスマ!)」

 恐怖と、それ以上の圧倒的な畏敬の念。

 ドグラは震える両手を握りしめ、リアンの後ろ姿に向かって、音を立てずに深く、深く平伏した。

「(我が息子イグニスよ……お前は、とんでもない御方に仕えていたのだな。ポポロ帝国……恐るべし!!)」

 ただ、無一文のヤクザに「食い逃げの罰」として皿洗いをさせているだけの定食屋店主リアン

 しかし、族長ドグラの中では、リアンはすでに「邪神を奴隷とする真の覇王」として完全に君臨してしまったのである。

 この壮大な勘違いが、翌日ポポロ村を襲う『真の危機』において、さらなる奇跡ギャグを生み出すことになろうとは。

 一心不乱に皿を洗うデュアダロスも、それを監視するリアンも、まだ知る由もなかった。

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