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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第4章

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第33話 対峙2(シドリウス視点)



 シドリウスが声をかけるが反応はない。

「とんだ小物だったな」

 立ち上がったシドリウスは、気絶しているハビエルを眺めながら呆れた声で言う。


「いやいやいや。シドリウス様が怖すぎなんですって。あんな風に凄まれたら誰だって気を失います!!」

 血の気を失ったヒュドーは自身を抱き締めながら怯えていた。

「大袈裟だぞヒュドー。ちょっと脅かしただけだろう? これは伯爵が勝手に自滅しただけで、俺は物理的に手出ししていない。寧ろ手厚く助けたんだから」


 シドリウスは前髪を掻き上げながらふうっと息を吐く。

 本当なら発言通りにしても良かったが、それだと君主として民に示しがつかない。


 また、アバロンド家の使用人は不公平な魔法契約書を結ばされている。その辺もきちんと調査をして解消しなければいけない。

 よって、シドリウスの独断で処罰するのは困難だった。



「魔法契約書を悪用した件について、あとはしっかり法の裁きを受けさせる。伯爵は空都の牢屋に収監しておけ」

「かしこまりました」

 ヒュドーは気絶しているハビエルを手際よく拘束する。

 そして、グラウクスと共に空都に向かう手はずを整えた。


「フィリーネ様が首を長くして待っています。あとは僕に任せてお戻りください」

「そうだな。今夜はランドレイス公爵の見舞いが目的だったし、それが済んだら屋敷に戻るとしよう」


 人払いの魔法を解除して、シドリウスはヒュドーと別れた。

 廊下を進んでいると、不意に頭上で僅かに魔力を感じた。

 見上げれば、屋敷で見た紫色の蝶がひらひらと飛んでいる。



「おまえが、フィーに祝福をした闇の精霊だな。守護の魔法のせいで、俺はフィーの存在を感知できなかった」

 紫紺蝶の守護の魔法は今も効いていて、離れているフィリーネの存在を感じ取るのは難しい。そもそもシドリウスがフィリーネを番だと認識したのだって、彼女を視界に入れた瞬間だった。

 これを解消するために、シドリウスは自分の魔力を込めたピンクスピネルの指輪をフィリーネに贈った。


 あの指輪を肌身離さずつけてもらうことで、シドリウスはどこにいてもフィリーネの存在を感じられる。

 頭上を舞っていた紫紺蝶がシドリウスのもとへやって来る。何か伝えたいことがあるようで、しきりにシドリウスの周りを飛んでいる。


「どうした? 何が言いたい? 魔力を飛ばしてみてくれ」

 シドリウスは紫紺蝶から発せられる魔力で意思疎通を図ろうとする。

 その瞬間、フィリーネを助けてという言葉が脳裏に浮かんだ。


「……っ」

 シドリウスは血相を変えて走り出す。

 大広間は相変わらず大勢の参加者で賑わっていた。

 誰かと肩がぶつかろうと構うことなく、シドリウスは目的の場所へと進む。



「フィー、どこにいるんだ? フィー!?」

 待たせていたバルコニーに到着するが、そこには誰もいない。

(まさか、誰かに攫われたんじゃ……)

