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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第5章

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第39話 本当の意味は?



 肩で息をしながらフィリーネがシドリウスを見つめる。

「……っ、その顔は反則だ。これ以上はやばいな」

 シドリウスは、ほんのりと赤くなっている顔を隠すように口元を手で覆う。


(い、今のキスは一体何だったんでしょう。ううっ、心臓がいつも以上にドキドキします!! というか、シドリウス様の色気がっ、色気がいつも以上にむんむんです!!)

 今のシドリウスを直視し続けたら絶対に気絶する自信がある。

 フィリーネが視線を彷徨わせていたら、部屋の暗がりから紫紺蝶がふわりと現れた。


 紫紺蝶の存在に気づいたシドリウスが、ある提案をする。

「そろそろ、精霊契約を結んでやったらどうだ?」

「私が紫紺蝶と結んでもいいのでしょうか……」


 アバロンド家では、これまで闇の精霊師が光の精霊師の力を奪うとされてきた。

 あの家でずっと言われ続けてきたせいで、いざ精霊契約となっても気後れしてしまう。

 フィリーネが尻込みしていたら、察したシドリウスが安心しろと言うように、ぽんぽんと頭を優しく叩いてくれた。


「精霊契約を咎める者はもういない。フィーが闇の精霊師として力を発揮することで、救われる者がいる」

 闇魔法は光魔法と似ているようでまるで違う。

 そして、光魔法を阻むような魔法では決してない。

 闇の精霊師が不幸を振り撒く訳でも、光の精霊師の力を奪う訳でもないのだ。

 シドリウスは話を続ける。


「先代竜王だったギデリウスから聞いた話だが、闇の精霊は精霊の中で最も貴重な存在らしいぞ」

「そうなんですか? 光の精霊ではなく?」

「他の精霊と比べて闇の精霊は魔力の影響を受けやすい。精霊界とこちらの世界では魔力の濃度が異なるから簡単には来られないんだ。フィーの側を離れない闇の精霊は、危険を冒してまでやって来たと言えるな」


 初めて知った事実にフィリーネは息を呑む。

 紫紺蝶は精霊の祝福をしてずっと自分を見守ってくれていた。側を離れないでいてくれた。そんな紫紺蝶に今こそ報いるべきではないだろうか。

 勇気づけられたフィリーネは紫紺蝶の前に進み出る。



「今更かも知れませんが、私と契約をしてくれますか?」

 その瞬間、紫紺蝶の紫の翅がきらりと光った。

 紫紺蝶はフィリーネの頭上で黒色の鱗粉を撒く。足下まで達したそれはフィリーネを中心に黒い光を放った。

 視界が遮られるほどの闇に包まれてしまったが、徐々に視界が開けていく。


 身体に変化はないものの、フィリーネはこれまでとは違う感覚を覚えた。

 自身の手や身体を眺めていたら、頭の中で声が響く。

 それが紫紺蝶から発せられた声だとすぐに分かった。


 ずっと心配していたこと。もっと早くに契約を結んで欲しかったこと。様々な言葉がフィリーネの頭に直接語りかけてくる。

 フィリーネは紫紺蝶に頭を下げた。


「今までたくさん心配させて、我慢をさせてしまってごめんなさい。ずっと側にいてくれてありがとうございました。改めてよろしくお願いしますね」

 紫紺蝶は二匹に分裂すると嬉しそうにフィリーネの周りを飛び回る。

 フィリーネは紫紺蝶のはしゃぐ姿を見て、自然と頬が緩んだ。


「無事に闇の精霊師が誕生したな。今後の活躍を楽しみにしている。おまえは俺の番であり、この国唯一の闇の精霊師だ」

「はい。精一杯頑張ります!」

 フィリーネは元気よく返事をしたところでふと、ある疑問が浮かんだ。


「ところでシドリウス様、私はシドリウス様の番になりましたが人間と竜人とでは生きられる年数が違うと思います。人間である私が先に死ぬので申し訳ないです」

 種族が違えば寿命は異なる。歳を取るスピードもフィリーネの方が圧倒的に速いだろう。

 シドリウスからすれば一緒にいられる時間は瞬きほどかもしれない。そう思うとフィリーネの胸は締めつけられた。



「大丈夫だ。正式に番となったら俺とおまえの寿命を半分に割って振り分けられる。だからそんな心配しなくていい。その儀式は追い追い行うつもりだ」

 シドリウス曰く、フィリーネが成人したらまずは貴族たちにお披露目をし、その後で寿命を分ける儀式を行うのだとか。

「良かったです。シドリウス様と長く一緒にいられて」

 胸の辺りがぽかぽかとして、フィリーネは目を細める。

 つられてシドリウスも、頬を緩ませた。


「まだ何か訊いておきたいことはあるか? この際、何でも訊いてくれ。おまえを勘違いさせたのは俺の落ち度だ。誤解は早いうちに解消しておきたい」

 シドリウスの提案にフィリーネは腕を組んでうーんと身体を傾ける。


「……そういえば、食べるという意味を私は間違えていましたが、実際はどういった意味だったのでしょうか?」

「は?」

「今回は私に教養がなかったためにすれ違いが起きてしまいました。二度とこういったことが起こらないよう、きちんと知っておくべきかと思います」

「いや、えっと。それはだな……」


 頬を引き攣らせるシドリウスはしどろもどろになる。

 助けを求めるようにシドリウスが紫紺蝶へと視線を移す。

 しかし、肝心の紫紺蝶は逃げるように姿を消してしまった。



 フィリーネは目を輝かせながら、シドリウスの手を両手でがしりと掴む。

「私はシドリウス様のために全力で努力します。なので、食べるの意味を具体的かつ詳らかに教えていただけますと助かります。因みにカロンさんから、布地は薄いのが良いとアドバイスをいただきました。それはどうしてですか?」

「カロン、余計なことを……」

 恨み節を口にするシドリウスなどお構いなしに、好奇心旺盛なフィリーネは続ける。


「教えてくださいシドリウス様。私はまだまだたくさん知識を吸収しないといけません。なんて言ったって、私はシドリウス様の番ですからね!」

 別の意味で、シドリウスの試練はもうしばらく続きそうだ。



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