EP 4
「戦慄! マンドラ悲鳴のポテサラと、銀の包み焼き」
翌朝。
『ポポロ屋』の厨房は、かつてない熱気と殺気に包まれていた。
「いいか、料理は『段取り』が8割だ! 戦場に行くつもりでかかれ!」
純白のコックコートを着たリアンの怒号が飛ぶ。
集まったのは、キャルルが村中から召集した主婦連中だ。
丸太のような腕を持つオークのおばちゃん、手先の器用なゴブリンの娘、そして割烹着を着た人間の元冒険者の老婆など、総勢20名。
「まずは副菜の『三色ポテトサラダ』だ! 全員、マンドラを捕まえろ!」
『ギャアアアアアアアアア!!』
厨房に甲高い悲鳴が響き渡る。
食材である『ニンジンマンドラ』が、まな板の上に並べられる殺気を察知し、短い根っこをバタバタさせて逃げ出そうとしているのだ。
「逃がすんじゃないよ! この大根役者ァ!」
オークのおばちゃんが、逃げ惑うマンドラを鷲掴みにし、すりこ木で脳天を一撃。
ドゴォッ!
マンドラはピクピクと痙攣し、静かになった。
「よし、次は『ハニーかぼちゃ』と『太陽芋』だ。これらを蒸して、熱いうちに一気に潰す! ……完全にペーストにするなよ? ゴロゴロとした食感を残すのがコツだ」
リアンが手本を見せる。
ホクホクに蒸し上がった芋とかぼちゃを粗く潰し、そこに先ほどの『マンドラ(微塵切り)』と、カリカリに焼いた『ピッグシープ』のベーコンを惜しげもなく投入する。
つなぎは、村特産の『マヨ・ハーブ』を絞った特製マヨネーズだ。
「混ぜ合わせろ! 空気を含ませるように!」
巨大なボウルの中で、黄金色とオレンジ色が混ざり合い、濃厚な香りが立ち昇る。
ニンジンマンドラのコリコリとした食感、かぼちゃの甘み、ベーコンの塩気とマヨネーズの酸味が奇跡のバランスで融合した**『特製・三色ポテトサラダ』**の完成だ。
「次はメインディッシュだ。アルミホイルを出せ!」
リアンが魔法ポーチ(ネット通販)から取り出したのは、銀色に輝く薄い金属シート。
そこに、村の川で獲れた白身魚『ピラダイ』の切り身と、極厚の『肉椎茸』を乗せる。
『醤油草』のエキスと通販の高級バターを落とし、最後にレモンの輪切りを添えて、ホイルで厳重に包み込んだ。
「よぉし、これを一気にオーブンで焼き上げる……と言いたいところだが」
リアンは厨房の窓をガラッと開け、裏庭に向かって怒鳴った。
「イグニス! 出番だ!」
「へっ! 任せろ! って……俺様はオーブンじゃねぇぞ!?」
店の裏で待機していたエプロン姿のイグニスが、抗議の声を上げる。
「文句を言うな。お前のブレスの火力調整には丁度いい訓練だ。……弱火だぞ。焦がしたら今日のまかないは抜きだ」
「くそぉぉぉ! 次期竜王をガスコンロ扱いしやがって……! ――『極小火炎』!!」
イグニスが涙目で、ホイルの山に向かって絶妙な弱火のブレスを吹きかける。
ホイルが熱でパンパンに膨らんでいく。元・暗殺公爵による、伝説の種族の完璧な「無給労働」利用である。
「よし。次は弁当箱だ。ニャングル、ドワーフからの仕入れはどうなった?」
「そ、それが……ドワーフの奴ら、足元見よって『木箱一つにつき銅貨三枚』も要求してきよりました! これじゃ原価割れでっせ!」
ニャングルが算盤を振り回して悔しがるが、リアンはニヤリと笑った。
「問題ない。容器のコストは『ゼロ』にする」
「は?」
「おい、ルナ!」
リアンが声をかけると、裏庭の切り株に座っていたルナが「はぁい☆」と笑顔で立ち上がった。
「あれをやれ」
「えいのえいのえいっ☆」
ルナが楽しそうに世界樹の杖を振る。
ポンッ、ポンッ、ポンッ。
ただの木片が、彼女の規格外の木工魔法によって、瞬時に美しく加工された『杉の香りがする高級曲げわっぱ(使い捨て)』へと変わっていく。
「これ、おままごとみたいで楽しいですぅ~♡」
「そうか。じゃああと500個作れ。ノルマだ」
「はにゃ?」
世界樹の巫女を、ただの弁当箱製造機(ライン工)としてタダ働きさせる男。
その光景を見たニャングルは、恐怖で耳をペタンと伏せた。
(こ、この男……血も涙もないブラック企業の社長や……!)
