EP 9
「ハズレスキルと、極道邪神VS竜王の勃発」
「ギャハハハハ! ねぇ聞いてよフレア! でねっ、この前の異世界転生者に渡したチートスキル、何だと思う!?」
ポポロ屋の店内。
完全に出来上がっている創造神ルチアナ(芋ジャージ姿)が、ジョッキを片手にバンバンとテーブルを叩いている。
「何々~? また変な呪いでもかけたの?」
「何にも考えて無かったから、とりあえず『石ころ』を渡したの!」
「……石ころ? どんなスキルなの、それ」
ワインを飲んでいた不死鳥フレアが、呆れた顔で首を傾げた。
ルチアナは得意げに鼻を鳴らす。
「石が懐いてくれるの! で、その懐いた石をひたすら投げるのぉ!」
「しょぼっ!」
フレアが即座にツッコミを入れた。異世界転生モノの主人公としては、序盤で詰みかねない致命的なハズレスキルだ。
「だってぇ! あいつ『全属性魔法を使わせろ』だの『聖剣を持たせろ』だの、グダグダ注文が多いからぁ! こっちはソシャゲのイベント周回で忙しいのに!」
「お主は本当に性悪な女よのぅ……」
奥の席で『豚骨角煮ラーメン』のスープを啜っていた竜王デュークが、呆れ果てた声を出した。
「だって暇なんだもん! あんまり強すぎるスキル渡すと、後で神界の風紀委員のヴァルキュリアに壁ドンされてめっちゃ怒られるし!」
ルチアナが唇を尖らせて言い訳をする。
その底知れぬ神としてのポンコツっぷりに、ついに竜王の堪忍袋の緒が切れた。
「……付き合ってられん。くだらん。我は帰るぞ」
デュークは空になったどんぶりを置き、重厚な足取りでポポロ屋の出口へと向かった。
彼が苛立ち交じりに扉を開けようとした、その瞬間。
ドンッ!!
外から入ってこようとした「何者」かと、デュークの分厚い肩が激しくぶつかった。
「……おぅ? どこ見て歩いとんじゃ」
そこに立っていたのは、アルマーニのスリーピーススーツをビシッと着こなした男。
その男は、肩についた見えない埃を払う仕草をしながら、鋭い眼光でデュークを睨みつけた。
「……よぉ、トカゲ爺」
「貴様は……デュアダロスか」
バチバチバチバチッ!!
ポポロ屋の入り口で、竜王と邪神の視線が交錯した。
空間が歪むほどの高密度の魔力が衝突し、バチバチと赤黒い火花を散らす。
「げぇぇぇ!?」
ルチアナの酔いが一瞬で吹き飛んだ。
「デュアダロスじゃん!! なんでここにいんの!? 最終ダンジョンで大人しくヤクザ映画見てたんじゃないの!?」
デュアダロスはデュークから視線を外し、ルチアナに向かって吠えた。
「ここで会ったが100年目や! ワシを地下に放置して、テメェらだけでいいご身分じゃねぇか! 今日こそてめぇに引導を渡しに来たぜ!!」
彼が極道(邪神)のオーラを全開にしてルチアナに詰め寄ろうとした、その時。
太い腕が、デュアダロスの肩をガシッと掴んだ。
「待て」
デュークの目が、爬虫類特有の縦孔に変化している。
「我が先だ。我にわざとぶつかっておいて……ただで済むと思うなよ。その無礼、骨の髄まで後悔させてやる」
「……上等だ」
デュアダロスの口角が、凶悪に吊り上がった。
彼は懐にスッと手を入れると、任侠映画の主人公さながらの滑らかな動作で、黒光りする『トカレフTT-33』を抜き放ち、デュークの眉間に突きつけた。
チャカッ。
撃鉄が起こされる、冷たい金属音が響く。
「ハジキの錆にしてやるよ、トカゲ爺……!」
黄金のブレスを口元に蓄えるデューク。
次元すら撃ち抜く魔弾を装填したトカレフを構えるデュアダロス。
二柱の激突により、ポポロ村が地図から完全に消滅しようとした――まさにその時だった。
「……おぃ」
厨房の奥。
地獄の底から響くような、圧倒的で冷徹な声が轟いた。
そこに立っていたのは、包丁を片手に持ち、純白のコックコートを纏ったリアンだった。
彼の背後には、かつての「裏社会の英雄」としての底知れぬ殺気(どす黒いオーラ)が、渦を巻いて立ち昇っている。
「俺の店で……何をデカい顔をしてんだ?」
ピタッ。
神々が、ビクッと肩を揺らして硬直した。
「貴様ら……次に店の中で暴れたら、二度と俺の料理を食わせんぞ」
世界を滅ぼす魔法よりも、伝説の武具よりも恐ろしい「最強の脅し」。
美食に完全に魂を売った神々と邪神にとって、それは実質的な死刑宣告に等しかったのである。




