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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 5

「戦慄のジャイ〇ンシチュー ~俺の胃袋はゴミ箱じゃない~」

「……ん?」

 2階のベッドで浅い眠りについていたリアンは、料理人としての絶対的な嗅覚によってハッと目を覚ました。

 熱で霞む頭でも、はっきりと分かる。

 部屋の扉の向こうから、『致死量の毒物』が確実にこちらへ近づいてきている。

(なんだ……この匂い。アンモニアと、強烈な甘ったるさと、土の臭いが混ざったような……店に毒スライムでも湧いたか?)

 リアンが警戒し、枕元の銃口剣に手を伸ばした時。ガチャリと扉が開いた。

「リアン君! お待たせ! 風邪に効く特製の『栄養満点・卵酒』を持ってきたよ!」

 満面の笑みで現れたキャルル。

 だが、彼女がお盆の上に乗せているどんぶりからは、『紫色のブクブクと泡立つ泥』のようなものが溢れそうになっていた。

 シュゥゥゥ……。

 紫色の泡が弾けるたびに、部屋の壁紙がチリチリと変色していく気がする。

「……キャルル。それは、なんだ」

「えっ? 卵酒だけど?」

 キャルルは無垢な瞳で、コテンと首を傾げた。

 リアンは震える体を起こし、その「ダークマター」を凝視した。

 紫色の泥の表面に、プカプカと浮かぶ無数の『蝉の抜け殻』。

 半分溶けかかった『イチゴジャム大福』の赤い残骸。

 そして、底の方から時折顔を出す、生臭い『イカの塩辛』と『沢庵』。

 極めつけは、ルナがぶち込んだ『謎の光るキノコ』が、チカチカとネオンサインのように自己主張している。

「おい……まさかとは思うが、それに俺の厨房の食材を……」

「うん! イグニス君とニャングルとルナちゃんが、『カロリーと東洋医学と魔法の融合』だって、色々と体に良いものを足してくれたの!」

 扉の陰から、三バカがヒョッコリと顔を出してドヤ顔で親指を立てた。

「ガハハ! 食えば一発で治るぜリアン! 俺様特製ジャム大福入りだ!」

「蝉の抜け殻は解熱作用がありまんねん! 良薬口に苦し、やで!」

「私のキノコで、魔力も全回復ですぅ☆」

 リアンは、かつてないほどの恐怖を感じた。

 A+ランクの地竜を前にした時ですら、彼の心は凪いでいた。帝国の精鋭騎士団に囲まれても、欠伸が出た。

 だが今、目の前にある「ジャイ〇ンシチュー(異世界編)」は、確実に己の命を刈り取りにきている。

「さぁ、冷めないうちに! はい、あーん♡」

 キャルルがスプーン(すでに先端の金属が少し溶け始めている)で紫色の泥をすくい、リアンの口元へ無慈悲に運んでくる。

「……来るな」

「え?」

「来るなあああああ!!!」

 リアンはベッドから跳ね起き、布団を盾にして部屋の隅まで後ずさった。

「バカかお前ら! 沢庵とジャム大福と塩辛を一緒に煮込んで美味いわけがないだろ! それに蝉の抜け殻をそのまま入れるな! せめて煎じろ! いや、そもそも俺の神聖な厨房で何という冒涜を……!」

「ひどい! せっかくリアン君のためにみんなで作ったのに!」

 キャルルが涙目になる。

 だが、情に流されて一口でも食べれば、間違いなく三途の川で両親と再会することになる。

「……『喰丸くいまる』!!」

 リアンは己の影から、ゴミ処理係であるピンク色の巨大ワームを召喚した。

「キュイ!」

「俺の代わりに、それを全部食え!」

 リアンの悲痛な命令を受け、何でも食べる最強の掃除屋・喰丸が、どんぶりに向かって大きな口を開けた。

 ズゾゾゾゾッ!!

 一瞬にして、紫色のダークマターが喰丸の強靭な胃袋へと吸い込まれていく。

「ああっ! 私の(作った)卵酒が!」

「よ、よし……これで命は助かった……」

 リアンが安堵の息を吐いた、次の瞬間。

「……キュ……キュルル……」

 喰丸のピンク色の体が、みるみるうちに青紫色に変色し始めた。

 そして、白目を剥き、口から一筋の泡を吹いて――バタッと床に倒れ伏した。

「喰丸ゥゥゥゥッ!?」

 リアンが絶叫した。

 廃屋の腐った木材や、魔物の有毒な死骸すらノーダメージで消化する最強のワームが、たった一杯の「卵酒(キャルル作)」で胃腸を破壊され、気絶したのだ。

「……」

「……」

 部屋に、重苦しい沈黙が落ちた。

 イグニス、ニャングル、ルナの三人は、そっと扉を閉めて無言で逃げようとした。

「……逃がすか、お前ら」

 リアンはフラフラと立ち上がり、壁に掛かっていたコックコートを羽織った。

 その目は、40度の熱で完全に血走っている。

「リアン君!? 寝てなきゃダメだよ!」

「寝てられるか……。お前らに一晩厨房を任せたら、明日の朝にはポポロ村が毒の沼地に沈むわ……」

 最強の料理人は、死に物狂いで1階の厨房へと降りていった。

「俺が……俺が本物の『卵酒(カスタード風)』と、『特製ネギ生姜粥』を作ってやる……! お前らは全員、そこに正座して俺の包丁さばきを見てろ!!」

「「「ひぃぃぃぃぃ!!」」」

 こうして、高熱のシェフによる、命がけのお料理教室(超スパルタ)が深夜のポポロ屋で幕を開けたのだった。

(なお、瀕死の重傷を負った喰丸は、ルナの世界樹の魔法によって翌朝無事に蘇生した)

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