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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 7

回鍋肉ホイコーローは密会とスキャンダルの味」

『ポポロ屋』の厨房。

 リアンは、まな板の上に鎮座する一玉の奇妙なキャベツと、無言で対峙していた。

 葉の一枚一枚に、なぜか「人間の顔」のようなシワが寄り、口元がパクパクと動いている。

 村の特産品『ネタキャベツ』。

 村人の噂話を養分として育ち、収穫されそうになると命乞いのために極上のスキャンダルを暴露する、タチの悪い魔界野菜だ。

「……なんだ、この気持ち悪い野菜は」

『ま、待っておくれやす! 大将はん!』

 キャベツがコテコテの関西弁(京都訛り?)で叫んだ。

『わてを刻むのは待ち! わてを食べたらアカン! その代わり……とっておきの「隣町の道具屋の旦那はんの、泥沼不倫情報」を教えますさかいァ!』

「……は?」

『すごいネタどすえ~? 愛人はなんと、旦那はんの店の……』

「興味無いな」

 ザクッ!!

 リアンの包丁が、迷いなく閃いた。

 躊躇ゼロ。慈悲ゼロ。

『アッーーー!!』

 ネタキャベツは断末魔と共に真っ二つにされ、その後のリアンの超絶的な高速千切り(みじん切り)によって、ただの「新鮮で瑞々しいキャベツ」へと姿を変えた。

「……リアン、お前本当にブレないな」

 横で見ていたイグニスが、ドン引きして顔を引きつらせている。

 リアンは包丁を布巾で拭きながら、冷淡に言い放った。

「俺は料理人だ。週刊誌のゲスな記者じゃない。野菜の仕事は『美味しくなること』だ。ベラベラ喋る無駄な機能はいらん」

「ひぃぃ……(こいつ、絶対魔王より怖ぇ)」

 リアンは大型のフライパン(中華鍋)に火を入れた。

 強火で鍋を限界まで熱し、ラードを馴染ませる。

 そこに投入するのは、厚切りにした『ピッグシープ』の豚バラ肉だ。

 ジュワァァァァァ……!!

 豚と羊の良質な脂が溶け出し、甘い香りが厨房に立ち昇る。

 肉の表面がカリッと香ばしく色づいたところで、先ほどの『ネタキャベツ(元お喋り)』と、彩りのピーマン、長ネギを一気に投入する。

「味の決め手はこれだ」

 リアンが回し入れたのは、特製の『甘辛味噌ダレ』。

 地球の甜麺醤テンメンジャンと豆板醤をベースに、魔法で熟成させた極秘のタレだ。

 鍋肌に触れた瞬間、味噌が焦げ、食欲のタガを完全にぶっ壊す暴力的な匂いが爆発した。

 ジャッ! ジャッ! ジャァァァン!!

 リアンが中華鍋を煽るたびに、紅蓮の炎が舞う。

 キャベツはシャキシャキの食感を残しつつ、濃厚な味噌ダレと豚の脂を全身に纏い、テラテラと黄金色に輝き始めた。

「完成だ。『豚キャベツの特濃味噌炒め(回鍋肉)弁当』」

 黒光りする回鍋肉が、炊きたての白米(銀シャリ)の上にドサッと豪快に乗せられる。

 白いご飯に染み込む、焦がし味噌と豚の脂。これは、ご飯が無限に進まないわけがない。

「よし。さっさと魔族の関所に売ってこい。冷めないうちにな」

 リアンが曲げわっぱの蓋を閉める。

 そこに、ニタリと邪悪に笑う猫耳商人が近寄ってきた。

「へっへっへ……リアンはん、今日もええ仕事しまんなぁ」

 ニャングルは、先ほど切り落とされたキャベツの芯(まだ少し口が動いてピクピクしている)を拾い上げ、スッと自分の耳を寄せた。

『……まおう……さま……の……ひみつ……』

「ほうほう、なるほど、なるほど……!」

 ニャングルは手帳にサラサラと暗号のようなメモを書き込むと、不敵な笑みを浮かべた。

「えぇ『極上のネタ』を貰いましたわ。魔族の連中は戦いがのうて退屈しとるさかい……このネタを『おかず(肴)』にさせて、今日の弁当を吹っ掛けて売りつけたるわ!」

 ◇ ◇ ◇

 アバロン魔皇国・魔導関所『ゲート・オブ・アビス』。

 そこは、常夜の空に紫色の雷が走る、魔族の最前線基地。

 屈強なミノタウロスや、空を飛ぶガーゴイルたちが重装備で警備に当たっていたが、彼らの表情は一様に死んでいた。

「あー……ヒマだ」

「どっかの勇者でも攻めて来ねぇかな……」

「魔王ラスティア様も最近、部屋に引きこもって『オタ活』とやらに夢中だしなぁ。俺たちの血はいつ滾るんだよ」

 平和(退屈)ボケし、刺激に飢えていた魔族たち。

 そこに、三度目となるイグニス(もはやただの宅配便)が着陸した。

 ズドン!!

