EP 8
「オボロロロ!? 伝説の神回達成(そして宇宙は救われた)」
ボチャァァァァァァァッ!!!
月見大根の畑に穿たれたクレーターの中心。
世界神オリンの大きく開かれた口内へ、リアンが放った特大丼ぶり一杯分の『ガーリッ君(致死量の生ニンニクペースト)』が、一滴の狂いもなく完璧にホールインワンした。
「ユニーバ様は……実のところ……5億……むぐっ!?」
オリンの言葉が、物理的な質量と暴力的なまでの刺激臭によって強制的に遮断される。
――静寂が、一瞬だけポポロ村を包み込んだ。
次の瞬間。
オリンの白目を剥いた両目から、滝のような涙が噴き出した。
「~~~~~~~~ッ!!?!?」
声にならない絶叫。
すり下ろされたことによって細胞壁が破壊され、辛味成分が限界突破した魔界植物の生エキス。それが、神の無防備な口腔粘膜、食道、そして胃壁を、灼熱の業火となって焼き尽くしていく。
『暴露鯛』が強制的に言葉を紡がせようとする呪いの力と、『ガーリッ君』の劇物指定クラスの暴力的な辛味と悪臭。
二つの魔界の力が、世界神の脳髄で激しく衝突し――勝ったのは、圧倒的な『ニンニクの暴力』であった。
「オ……オボ……ッ!!」
オリンの全身がビクンビクンと痙攣し、ハゲ頭の七色のオーラが、まるでショートした電球のようにチカチカと点滅を始める。
「オ……オボロロロロロロロロロォォォォォォッ!!!!?」
ついにオリンは、全宇宙の歴史を揺るがす機密情報の代わりに、口から凄まじい量の黄色いニンニク泡を吹き出しながら、見事な放物線を描いて天を仰いだ。
ピカッ……シュン。
ミラーボールのように輝いていたハゲ頭の光が完全に消灯し、世界神オリンはクレーターの底で「大の字」になって完全な気絶(強制シャットダウン)を遂げたのである。
◇ ◇ ◇
『(コメント欄)オボロロロロロロ!?』
『(コメント欄)神様がニンニク食って泡吹いて倒れたんだがwwww』
『(コメント欄)宇宙の真理(年齢)よりニンニクが勝ったぞwww』
『(コメント欄)腹痛いwww 息できねぇwww 伝説の神回確定だろこれwww』
『(コメント欄)純金延べ棒1000本! あの料理人に拍手を!!』
天界のメインサーバーを通じて全宇宙に配信されていた『ゴッドチューブ』のコメント欄は、かつてない大爆笑の大草原(www)と、滝のようなスーパーチャット(投げ銭)で完全に埋め尽くされていた。
「や、やったぁぁぁぁぁっ!!」
ルチアナとカグヤが、泥だらけのジャージとハイブランド服のまま、クレーターの縁で固く抱き合って歓喜の涙を流した。
「助かった……! 私たちの家(コタツ部屋)が、全宇宙が消滅の危機から救われたのよ!!」
「ええ! ありがとう生ニンニク! ありがとうヤバい料理人!」
その頃、次元の彼方・アウターヘブンの執務室では。
コンソールパネルの『全宇宙初期化ボタン』のカバーを開き、震える指をボタンの1ミリ上まで近づけていた最高神ユニーバが、「ふぅ……っ」と安堵の深いため息をつきながら、激甘アップルティーを口に運んでいた。
(※全宇宙の命運は、マジで数秒の差であった)
「ル、ルチアナ先輩! カグヤ先輩! 見てくださいですぅぅ!!」
アワアワと健康サンダルを踏み鳴らしながら、見習い女神リリスがエンジェルすまーとふぉんの画面を二人に突きつけた。
「今夜の配信、同接が歴代1位をブッチギリで更新しました! 投げ銭と広告収入の分配金で……私のスマホの借金(修理代と課金)が、今月分ペイできましたぁぁ! マグローザ漁船行き、回避ですぅぅぅ!!」
「マジで!? よっしゃあああ! これで来月も月人君のガチャ回せるわね!!」
「最高じゃない! 銀河神への反逆やら育毛剤の暴落やら、オリンの始末書はエグいことになりそうだけど、ウチらは大勝利よ!!」
歓喜に沸く、堕落した天界組の女神たち。
その後方で、ニャングルが算盤を弾きながら「ルナミスの株価大暴落の底値で株を買い漁れば、莫大な利益が……! ククク、これぞポポロ村の錬金術や!」と黒い笑いを浮かべていた。
かくして、世界神オリンの抜き打ち視察から始まった、ポポロ村の全宇宙を巻き込んだ大炎上騒動は。
一人の料理人の「無慈悲な機転(劇物)」によって、無事に(?)幕を下ろしたのである。
「……ふっ」
強烈なニンニク臭が漂う月見大根の畑で。
リアンは、空になった特大の丼ぶりを片手に持ち、気絶しているオリンを見下ろしながら、満足げに鼻で笑った。
「秘密を吐き出させる魔魚の呪いも、最強の悪臭成分の前には形無しだな。……これに懲りたら、次からはもっと『味わって』食うことだ、お偉いさん」
料理人としての己の仕事を完璧に成し遂げ(※物理的な口封じ)、リアンは背中越しに包丁をクルリと回して鞘に納めた。
ポポロ村の夜は更けていく。
宇宙の平和は守られ、見習い女神は借金取りから逃れ、そしてルナミス帝国のハゲに悩む男たちは明日、絶望の朝を迎える。
神々と人間、そしてB級グルメが織りなす狂気の日常は、まだまだ終わらない。




