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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 6

「世界神オリンの憂鬱と、タローソン店員リリス」

 まばゆい光がポポロ村のメインストリートを照らしていたが、それは決して太陽の光ではない。

「……はぁ。下界の空気は、どうしてこうも胃に優しくないのだろうか」

 世界神オリンの、鏡面仕上げのようにピカピカに磨き上げられた(というより一切の毛根が死滅した)ハゲ頭の乱反射である。

 彼がポポロ村に「抜き打ち視察」に訪れたのは、ゴッドチューブのPV稼ぎをサボっているルチアナたちに喝を入れるためだった。

 しかし、到着早々に目にしたのは、村のあちこちを我が物顔で歩き回る他国の武装農家たちと、それに負けじと逞しく生きる異世界人たちの姿だった。

「まったく、あのジャージ女神め。自分の管理する緩衝地帯すらまともに統制できておらんとは……」

 オリンは懐から地球製の胃薬を取り出し、水もなしにボリボリと噛み砕く。もはや彼の血中には、神気よりも胃薬の成分の方が多く流れている。

 喉の渇きを覚えたオリンは、目の前にあった24時間営業のコンビニエンスストア『タローソン・ポポロ支店』の自動ドアをくぐった。

「ウィーン、いらっしゃいませぇぇ……」

 覇気のない、どこか泣き出しそうな声がレジから響いた。

 オリンが視線を向けると、そこには水色と白のストライプ柄の制服タローソンのユニフォームを着た、見覚えのある少女が立っていた。

「……リ、リリスくん?」

「あわわっ!? オ、オリン様!? なんでこんな所にいるんですぅぅ!?」

 レジのカウンターでバーコードスキャナーを握りしめていたのは、第4種惑星創造神格公務員見習いのリリスだった。ピンク色の芋ジャージは制服の下に無理やり着込まれており、首元から見事にハミ出している。

「それはこちらのセリフだ! 神たる者が、なぜ下界のコンビニでレジ打ちなどしている!? 神界のコンプライアンスと威厳はどうなっているのだ!!」

「い、威厳なんて言ってる場合じゃないんですぅぅ! 明日の引き落とし日に68,000円払えなきゃ、私、マグローザ漁船にドナドナされちゃうんですぅぅ! 時給1,200銅粒(円)の深夜シフトも入れて、必死に稼いでるんですぅぅ!!」

 大粒の涙をポロポロと流しながら、リリスはレジのカウンターに突っ伏した。

「さっきも酔っぱらった冒険者のお客さんに、『弁当の温め方が足りねぇよ!』って怒鳴られて、もう心も体もボロボロですぅぅ……」

「ま、マグローザ漁船だと……? 君、まさかエンジェルすまーとふぉんの限度額を……」

「ルチアナ先輩が勝手に月人君のグッズを買ったのもあるんですぅ! でも、私だってエターナル(理想の世界)を作るために……パフェとか、お団子とか、いっぱい召喚しちゃって……うわあああん!!」

 オリンは頭を抱えた。

 全宇宙を管理する神の組織『GOD』の末端とはいえ、身内が借金苦でカニ工船行きになりかけているという事実は、彼の中間管理職としての胃壁をドリルで抉るようなストレスだった。

(……ダメだ、このままでは私の昇進試験の査定に傷がつく……! だが、私の給料も盆栽の肥料代でカツカツなのだ……!)

 さらに胃薬を二錠、奥歯で粉砕したその時。

「ウィーン。お疲れ様でござる、タローソンの店長殿……おや、レジがリリス殿に代わっているでござるな」

 竹箒たけぼうきとちりとりを手にした青年が、爽やかな汗を拭いながら入ってきた。

 ルナ・イーツの配達員であり、極度の厨二病を患う青年、佐須賀良樹である。

「あ、良樹さん……いらっしゃいませぇ……」

「ふむ。どうやら浮かない顔をしているでござるな。……レジ打ちの労働、ご苦労様でござる。拙者も今、このタローソンの周囲の溝掃除とゴミ拾いを終えたところでござるよ」

 良樹は誇らしげに、満杯になったちりとりを見せびらかした。

「溝掃除? 君は配達員ではないのかね?」

 オリンが怪訝な顔で尋ねると、良樹は「フッ」と前髪をかき上げ、厨二病特有のポーズを決めた。

「左様。だが、拙者の真なる力……【丼マスター】は、人知れず善行を積むことでポイント(徳)を貯め、万物を丼として現世に顕現させる能力。配達の合間にこうして地道な溝掃除で50P、朝の迷子猫探しで100P……合計150Pが貯まったでござる!」

「……はぁ、ポイント制のスキルか。で、それがどうしたというのだ」

 オリンが呆れたように言うと、良樹はニッと笑い、リリスに向かって右手を突き出した。

「刮目せよ! ポイント消費……100P! 現れろ、黄金の牛が如き恵みの器……『特製・特盛り牛丼(温玉つき)』!!」

 ポンッ!

 虚空から、タローソンのレジカウンターの上に、湯気を立てる熱々の特盛り牛丼が出現した。甘辛いタレと牛肉の暴力的な香りが、コンビニ内に充満する。

「えっ……こ、これ……」

「腹が減っては戦はできぬでござるよ、リリス殿。深夜シフトを乗り切るための、拙者からのささやかな奢りでござる。遠慮せず食うがいい!」

「よ、良樹さぁぁぁん!! ありがとうございますぅぅ!!」

 リリスは制服の袖で涙を乱暴に拭うと、渡された割り箸を割り、特盛り牛丼を猛烈な勢いで掻き込み始めた。

「むぐっ! ほふっ! 美味しいですぅぅ! 牛肉の脂と、とろとろの温玉が……疲れた体に染み渡りますぅぅ!!」

 顔中をご飯粒だらけにして、神の威厳など欠片もなく牛丼を貪るリリス。

 その隣で、良樹は「フッ、拙者の力も捨てたものではないな」と満足げに頷いている。

 オリンはその光景を黙って見つめていた。

 神が人間に借金を背負わされ、人間のアルバイトで命を繋ぎ、人間の優しさ(と中二病スキル)によって腹を満たしている。

 神界の規律からすれば、これほど嘆かわしく、コンプライアンスに反する事態はない。

「……まったく。どいつもこいつも、威厳も何もないのだから」

 オリンは小さくため息をつきながらも、なぜか怒る気にはなれなかった。

(まぁ……たまには、こういう底辺の助け合いも悪くはない……か。胃の痛みも、少しだけ和らいだ気がする)

「むぐむぐっ! オリン様も、一口食べますかぅ?」

 口の周りに温玉をつけたまま、リリスが牛丼の丼を差し出してくる。

「馬鹿者! 神がコンビニのレジカウンターで牛丼など食えるか! 私はポポロ屋の様子を見に行く、しっかり働きなさい!」

 オリンは照れ隠しのようにハゲ頭を光らせながら、タローソンを後にした。

 腹を満たしたリリスが「ありがとうございましたぅぅ!」と元気に頭を下げる声が、自動ドアの奥から聞こえてきた。

 だが、オリンの胃の平穏は長くは続かなかった。

 村の広場の中央から、何やら巨大な土鍋のグツグツと煮える音と、「ごっつぁんドス!」という聞き覚えのある声が響き始めたのだ。

 それが、ポポロ村全体を巻き込む『土雷亭・出張炊き出しちゃんこ鍋』の合図だった。

お読みいただきありがとうございます!


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