 シドリウスは己の危機管理のなさに舌打ちをした。


 長い時間、フィリーネから離れるとは思っていなかったので迂闊だった。

 紫紺蝶が必死に伝えてくるのだから、きっとフィリーネの身に危険が迫っているに違いない。

 乱れた息を整えながら、シドリウスはフィリーネに贈った指輪に意識を集中させた。


 指輪は案外すぐ近くで感じられた。次に、後ろから誰かに抱きつかれる。

「フィー?」

 ちらりと後ろを見ると、月夜に照らされて白銀の髪が見える。サイドにはシドリウスが贈った真珠とダイヤモンドで作られた蝶の髪飾りがついていた。



「なかなか戻ってくれなくて、寂しかったんですよ」

 フィリーネが声を震わせながら呟く。

「遅くなってすまない」

 シドリウスは抱き締めてくるフィリーネの手に、自身の手を重ねた。

 左手薬指にはピンクスピネルの指輪がはまっている。


「大丈夫です。でも、今夜はずっと一緒にいてください。もう私、シドリウス様と離れたくありません」

 弱々しく切ない声に庇護欲をかき立てられる。

「ああ。俺も離れたくない。フィーが恋しくて堪らない」

「シドリウス様も私と同じ気持ちだったのですね。嬉しいですっ」


 感激したフィリーネが顔をシドリウスの背中に埋めてくる。

 シドリウスはくすりと笑うと、フィリーネの手をとんとんと叩いた。

「フィー、訊きたいことがあるんだが訊いてもいいか?」

「はい。何でしょうか?」

「――本物のフィーはどこにいるんだ?」


 シドリウスは声のトーンを落として尋ねる。

 一瞬、後ろにいる相手の息を呑む音が聞こえた。

 だが、すぐにしおらしい声が聞こえてくる。


「シドリウス様ったら何を仰っているのですか? 私はフィリーネです。どうしてそんな意地悪を……」

「そうだな。まず、フィーは俺に寂しいなんて言わないし、猫なで声で話さない。思わせぶりな態度も取らない。おまえと違って潔いからな」

 シドリウスは抱きついている相手の手首を掴んで捻り上げ、自身の身体を向けた。


「もう一度訊く。本物のフィーはどこにいる? ミリーネ=アバロンド」

 正体がバレたミリーネはぐうの音も出ない。ただ、下唇を噛みしめて罰の悪い顔をする。

「それとそのドレスも宝飾品も、すべてはフィーのものだ。どうしておまえが身につけている?」

「これは、だから……」

「ドレスが体型と合っていないせいで随分と見苦しいな」

 シドリウスは思ったことを口にしただけだったが、ミリーネは顔を真っ赤にした。


 頭に血が上ったのか、ミリーネは易々と理由を話してくれた。

「忌み子の絶望する顔が見たくて成り代わってやったの。あなたこそ、あんな薄気味悪いののどこが良いの? 見る目がないにもほどがあるわ!」

 ミリーネは柳眉を逆立てて叫んだ。

 シドリウスはやれやれというように肩を竦める。


「十数年も一緒に暮らしていたくせに、フィーの良さが分からないなんてそれこそ見る目がない。フィーは可愛い。誰がなんと言おうと可愛すぎる」

 フィリーネに想いを馳せるシドリウスは、うっとりとした表情で語った。

 ふと、シドリウスは掴んでいるミリーネの手に目が留まる。


「これは血か?」

 ミリーネの爪には血が付着していた。

 親指の腹で拭えば取れるくらいには、まだ新しい。

 ミリーネは鼻を鳴らしながら、シドリウスの掴んでいる手を振りほどく。


「忌み子が指輪を返してって暴れたのよ。爪で引っ掻いたからその時の血だわ」

「……フィーを傷つけたのか?」

「私は悪くない。あの子がいけないのよ」


 フンッと鼻を鳴らすミリーネ。

 一方で、シドリウスは体内の血が沸騰していくのを感じた。

 怒りが抑えられない。目の前が真っ赤になる。



「私の言うことを聞いて大人しく従っていれば怪我なんてしなかっ……、きゃああっ!!」

 ミリーネの悲鳴がバルコニーに響き渡った。


 何故ならシドリウスの美しい顔が歪み、口が裂けているからだ。陶器のように滑らかだった肌には鱗が現れ、徐々に人間とは違う生き物へと変化していく。

 上背があるシドリウスがさらに大きくなる。

 バルコニーはシドリウスの重みでヒビが入った。

 ミリーネは間一髪で大広間に戻る。それと同時に激しい音を立ててバルコニーが崩れた。



「おい、あれは何だ?」

「外に何かいるぞ!」

「きゃああっ!!」


 異変に気づいた貴族たちがどよめいて悲鳴を上げる。

 怒り狂うシドリウスは、竜の姿になっていた。



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