EP 4
「銀河神への反逆(ペッ!)」
ルナミス帝国の経済(毛髪市場)をたった一言で焼け野原にした世界神オリン。
しかし、魔界の深海魚『暴露鯛』と、リーザがプレゼントした呪いの『ふ〜ん石』による最悪のデバフ・コンボは、オリンの口を少しも休ませてはくれなかった。
「がっ……! ぐ、ぐぬぬぬぬ……ッ!!」
オリンは両手で必死に自分の口を塞ごうとしていたが、見えない力が彼の顎を強引にこじ開けようとする。
「ああっ……! まだだ! まだ私の腹の底には、吐き出さなければならない『ドス黒い不満』が溜まっているのだあああッ!」
「おっ、次はなんだ? 言ってみろピカピカのおっさん」
料理人リアンが腕を組みながら、面白そうに首を傾げる。
ルチアナとカグヤも、完全に「他人の不幸をツマミに酒を飲むダメなおっさん」の顔になって身を乗り出した。
「うぅぅ……ッ! 言うぞ! 私の直属の上司……第2種銀河創造神格公務員である、あの陽気で鬱陶しい『カケル』についてだ!!」
その名前が出た瞬間、天界組の表情が一瞬だけピクリと引きつった。
カケル(天野川 翔)といえば、名作『銀河ギラギラ伝説』を生み出し、全銀河を統括するオリンたちの直属のトップである。
「アイツ……! いつもヘラヘラと『やぁオリンくん! 調子はどうだい?』などと爽やかに視察に来るが……現場の苦労も知らずに理想論ばかり押し付けてきおって! 私は、私はなぁ……ッ!」
「ちょ、オリン!? あんた、まさか……!」
ルチアナの制止も虚しく、オリンは涙と鼻水、そしてハゲ頭のオーラを撒き散らしながら絶叫した。
「カケルが視察に来た時、私が出すお茶の中に、思いっきり『唾(ペッ!)』を入れてやったんだあああッ!!」
「「「…………!!?」」」
ポポロ屋の広間が、爆発的な歓声(とドン引き)に包まれた。
「うわあああっ! 言っちゃった! オリン様、中学生みたいな嫌がらせしてましたぁぁ!」
見習い女神リリスが、初心者マークのジャージのポケットから新たな団子を取り出しながら歓喜の声を上げる。
「それだけではない!! 私の執務室にはカケルの写真入り額縁が飾ってあるが……誰もいない時、毎日あの爽やかな顔面に渾身の『右ストレート』を叩き込んでいるのだ!! ざまぁみろカケルーーーッ!!」
ゴッドチューブの配信カメラ(キュララ所有)が、オリンの狂気に満ちた反逆の叫びを、超高画質・高音質で全宇宙へと垂れ流していく。
『(コメント欄)銀河神の茶に唾を入れるなwww』
『(コメント欄)中間管理職の闇が深すぎるwww』
『(コメント欄)毎日右ストレート叩き込まれる額縁かわいそうwww』
『(コメント欄)世界神様も俺たち(社畜)と同じストレス抱えてんだな(涙)』
視聴者(主に全宇宙のサラリーマンたち)からは、オリンへの圧倒的な共感と爆笑のスパチャが雨あられと降り注いでいた。
◇ ◇ ◇
――そして、視点は切り替わる。
次元の壁を越えた現世、地球。日本のオタク文化の中心地、秋葉原。
ネオンサインが煌めく電気街の片隅で、絶品の「ねぎま(塩)」の串を片手に持ち、もう片方の手でスマートフォンを見つめている一人のイケメンがいた。
人間界にお忍びで遊びに来ていた、銀河神カケル(天野川 翔)その人である。
「いやぁ、地球のアニメ文化と焼き鳥は最高だなぁ! さて、ウチの部下たちは真面目にゴッドチューブの配信をやっているか……ん?」
カケルが自らのスマホで開いた、トレンド世界1位の配信枠。
そこに映し出されていたのは、涙と鼻水で顔面をドロドロにし、頭をミラーボールのように光り輝かせながら大絶叫する直属の部下の姿だった。
『カケルが出すお茶に、唾(ペッ!)を入れてやったんだあああッ!!』
『毎日あの顔面に渾身の右ストレートを叩き込んでいるのだ!! ざまぁみろカケルーーーッ!!』
秋葉原の喧騒の中。
カケルの時が、ピタリと止まった。
「……………………え?」
ポロッ。
カケルの手から、一番楽しみにしていた「ねぎま」の最後の一切れが、無惨にもアスファルトの上へと転げ落ちた。
「オ……オリン、くん……?」
信じられないものを見た。
いつも真面目で、胃薬をかじりながら「はっ、銀河神様! 視察ご苦労様です!」と直角にお辞儀をして、極上のお茶を淹れてくれていた、あの忠実なオリンくんが。
「僕の、お茶に……ペッ、て……。しゃ、写真に……右ストレート……?」
あまりのショックに、全銀河を統括する神が、秋葉原の路地裏で膝から崩れ落ちた。
「うぅっ……ひどいよオリンくん……! 僕、あのお茶『すごく美味しいね』って毎回全部飲んでたのにぃぃぃ……ッ!」
現世のオタクの聖地で、銀河神が焼き鳥を前に大号泣するという前代未聞の事態。
しかし、ポポロ屋の宴会場で暴走を続けるオリンの『暴露』は、直属の上司(銀河神)への下克上だけでは終わらなかった。
カケルを飛び越え、彼が次にターゲットとしたのは。
全宇宙で絶対に怒らせてはならない、ただ一柱の『絶対神』の秘密であった。
「はぁっ……はぁっ……! まだだ! まだ、一番の超大物の秘密が残っているぞおおおッ!!」
オリンの目が血走り、ハゲ頭の光量がさらに一段階限界を突破する。
そのただならぬ雰囲気に、爆笑していたルチアナとカグヤの顔色が一瞬にして凍りついた。
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