EP 6
「神々の大宴会と、30万円の請求書(物理回収)」
ポポロ屋の店内は、かつてないほど濃密な(そして非常に面倒くさい)オーラで充満していた。
「リアン~! もっと酒出して~! キンキンに冷えたやつ!」
カウンターに突っ伏し、ヨレヨレの芋ジャージ姿で空のジョッキをガンガンと振っているのは、この世界の創造神ルチアナだ。
「……ここは飲み屋じゃねぇんだがな」
リアンは深い深いため息をつきながら、栓を抜いた瓶ビールをドンッと置いた。
ルチアナはそれをひったくるようにしてラッパ飲みすると、隣で優雅(?)にワインを飲んでいる絶世の美女――不死鳥フレアに絡み始めた。
「っていうかさぁ、フレア! あんた最近、仕事サボってるでしょ!? デュアダロスのところ、全然行ってないじゃない!」
「だってぇ!」
フレアがバンッとテーブルを叩き、美しい顔を涙と酒でぐしゃぐしゃにして叫んだ。
「私! 毎日毎日、仕事、仕事、仕事! っておかしいでしょ!? たまにはルチアナが行きなさいよ!」
「嫌よ~。あいつのダンジョン、地下深くてカビ臭いし。デュアダロスに会いに行くって階段登り降りだけでめんどくせぇわ」
「お主の双子の片割れ(あるいは元カレ)ではないか。我は知らぬがな」
奥のテーブル席で、極太の葉巻を吹かしながら、リアン特製の『豚骨角煮ラーメン』をズルズルと啜っているイケオジ――竜王デュークが、我関せずと呟いた。
「デュークはラーメン作りで頭がいっぱいだし! 今日はせっかくの『神様飲み会』だってのに、フェンリルはグループチャット既読スルーしてるし!」
「フェンリルからは我に直接連絡がきたぞ。『今は女の家で自宅警備に忙しい。パチンコの連チャン中だから無理』だとさ」
デュークの言葉に、ルチアナが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「ニートだろ! あいつ! 女の家に上がりこんでヒモニートよ!? 世界を管理する『調停者』の名が泣くわよ! はぁぁ……何で私の所には、まともな奴が居ないんだろ……」
「それは、トップであるルチアナが『まともじゃない』からだろうな」
厨房で洗い物をしながら、リアンが冷酷な正論を放つ。
「あんだとォ!? 元日本人の分際で! 表でろリアン!」
「ねぇねぇルチアナぁ~♡ その男、いい男じゃない! 私に紹介してよ~♡」
酔っ払って完全に発情期に突入したフレアが、リアンに熱い視線を送る。
「ちょっと! 何でも発情すんな鳥女!」
「きいいい! 言ったわね、この芋ジャージ女!」
最高位の創造神と調停者が、髪の毛を引っ張り合う醜いキャットファイトを開始した。
その傍らで、ただ一人、トレイを持ったまま感動に打ち震えている男がいた。
「お、おい……嘘だろ……。あそこでラーメン食ってるの、デューク様では?」
イグニスが、ガタガタと震えている。
「俺達、竜人族の神の……! 伝説の竜王様が、なんでこんな田舎の定食屋に!?」
「あぁ? なんだ小僧」
デュークがラーメンのスープを飲み干し、渋い声で振り返る。
「今はオフで来てるからな。騒ぐな。……サインなら後でエプロンにでも書いてやる」
「あざっす!! デューク様ァァァ!!」
イグニスは土下座の勢いで平伏した。
◇ ◇ ◇
宴もたけなわ。
神々が飲み食いし尽くし、嵐が去ろうとしていたその時、ポポロ屋の「裏の支配者(経理)」が静かに動いた。
「では、ルチアナ様。本日の宴会のお支払いの方は……これ位になりまっせ」
ニャングルが、揉み手をしながら一枚の羊皮紙(請求書)をスッと差し出した。
「ん~? いくらいくら……って、たっか!?」
ルチアナの酔いが一瞬で吹き飛んだ。
「30万円!? 定食屋の飲み会で30万!? ぼったくりじゃないの!?」
「当然だろ」
リアンが布巾で手を拭きながら、冷ややかな目で見下ろす。
「俺が腕によりを振るった『地竜の極上ステーキ』に、『Aランク素材の海鮮盛り合わせ』……さらに、ネット通販で取り寄せた『地球の最高級ワイン』を何本も空けておいて、その値段で済んでるだけ感謝しろ」
「うぐっ……! で、でも、今月はソシャゲに課金しすぎて、お財布が……」
ルチアナが目を泳がせていると、背後からニコニコとした笑顔のウサギが忍び寄った。
「あらぁ? ルチアナ様は、いつから『創造神』から『貧乏神』にジョブチェンジされたんですかぁ?」
キャルルの、丁寧な口調に猛毒を孕んだ一撃が突き刺さる。
「うっさいわね! ツケにしなさいよツケに! 神のツケよ!」
ルチアナが逃げようと足に力を入れた、その瞬間。
「えいのえいのえいっ☆」
ルナが楽しそうに世界樹の杖を掲げた。
床のフローリングがメキメキと音を立てて隆起し、一瞬にして『身長3メートル、サングラスをかけた強面の木人(ヤクザ風ゴーレム)』が2体生成された。
「……え?」
「ルチアナさ~ん☆ 無銭飲食は犯罪ですぅ。この木人さんたち、お金を払うまで絶対に離してくれませんよぉ?」
ルナが満面の笑みで首を傾げる。
強面ゴーレムたちが、ボキボキと木の指を鳴らしながらルチアナの両脇をガッチリと固めた。
「ちょっ、痛い! 痛い痛い! 木目が肌に食い込んでる!」
「さぁ、ルチアナ様。金目のモノを出すか、神界の宝物庫の鍵を置いていくか、選びなはれや」
ニャングルが算盤をチャキッと鳴らす。
「わ、わかった! 払う! 払うから! 『神の奇跡(超レアアイテム)』を質に入れるから許してぇぇ!」
こうして、ポポロ屋の夜は、最高神の悲鳴とともに更けていくのだった。
一方で。
誰からも忘れ去られ、弁当も任侠映画の新作も届かないダンジョンの最深部では、インテリヤクザ邪神の堪忍袋の緒が、静かに切れようとしていた――。