「な、なんだ!? 竜人族の襲撃か!?」

 慌てて巨大な戦斧を構える魔族たち。

 しかし、イグニスの背中から降り立ったのは、揉み手をする猫耳商人だった。

「まいど! ポポロ屋の出張販売でっせー!」

「あ? なんだ、ただの弁当屋かよ」

 魔族の隊長(牛頭のミノタウロス)が鼻を鳴らし、武器を下ろす。

「帰んな。俺たち魔族は人間の飯なんて興味ねぇんだよ」

「まあまあ、そう言わんと。今日のメニューは『豚キャベツの回鍋肉』。こってり濃厚、スタミナ抜群でっせ?」

 ニャングルが蓋を開ける。

 ブワッ!

 味噌とニンニク、焦がし醤油の暴力的な香りが、魔族たちの鼻腔を直撃した。

「……ッ!?(なっ、なんだこの匂いは……! 魔界のゲテモノ食材にはない、複雑で凶悪な香り……!)」

 隊長の胃袋がグゥゥと鳴る。だが、高位魔族のプライドが邪魔をする。

「ふん、匂いだけなら認めてやるが……俺たちが欲しいのは血湧き肉躍る『刺激』なんだよ! ただの飯よりも、この退屈を紛らわせる極上のエンタメがなぁ!」

「おやおや、そうでっか?」

 ニャングルは、ニヤリと笑った。

 懐から一枚のメモ帳を取り出し、ヒラヒラとさせる。

「ほな、この弁当を買ってくれた旦那さんには……『とっておきのスキャンダル(裏情報)』をオマケしまっせ?」

「スキャンダルだと?」

「へぇ。このネタキャベツが死に際に残した、隣国ルナミスの貴族のドロドロ不倫話……だけやありまへん。『我がアバロン魔皇国の魔王ラスティア様が、実は裏でコッソリ集めているヤバいもの』についての極秘情報も……」

 ピクッ。

 魔族全員の耳が、一斉に動いた。

「ま、魔王様の……秘密……?」

「そ、それは本当か!?」

「聞きたい! めちゃくちゃ聞きたいぞ!」

 娯楽と刺激に飢えきった魔族にとって、「上司(魔王)の特大ゴシップ」は飯よりも美味い極上のエンタメだ。

「おっと、ここから先は『弁当』を買った人だけの特典や。さあさあ、早い者勝ちでっせー!」

「買わせろォォォ!!」

「俺だ! 俺が先だ!」

「その味噌炒めと情報を寄越せェェ!」

 魔族たちが殺到した。

 先ほどのルナミス帝国兵とは違う、欲望と好奇心に忠実な猛烈な購入ラッシュだ。

「はいはい、毎度あり! 1個銀貨1枚(1000円・情報料込みのぼったくり価格)やで!」

 数分後。

 魔族たちは回鍋肉弁当の強烈な美味さに白目を剥きながら、ニャングルの語る噂話に聞き入っていた。

「うめぇぇ! なんだこの味噌ダレ、魔界の酒に合いすぎる!!」

「へぇ! あそこの奥さんがそんなことを!?」

「マジかよ! あの残虐な魔王ラスティア様が、実は人間の『朝倉月人あさくら つきと』っていうヒョロい男のアイドルの限界オタクで、お忍びでライブに通ってるって……ギャップ萌えかよ!!」

 胃袋と好奇心、両方を完全に満たされた魔族たちは、完全にポポロ屋の骨抜きにされていた。

「明日も来いよ! 次のアイドルのライブ情報と、唐揚げ弁当を持ってな!」と、ミノタウロスがニャングルの手を握って涙ぐむ始末だ。

「……すげぇな、あの猫」

 イグニスが呆れながら呟く。

 ニャングルは空になった弁当箱の山と、パンパンに膨れ上がった金貨袋を見て、最高に邪悪な笑みを浮かべていた。

「ヒヒヒ……ネタは鮮度が命。料理と一緒やな!」

 ――ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国。

 これにより、リアンとニャングルが仕掛けた『ワンコイン弁当』は、大陸を分かつ三大国の国境警備隊すべての胃袋を、完全に支配(制圧)することに成功したのだった。

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