第九章 神々の大暴露! 世界神オリンと恐怖の黒鯛
「世界神オリン、ポポロ村に降臨す(恐怖の抜き打ち視察)」
神々が宇宙を管理し、その予算が動画配信サイト『ゴッドチューブ』のPV(視聴回数)と評価率で決まるという、極めて世知辛いシステムで回っているアナステシア世界。
その日、ポポロ村の広場に、天界からの『神々しい一筋の光』が降り注いだ。
「おおっ!? な、なんだあの光は!」
「目が……目がァァッ! まぶしすぎる!!」
広場を歩いていた獣人やルナミス帝国の兵士たちが、あまりの眩しさに次々と目を覆ってうずくまる。
光が収まった後、そこに立っていたのは、純白の神官服に身を包んだ一人の男だった。
「……ふぅ。相変わらず、現世の空気は埃っぽいな」
男の名は、第3種惑星創造神格公務員・オリン。
ルチアナやカグヤたちをまとめる『世界神チーム』のリーダーにして、胃薬と盆栽をこよなく愛する苦労人の中間管理職である。
ちなみに、先ほどの凄まじい光は神のオーラなどではない。
彼の『後光が差すほどに見事にハゲ上がった頭頂部』が、ポポロ村の強い日差しを乱反射させていただけであった。
「さて……我が部下たちは、真面目にこの村の管理とPV稼ぎに勤しんでいるだろうか」
オリンは気難しげに眉間へシワを寄せ、村長宅の裏手にある『ポポロ屋(兼ルチアナのたまり場)』へと足を向けた。
オリンには、どうしても部下たちの尻を叩かなければならない理由があった。
彼は現在、第2種である『銀河神』への昇進試験を受験しようとしているのだが、その必須条件である「担当世界のゴッドチューブ年間PV数」が、絶望的に足りていないのである。
(まったく……デュアダロスは刑務所をヤクザ事務所に改装して任侠映画にかぶれているし(出所済)、調停者のガオガオンはドロドロの社内恋愛(サークルクラッシャー朱雀)で出社拒否。デュークはラーメン作りに夢中だし、フェンリルに至っては着信拒否だ……! 私の胃壁はもうボロボロなのだよ!)
愚痴を心の中でこぼしながら、オリンはポポロ屋の勝手口の扉を勢いよく開けた。
「ルチアナ! カグヤ! 抜き打ち視察に来たぞ! 君たち、しっかりとPVを稼ぐ努力をしているのかね!?」
バーン! と威厳たっぷりに登場したオリン。
しかし、彼を出迎えたのは、神界の威厳とは程遠い、あまりにも堕落しきった光景だった。
「……あー、オリンさ~。おつかれ~。ちょっとそこ、テレビ見えないから退いてくんない?」
コタツに入り、ピンクの芋ジャージ姿で缶ビールを煽りながらスルメをかじっている堕落女神・ルチアナ。
その横では、月の女神・カグヤがハイブランドの洋服を着崩しながら、ルナミスデパートで買ってきた高級マカロンを優雅に齧っていた。
「あら、オリン様。わざわざ下界までご苦労なことですわね。……でも、あまりジロジロとこちらを見ないでくれるかしら? ハラスメントってご存知?」
「うわあああん こわいよ~(棒読み)」
さらにその横では、初心者マークのジャージを着た見習い女神・リリスが、両手で顔を覆いながらみたらし団子をモチャモチャと咀嚼し、完全に心がこもっていない嘘泣きを披露していた。
「か、顔を見ずに話せというのかね!? というかリリスくん、団子のタレがジャージに付いているぞ!」
オリンのハゲ頭が、怒りとストレスでピキピキと赤く発光し始める。
「いいか君たち! 私は遊びに来たのではない! このポポロ村が現在、世界中から注目を集めているのは知っている。だが、そのトレンドに乗じた『公式配信』が少なすぎる! 私の銀河神への昇進……ゲフンゲフン! アナステシア世界の予算獲得のためにも、もっと計画的な炎上やバズり企画をだな……!」
「オリンさ~、文句言うならさ~」
ルチアナが、スルメをくわえながらオリンをジト目で睨んだ。
「その前に、ウチらのプロジェクト予算、もうちょっと増やしてくんない? 私のクレカ(エンジェルすまーとふぉん)、もう限度額100万円ギリギリで今月のソシャゲへの課金がヤバいんだけど(最早タメ口)」
「知らん! 貴様の『朝倉月人ファンクラブ』の会費やエステ代を国費で落とそうとするな!!」
ゼェゼェと息を切らすオリン。
現世の胃薬を取り出し、水なしでボリボリと噛み砕く。
「……ええい、とにかく! 今日から数日間、私はこの村に滞在し、君たちの業務態度と村の運営状況を厳しく『視察』させてもらう! 不正や怠慢があれば、ただちに天界の監査局に報告するからそのつもりでいたまえ!」
オリンがビシッと指を突きつけた、その時だった。
「あら? なんか頭がピカピカ光ってるおじさんがいますの」
「おお、天界のお偉いさんか。ちょうど良かった」
勝手口から、極貧地下アイドルのリーザと、元最強の暗殺料理人・リアンが顔を出した。
「誰がピカピカだ! 私は第3種惑星創造神格公務員の……」
「まぁいいや。せっかくお偉いさんが視察(遊び)に来たんだ。今日はポポロ亭で、盛大な『歓迎会』を開いてやるよ」
リアンの口元が、料理人としての自信(と、一抹の狂気)に歪む。
「ちょうどさっき、ウチの自警団のイグニスが『すげぇ美味そうな黒鯛』を釣り上げてきたところでな。今から極上の刺身にしてやる。……腹空かせて待ってな、ピカピカのおっさん」
それが、全宇宙の神々の尊厳をへし折り、株価を大暴落させる『最悪の宴』の幕開けだとは。
この時のオリンには、知る由もなかったのである。
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