EP 7
「ガーリッ君、無慈悲なおろし金」
ポポロ屋の厨房は、黄色く可視化された致死性のニンニク臭によって完全に汚染されていた。
まな板の上で、ニヤァッと不気味な笑みを浮かべる魔界植物『ガーリッ君』。彼は、目の前で銀の包丁とおろし金をセットするリアンを見上げ、余裕の表情で軽口を叩いた。
『へへへ……。おいおい、兄ちゃん。まさか俺様を「食べる」のかい? やめとけよ、俺様の極上のエキスをひとかけらでも口にすれば、3日は息がドラゴン級の毒ガスになるぜ?』
「……」
『女の子にモテなくなるぞぉ? それに、俺様を刻めば、その包丁にも一生取れない匂いが染み付いて――』
「うるさい」
リアンの冷徹な声が、ガーリッ君の減らず口を遮った。
「……少しだけだ」
『おっ、分かってるじゃねぇか。そうそう、俺様を使うなら風味づけ程度に、ほんのひとかけら……』
ガーリッ君が安堵の笑みを浮かべた、その瞬間である。
ガシッ!!
リアンの左手がガーリッ君の頭部(茎の部分)を情赦なく鷲掴みにし、ドワーフ製の超硬質『特大おろし金』の前にセットした。
『……えっ? ちょ、兄ちゃん? ひとかけらって……』
「『無慈悲下ろし(サイレント・グレーター)』」
シャッ!! シャカシャカシャカシャカシャカシャカッ!!!!!
『ギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
厨房内に、魔界植物の断末魔が響き渡った。
リアンの神速の腕振りが残像を生み出し、ガーリッ君の丸々としたボディが、おろし金の鋭い刃によって恐るべき速度ですり下ろされていく。
『痛ええええ! 目が! 自分の成分で俺の目がァァ! ちょ、待っ、兄ちゃん! 「少しだけ」って言ったじゃねぇか!! 半分削れてる! もう半分削れてるからぁぁ!!』
「ああ。俺の『少し』は、一般の規格とは違う。お前の命(成分)を、一滴残らず使い切ってやる」
『サイコパスかお前はああああああっ!!』
シャカシャカシャカシャカシャカッ!!!
ガーリッ君の絶叫は、やがてドロドロのペースト状の擦過音へと変わり、完全に沈黙した。
リアンの手元に残されたのは、特大の丼ぶりに山のように盛られた『ガーリッ君のてんこ盛り生ニンニク(致死量)』であった。
ツンッ! と鼻腔を通り越して脳髄を直接突き刺すような、純度100%の暴力的刺激臭。もしこれを普通の人間が一口でも食べれば、胃粘膜が崩壊し、口臭で周囲の生態系が滅ぶであろう「劇物」の完成である。
「よし……。最強の『落とし前』だ」
リアンはグローブを外すこともなく、その特大丼ぶりを片手に持ち、厨房を蹴り破って外の月見大根の畑へと急行した。
◇ ◇ ◇
一方、月見大根の畑に穿たれたクレーターの中心では。
ルチアナがオリンの顔面に馬乗りになり、両手で必死に口を塞ぎながら悲鳴を上げていた。
「だ、ダメよカグヤ! オリンの顎の力が強すぎて、私の腕力じゃ抑えきれない!!」
「そんな! 頑張りなさいルチアナ! 今あいつの口から出ようとしている言葉、全宇宙の歴史を根底からひっくり返す機密情報よ!!」
カグヤもオリンの足を押さえつけながら絶叫する。
オリンの白目を剥いた顔は、すでに限界まで真っ赤に膨れ上がり、歯の隙間から『暴露鯛』の呪いが音声となって漏れ出し始めていた。
「うぅ……んんんッ! ゆ、ユニーバ様の……本当の年齢は……!!」
『(コメント欄)くるぞおおおお!!』
『(コメント欄)耳の穴かっぽじって聞けえええ!!』
『(コメント欄)神界のタブーが今、暴かれる!!』
配信を見守る全宇宙の視聴者数が、ついに天界のサーバー処理能力の限界を超えようとしていた。
リリスが「ああっ! サーバーが煙を吹いてますぅぅ!」とパニックになり、ニャングルが「ルナミス帝国の株価がさらに下がるぅぅ!」と頭を抱える中。
「待たせたな」
夜の闇を切り裂いて、圧倒的な『刺激臭』と共に、リアンがクレーターの縁に降り立った。
「ッ!? な、何よその匂い!! 眼球が痛いんだけど!!」
ルチアナが涙目になりながら振り返る。
リアンが手に持っている丼ぶりの中には、不気味な黄色い輝きを放つ、ドロドロのペースト状の山が盛られていた。
それはもはや料理というより、魔女の釜で作られた毒薬にしか見えない。
「『ガーリッ君』の生おろし・てんこ盛りだ。コイツの辛味と悪臭成分なら、魔界魚の呪いごと、ピカピカのおっさんの脳髄を完全に『強制シャットダウン』できる」
「サイコパスなの!? そんな致死量の生ニンニクを直食いさせたら、オリンの胃袋が溶けるわよ!!」
「安心しろ。神の肉体なら死なねぇだろ。……ルチアナ、どけ!」
リアンが丼ぶりを高く掲げ、オリンの顔面へと狙いを定める。
オリンの口からは、ついに決定的な一言が漏れ出ようとしていた。
「ユニーバ様は……実のところ……5億……ッ!!」
「いっけええええリアン!! アイツの口に全部ぶち込んでえええええッ!!」
ルチアナがオリンの顔面から飛びのいた。
大きく開かれた世界神の口。
そこに向け、リアンは無慈悲な手つきで、特大丼ぶりに盛られた『致死量のガーリッ君』を、一滴残らず叩き込んだのである。
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