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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 11

「極道邪神の至福 ~涙の焼きチーズと黄金スープ~」

 ポポロ屋のカウンター席。

 そこには、先ほどまで世界を滅ぼさんばかりの殺気を放っていた男が、背中を丸めて大人しく座っていた。

 コトッ。

 目の前に置かれたのは、湯気を立てる『ロックバイソンの極上ポトフ風スープ』。

 そして、念願の『羽付き焼きチーズ』と、深いルビー色をした『赤ワイン』だ。

「……」

 デュアダロスは震える手で、まずはワイングラスの脚を摘んだ。

 スワリング(グラスを回す所作)を行い、香りを確かめる。……完璧だ。地下の湿ったカビ臭い空気とは違う、芳醇なブドウと樽の香り。

「(……これが、本物の酒……)」

 彼は目を閉じ、一口含んだ。

 渋みと果実味が、長年乾ききっていた邪神の喉をじんわりと潤していく。

「……くぅっ」

 デュアダロスは小さく唸り、次にフォークを手に取った。

 狙うは、ずっと夢にまで見た『焼きチーズ』。

 表面はカリッと香ばしく焼け焦げ、内側はトロリと溶け出している。

 サクッ。

 フォークを入れた瞬間の、小気味良い音。

 それを口に運ぶ。

「……!!」

 カッ!!

 デュアダロスの瞳孔が再び開いた。

「(な、なんだこの濃厚さは……! 外側のカリカリした食感と香ばしさが、内側のまろやかな塩気と見事に調和しておる! ワインが進む……進みすぎる……!!)」

 彼は無言でチーズを咀嚼し、ワインで流し込む。

 その表情は、極道の組長から「幸せそうなおじさん」へと完全に変貌していた。

「おいおい、デュアダロスの奴、完全に餌付けされてるじゃん」

 奥の席から、ルチアナがジョッキ片手にゲラゲラと笑った。

「あんた、カチコミに来たんじゃなかったの~? すっかりリアンの飯の虜ねぇ!」

「うるせぇ! 黙ってろ!」

 デュアダロスは顔を真っ赤にして怒鳴り返したが、フォークを持つ手は止まらない。

 いよいよメインの『ロックバイソンの極上ポトフ風スープ』へ。

 スプーンで黄金色のスープをすくい、口へ。

「……ッ!!」

 ズギュゥゥゥン!!

 デュアダロスの脳内に、雷が落ちたような衝撃が走った。

「(……深い……! ただの肉と野菜の煮込みではない。バイソンの強靭な筋肉から溶け出した旨味が、ポポロ村の野菜の甘みと完全に一体化しておる……!)」

 さらに、ゴロリと入ったすね肉をスプーンで崩す。

 力を入れずとも、繊維に沿ってホロホロとほどけていく。

 パクッ。

「……っはぁ……」

 デュアダロスは、思わず天を仰いで恍惚の吐息を漏らした。

 冷え切ったダンジョン暮らしで荒んでいた心が、温かいスープによってじんわりと溶かされていくのが分かる。

「(美味い……。コンビニの塩むすびも悪くはなかったが……これが、これが『手作りの飯』というやつか……!)」

 気がつけば、邪神の目から一筋の涙がこぼれ落ちていた。

「うっ……うっ……うめぇ……」

「ちょっ、泣いてる!? デュアダロスがスープ飲んで泣いてる!!」

 フレアがドン引きしながら指を差した。

「うるせぇよ! 目に……目に湯気が入っただけだ!!」

 デュアダロスはアルマーニの袖で乱暴に涙を拭い、どんぶりを両手で持ってスープを最後の一滴まで飲み干した。

「ぷはぁっ……!!」

 完食。

 彼は満足げに息を吐き、カウンターにどんぶりを置いた。

 その顔には、憑き物が落ちたようなスッキリとした表情が浮かんでいる。

「……どうだ。俺の料理は」

 リアンが腕組みをして、ニヤリと笑いかけた。

「……ふん。まぁ、悪くはねぇな」

 デュアダロスは必死に極道の威厳を保とうと、ふんぞり返った。

「この邪神デュアダロスの舌を少しばかり唸らせたことは、褒めてやる。……だから、その……」

 彼はモジモジとしながら、空になったどんぶりをリアンの方へスッと押し出した。

「……おかわり、あるか?」

「プッ……アハハハハ!」

 ルチアナとフレアが大爆笑し、デュークも呆れたように鼻を鳴らした。

「……現金な奴だ。まぁいい、腹いっぱい食わせてやる。ただし」

 リアンは『お会計(ツケ不可)』と書かれた札を、ドンッとデュアダロスの前に置いた。

「払うもんは、きっちり払ってもらうぞ。邪神様」

「……あ」

 デュアダロスの顔から、血の気が引いた。

 彼は封印されていた身である。財布など持っているはずがないし、ダンジョンから持ってきたのはトカレフと仕込み刀だけだ。

「……すまん。ツケで……」

「ダメだと言ったはずだが?」

「ひぃっ!!」

 リアンの目が、再び「裏社会の英雄(殺し屋)」のそれに変わった。

 インテリヤクザ邪神の、ポポロ屋での「過酷な皿洗いバイト」が決定した瞬間であった。

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