EP 3
「ポポロ帝国・視察ツアー ~幸運の妖精(中身40代)とボッタクリの罠~」
ルナの魔法でドーピングされた『ニンジンマンドラ師団(ただの野菜)』の狂気のパニック走りを目の当たりにし、竜人族の族長ドグラは深い感銘を受けていた。
「素晴らしい……! これほど苛烈な訓練を積んだ植物兵器の群れ……ポポロ帝国の軍事力、底が知れぬ!」
「ははは……まぁ、俺様の指導の賜物ってやつだな!」
イグニスが滝のような冷や汗を流しながら、引きつった笑いで誤魔化す。
「うむ! イグニスよ、父はさらにこの帝国の凄さを見てみたくなった! 城下町や他の施設を視察させてもらえぬか!」
「えっ!? いや、それは……」
イグニスが言葉に詰まった、その時。
金脈の匂いを嗅ぎつけた猫耳商人が、算盤を片手にスライディングでドグラの足元に滑り込んできた。
「はいはいはい~! お任せくだはれ! ワイはポポロ帝国の『財務・観光大臣』を務めとるニャングルと言いますねん!」
「おお、財務大臣殿か!」
「ドグラ将軍父上殿! これよりワイが直々に、帝国の極秘施設をご案内する『VIP視察ツアー』へとご招待しまっせ! ……なお、機密保持のための特別料金、金貨三枚(約三万円)になりますんやわ」
ニャングルが揉み手をしながら、エゲツない額を吹っ掛ける。
「安いものだ! 頼むぞ!」
ドグラは全く疑うことなく、ドンッと金貨が入った袋をニャングルに手渡した。
イグニスは「お前、俺の親父から金取るのかよ!?」と小声で抗議したが、ニャングルは「経費や経費!」と聞く耳を持たない。
◇ ◇ ◇
「はいはい~! こちらが当帝国自慢の機甲部隊、通称『ロックバイソン牛舎』でっせ~! 勇壮な角! 鋼の筋肉! 見てってや~!」
ニャングルが拡声器片手に案内した先は、ただの村の放牧地だった。
ドグラは屈強なロックバイソンを見て「ほう! 立派な軍馬(牛)だ!」と感心していたが、ふと、牛舎の横に立っている「奇妙なもの」に指を差した。
「……大臣殿。あの、牛の横にいる、身長160センチくらいの妖精のような存在は何だ?」
それは、どう見ても手作り感満載の、薄汚れたピンク色の全身タイツに羽を生やした『着ぐるみ』だった。
中の人の体型が微妙にリアルで、ぽっこりと腹が出ている。
「あら~ドグラ殿、お目が高い! 見えはりましたか!? 流石は竜人の長!」
ニャングルは大げさに驚いてみせた。
「アレは帝国の守護精霊、『幸運の妖精ラッキ君』ですわ。強大な魔力と、清らかな心を持つ強者にしか見えへんと言われてますんや!」
「なんと……! やはりそうか!」
ドグラは大きく頷いた。
ただの着ぐるみだとは微塵も疑っていない。己の強さが証明されたと思い込み、まんざらでもない顔をしている。
「このラッキ君の加護を受けたバイソンに騎乗すれば、武運長久! 戦で負けなし! 肩こりや腰痛まで治る……まさに万能の神獣になれますんや!」
「素晴らしい! では、ぜひその加護を……」
ドグラが近づくと、ピンクの着ぐるみ(ラッキ君)が、深々とお辞儀をした。
ちなみに中身は、ポポロ村の村人である権田さん・40歳男性である。
「……よろしく、お願いしますだぁ」
地の底から響くような、酒焼けした低いドスの効いた声だった。
「おおお! なんと重厚で、大地を震わせるような威厳のある声……! これぞ守護精霊!」
ドグラは感動のあまり、震える手で着ぐるみを拝み始めた。
背後で見ていたイグニスは、あまりの申し訳なさに胃薬が欲しくなっていた。
「……うぅ。昨日の深酒が残ってて……ちょっと頭が痛いんで、優しく乗ってくださいだぁ」
「なんと! 帝国の瘴気をその身に引き受けてくださっているのか! なんと尊い犠牲……!」
二日酔いの妖精の愚痴すら、ドグラの耳には「神聖な自己犠牲」に変換されていた。
「あ、せっかくやしラッキ君と『精霊の契約(記念写真)』を交わしまひょか!?」
「おお! 良いのか!?」
「なお、妖精同伴プランおよび契約料になりますので、オプション料金でさらに金貨一枚でっすわ!」
「安い!!」
ドグラが嬉々として金貨を追加で支払う。
そして、屈強な老竜人と、薄汚れたピンクの着ぐるみ(権田)が並んでバイソンの前に立った。
「……ピースの角度は、45度が一番運気上がりますだぁ」
妖精(権田)が低い声で適当なアドバイスを送る。
「おお! これが帝国の秘伝の印か!」
ドグラは真剣な顔で、指を二本立てて45度に傾け、バッチリとキメ顔を作った。
「へい毎度! 最高のシャッターチャンスや!」
パシャリ。
魔導カメラのフラッシュが焚かれ、満面の笑みの族長と、二日酔いの妖精のシュールすぎるツーショットが撮影された。
◇ ◇ ◇
遠く、ポポロ屋の窓からその光景を眺めていたリアンは、深い深いため息をついた。
「……あいつ、いつか絶対に刺されるぞ」
「でもリアン君、あれで親父さんは大満足みたいだし、売り上げも凄いことになってるわよ?」
キャルルが苦笑いしながら、お茶を啜る。
「ちなみに、権田さんのバイト代、時給いくらだ?」
「えっと……ニャングルの話だと、芋酒一杯だって」
「ウチよりもひどいブラック企業だな」
ともあれ、ドグラの「ポポロ帝国視察」は、ニャングルのえげつない商魂によって、完璧な(勘違いの)大成功を収めつつあった。
だが、この村にはまだ、さらなる爆弾(神々)が潜んでいることを、彼らは忘れていたのである。




