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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第5章

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第36話 言い伝えの真相



 ***


 空に浮かぶ空都の城にて。

 シドリウスは城内の執務室で淡々と仕事を進めていた。

 側ではエリンジャー家の文官が数名控えている。


「竜王の命により、今日から魔法契約書の利用は禁止とする。それに伴い、これまで結ばれていた契約書も無効とする」

「御意。各方面に通達を出し、速やかに処理を行います」

「念のため、ここ百年で発行した魔法契約書の数を調べ、誰のもとに渡ったのかも確認しておいてくれ。将来的に回収できるように整備もして欲しい」

「承知しました」


 文官はシドリウスが署名した文書を受け取ると、執務室から出ていく。

 それと入れ違いでヒュドーが部屋に入ってきた。

「シドリウス様、準備が整いましたので同行願います」

「分かった」


 席を立ったシドリウスがヒュドーと共に向かったのは、ミリーネのいる面会室だった。

 舞踏会での騒ぎのあと、ミリーネはハビエル同様に空都の牢屋に収監さていた。

 着の身着のままで収監されたミリーネが着ているのは、フィリーネから奪ったドレスだ。


 シドリウスは一瞬八の字を寄せるが、すぐに平静を装って席に着く。

 ヒュドーから挨拶をするよう促されたミリーネは、手錠を嵌められているにもかかわらず、優雅な所作で挨拶をした。


「竜王陛下にミリーネ=アバロンドがご挨拶申し上げます」

 ミリーネの洗練された動きを見て、フィリーネとの格差に胸が痛んだ。

(闇の精霊から祝福を受けてしまったが故にフィーは虐げられる羽目になった。本来ならミリーネと同じように教育を受けるはずだったのに)


 このような格差を生み出したハビエルに憤りを覚える。そしてそれはミリーネにも。

 同じ姉妹なのに、妹が父親から虐げられて疑問に思わなかったのだろうか。


 もともと光の精霊師の数自体が少なく、さらにミリーネは強力な力を持っていた。

 それ故、自分は特別な存在であり、闇の精霊から祝福受けたフィリーネは格下とでも思っていたのだろうか。



 シドリウスが黙考していたら、痺れを切らしたミリーネが口を開く。

「竜王陛下、この度は無礼な態度をとって本当に申し訳ございません。私は妹と一緒にいるのが竜王陛下だなんて知らなかったんです!」

「ミリーネ嬢、シドリウス様の許可なく発言しないでください」

 ヒュドーがきつく注意をするが、ミリーネはやめなかった。


「舞踏会でのことも謝ります。あれは妹をちょっと揶揄うためにしただけで、陛下を不快にするつもりはありませんでした。どうかお許しください!」

 シドリウスは短く息を吐いて席を立つ。

 ゆっくりとミリーネの前に立つと、アイスブルーの瞳をすっと細めた。


「揶揄うにしてもおまえの行為は度が過ぎていた。そもそも、怪我をさせてしまったことに対してきちんとフィーに謝ったのか? 俺に許しを請うなど、見当違いにもほどがあるぞ?」

「えっと。それは、その……」

「謝ってないんだな?」

 深いため息を吐いたシドリウスは、あることをつけ加えた。



「言い忘れていたが、おまえからは光の精霊の魔力が感じられない。どうやら、見限られたようだな」

「えっ?」

 ミリーネは目を白黒させる。

 舞踏会での騒動以降、ミリーネは光の精霊・ニアを呼び出していない。

 慌ててミリーネは召喚呪文を唱えた。


「精霊界より契約者の声に応え、姿を現せ。我に力を貸したまえ」

 室内はしんと静まり返って何も起こらなかった。

 再度ミリーネが呪文を唱えるが、一向にニアは現れない。

「ど、どうしてよっ!?」

 金切り声を上げるミリーネに、シドリウスが淡々と事実を説明した。


「これは先代のギデリウスから聞いた話なんだが、光の精霊は心優しい性格をしていて、誰かが傷つくのを極端に嫌う。もしも自分と契約する人間が攻撃的だと判断したら、一方的に契約を解除して二度と姿を見せないらしい」

 アバロンド家では闇の精霊師は光の精霊師の力を奪い、不幸を振り撒くと言われてきた。


 しかし、実際のところは闇の精霊師を傷つける光の精霊師を見た光の精霊が、一方的に契約を破棄したと推測できる。したがって闇の精霊師が力を奪うのではなく、光の精霊が力を貸さなくなったのである。

 恐らく何代か前に光の精霊師と闇の精霊師が誕生し、光の精霊師が闇の精霊師を攻撃して力を失ったのだろう。

 語られていくうちに、話の内容が少しずつ変わって、今のように闇の精霊から祝福された子供が虐げられるようになってしまった。



 現実を受け入れられないミリーネは肩を震わせる。

「そんなの嘘。ニアが私を裏切るわけない。きっと忌み子が私から力を奪ったんだわ!」

 何を言っても聞く耳を持たないミリーネは、何度も召喚呪文を唱え続けている。


 すると、控えていたヒュドーが「ご心配なく」と言ってつけ加えた。

「アバロンド家の傍系には、数名ほど光の精霊師がいらっしゃいます。ミリーネ嬢ほどの力はなくとも、今後王国で活躍してくれるでしょう」

「なっ……」

「あと、ミリーネ嬢の処遇はランドレイス家に預けています。許すも何もシドリウス様は一切関与しません。嘆願するならランドレイス家へどうぞ」


 にっこりと微笑むヒュドーだが、この時ばかりは主人同様に目が笑っていなかった。

 シドリウスは内心苦笑すると、ミリーネに向かって人差し指を立てる。


「まあ、俺が一つだけランドレイス公爵にお願いしたのは、二度とおまえが俺やフィーの前に現れないことくらいだな。……元光の精霊師として、一生をかけて社会奉仕するといい。きっとそこでも一番星(エトワール)になれるだろう」

 社会奉仕という言葉を受け、自分が今後どうなるのか瞬時に悟ったミリーネは、悲鳴じみた声を上げた。

「い、いやよ。馬鹿にしないで! 私は社交界のエトワールで光の精霊師、ミリーネ=アバロンドなのよ!? そんな私が修道女になって社会奉仕だなんて……嘘よおおっ!!」

「今更、どれだけ悔いたところで時は巻き戻らない。現実を受け入れるんだな」


 その場に泣き崩れるミリーネを尻目に、シドリウスは捨て台詞を吐くと、面会室をあとにした。



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