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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第5章

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第38話 溢れる想い



 寝間着のスカートを摘まんで一礼するフィリーネ。

 そのかしこまった態度に、シドリウスが眉を顰めながら反論する。


「一体何の真似だ。説明してくれ」

「シドリウス様は竜王陛下です。私のような者が気軽に接して良い相手ではありません。そして、これまであなた様を竜王陛下だと気づかなかったこと、深くお詫びいたします。噂のせいで別の竜人だと勘違いしていました」


 爬虫類をぺしゃんこにした醜男という噂もあり、フィリーネはシドリウスを竜王陛下と同じ名前の竜人だと認識していた。その思い込みによって、これまで多くの不敬を働いてしまっていたのだ。

 正直、ハビエルたちと同じように罰せられてもフィリーネは何も言えない。


「噂を放って置いた俺がいけないんだ。というか、最初に言わなかっただろうか?」

 フィリーネは首を横に振る。

「いいえ、仰っておりません。陛下は『シドリウス』と名乗っただけです」

「勘違いをさせてしまってすまなかった。だが、俺は今まで通りフィーには名前で呼んでもらいたい。頼む」


 シドリウスはフィリーネに名前を呼ばれなかったらこの世の終わりとでも言いたげな切ない顔をしていた。

 美しく整った顔を最大限に活用されてしまっては、断れそうにない。

 フィリーネは肩を竦めた。


「承知しました。今まで通り、シドリウス様とお呼びしますね」

「ああ、フィーに名前で呼ばれるほど嬉しいことはない」

 シドリウスがアイスブルーの目を細める。


 そのあまりにも嬉しそうな表情に、フィリーネの心臓がギュンと苦しくなった。

 フィリーネは視線を逸らすと、頬にかかる白銀色の髪を耳にかける。


「これで私を召し上がる方は、シドリウス様しかいらっしゃいませんね」

「それはどういう意味だ? 俺以外の誰がフィーを食べるっているんだ?」

「人間は人間を食べません。だから、もし私を食べる相手がシドリウス様以外にいるとすれば、それは竜王陛下に違いないと思っていました。ですが、今となってはシドリウス様だけです」


 フィリーネは胸の辺りで手を組む。やがて、目を爛々と輝かせ始めた。

「竜の姿を見て確信しました。あの姿であれば、問題なく私を丸呑みしていただけると!!」

 頬を赤らめて「はああっ」とため息を漏らすフィリーネに対して、シドリウスは目眩を覚えたのかふらついた。



「……ちょっと待ってくれ。フィーはずっと食べるの意味を勘違いしていたのか!?」

「はい? 食べるって食事のことですよね? シドリウス様の栄養になるべく、私は頑張って太りました。胸は膨らみませんでしたが、お腹には肉がついたので食べ応えはあると思います!」

 フィリーネはこてんと首を傾げてみせる。

 シドリウスは、天井を仰ぐと目元を手で覆った。


「どこでそんな勘違いを……」

「私は生贄の花嫁です。食べる時は是非とも竜のお姿でお願いします。鋭い牙で肉を裂き、血を滴らせながら強い顎で骨を砕いて私をひと思いに食べ……」

「ストップ! それ以上物騒な表現はしなくていいから。というかやめてくれ!」


 シドリウスは手を前に突き出して懇願する。

 続いて、両手でフィリーネの顔を包み込むと、真摯な眼差しを向けてきた。


「確かにおまえは湖に落ち、生贄の花嫁として俺に捧げられた。だがその前に、おまえは私の大事な番だ」

「……番?」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 数秒ほど経って、頭の理解が追いついたフィリーネは目を剥いた。


「ええっ!! 私がシドリウス様の番なんですか!? じゃあ食べるっていうのは物理的な意味ではないということですか!?」

 矢継ぎ早に質問を続けると、シドリウスが大きく頷いた。

「ああ、そうだ。そもそも竜人は人を食べない。生贄の儀式を禁止したのもこちらとしては困っていたからだ。もともとはただの祭祀に過ぎなかったのに、いつの間にか生贄の儀式へと変わってしまったんだ」


 湖に乙女が投げ込まれる度にシドリウスが察知して助け、エリンジャー家が遠い地で暮らせるように手配をしていたらしい。

 事実を知ったフィリーネは開いた口が塞がらない。

 しかし、すぐに大切なことを思い出す。

 心臓の鼓動が一気に加速した。


「ということは、私がシドリウス様を好きなままでも問題ないんですね……嬉しいっ」

 この感情は一方通行で終わる。成就することは決してない。だからシドリウスには伝えないでおこう――そう思っていたのに。

 もう自分の感情に蓋をしなくていいと分かった途端、思わず溢れ出た感情をシドリウスに伝えてしまった。



「私はシドリウス様が好きです。もうあなたを諦めません!」

 高々と宣言すると、シドリウスが目を見張る。

 数秒と経たないうちに彼の耳の先が赤くなった。


「フィー、俺を好きでいてくれるのか? ……俺の方がもっと好きだ!」

 シドリウスがフィリーネに近づいて力強く抱き締めてくれる。

 フィリーネは背中に手を添えた。この逞しい腕が、温もりが、愛おしくて堪らない。

 シドリウスの筋肉質な胸に顔を埋めていたら、上から弱々しい声が聞こえてくる。


「本当は俺の方からフィーに告白すべきだったのに。先を越されてしまったな。なんだか男として情けない気がする」

「私に告白してくださるつもりだったんですか!? それはとっても嬉しいです!」

 フィリーネは顔を上げてへにゃりと表情を崩す。こちらとしてはこの恋が実って幸せなので、どちらの告白が先でも構わない。

 だが、シドリウスの方は違うようだ。


 シドリウスはフィリーネの顎を親指で持ち上げると、そのままフィリーネの唇をペロリと舐めた。

「ひゃうっ!?」

「もう我慢しなくていいなら、もっと可愛いフィーが見たい。もっといろんなフィーを知りたい」

 熱を帯びたアイスブルーの瞳がフィリーネを射貫く。

 シドリウスはチュッと音を立てると、唇に触れるを繰り返す。


「フィーは俺のものだ。頭のてっぺんから足のつま先まで。髪一本だって誰にも渡さない」

 独占欲剥き出しの言葉を紡ぎながらシドリウスの唇は頬や耳朶に触れる。

 再びフィリーネの唇に戻ると、今度は深い口づけを受けた。


 シドリウスを受け入れるようにフィリーネが唇を開けば、シドリウスの舌が滑り込んでくる。

 先ほどのものとは比べものにならない口づけに、頭が痺れて何も考えられなくなった。

「ふっ、ふうぅ」


 このままでは息ができない。

 本能的に察知してシドリウスの逞しい胸を叩くと、ようやく解放された。



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