「仕上げは『太陽米』だ! 一粒一粒が立つように、強火で一気に炊き上げる!」
カッ!
巨大な釜の蓋が開くと、そこには宝石のように白く輝く『銀シャリ』が鎮座していた。
村の女衆の手によって、ルナが量産した高級曲げわっぱに、次々と料理が詰められていく。
彩り豊かなポテサラ、照りの美しい太陽芋の甘露煮、そしてパンパンに膨らんだホイル焼き。
「完成だ。名付けて……『ポポロ・デラックス幕の内弁当』!」
◇ ◇ ◇
試食タイム。
カウンターに並べられた弁当を前に、審査員が割り箸を構えた。
「い、いただきます!」
まずはキャルル。
パンパンに膨らんだホイル包みを、箸で慎重に破る。
ブワァァァッ……!
閉じ込められていたバター醤油と、ピラダイの芳醇な海の香りが、蒸気となって顔を直撃した。
「わぁぁ……!」
ピラダイの身を口に運ぶ。
ホロリと崩れる上品な白身。そこに肉椎茸の旨味と濃厚なバターが完全に染み込んでいる。
「おいしいよぉぉぉ!!」
キャルルが足をバタバタさせて悶絶した。
「ピラダイってこんなに上品な味だったの!? それに、この肉椎茸! 噛むとジュワッてスープが出てくるぅ!」
続いてイグニス。
彼は『三色ポテトサラダ』を大口で頬張った。
「んぐっ……! こ、こんなに美味いポテサラは初めてだ!」
イグニスが目を見開く。
「マンドラのコリコリした食感と、ハニーかぼちゃの甘みが最高だ! マヨ・ハーブの酸味が全体をまとめてやがる……! これなら野菜嫌いのガキでもバケツ一杯食えるぞ!」
そしてルナ。
彼女は無言で『銀シャリ』と『太陽芋の甘露煮』を往復していた。
その速度、まさに音速。
「はふはふ……甘露煮の甘さが、お米に合いすぎまふぅ……♡」
すでに弁当箱は空だ。
「おかわりありまふか? あと10箱はいけそうですぅ☆」
「食い過ぎだエルフ」
最後に、ニャングル。
彼は味もさることながら、この弁当が持つ「兵器としての完成度」に震えていた。
「イケる! イケるでぇ! これなら冷めても絶対に味が落ちへん!」
彼は算盤を弾く指が止まらない。
「食材の原価は村の余り物やから激安……ルナはんのおかげで容器代もタダ! せやのに、この尋常じゃない高級感! こんなん国境の兵隊に見せたら、給料袋ごと置いていきよるで!」
ニャングルは天井を見上げ、幻覚を見ていた。
「見える……見えるでぇ! ポポロ村に黄金の雨が降る未来が! 札束の匂いがプンプンしよるわぁ!」
「よし、合格点だな」
リアンは腕組みをして深く頷いた。
「明日から『ポポロ弁当』の販売を開始する。ニャングル、お前は営業だ。イグニスは配送(空輸便)。ルナは……つまみ食い禁止だ」
「ぶー」
「へいへい! 稼がせてもらいまっさ!」
「任せろ! 俺様の飛行スピードを見せてやる!」
こうして、大陸三大国の胃袋を掌握する恐るべき「弁当作戦」が、静かに、しかし確実に動き出したのだった。




