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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第3章

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第26話 羨望は嫉妬へ(ミリーネ視点)



「あとは父上が目覚めてくれたら良いんだけどね」

 アーネストが切望していると、ノック音とともに扉が開いた。

 入ってきたのは、先ほど案内をしてくれた執事だ。


「アーネスト様、お客様が到着されました」

「お客様ですって?」


 ミリーネは八の字を寄せる。

「悪いけどエリンジャー家の者が訪ねて来たようだから、僕は失礼させていただくよ。今度うちで開く舞踏会の件で打ち合わせをするんだ」

「だとしても優先すべきは婚約者である私じゃない? まだ顔を合わせて十分も経っていないわよ」


 先客はミリーネだ。せめてもう少し対応してから席を外すのが筋ではないだろうか。

 いくら婚約者だとはいえ、これほど雑に扱われるのは納得がいかない。

 ミリーネが目を尖らせると、アーネストは反論した。


「父上の治療を始める前に僕と四時間も一緒にいたじゃないか。食事もしたし、庭園の散歩もしたよね」

「それはそれ。これはこれよ! 疲れた私を労るのが婚約者の務めでしょ?」

 アーネストは辟易とした様子でため息を吐く。


「これ以上君に割く時間はないよ。もともとエリンジャー家の者とは約束していたから、突然訪問されたわけでもないし。とにかく、心ゆくまで休んでいってね。僕はこれで失礼するよ」

「アーネスト様、待って!」


 必死に引き留めるが、アーネストは構わず執事を伴って踵を返していった。

 残されたミリーネは、すかさず側で控えていた侍女に声をかける。


「ちょっと、どうにかしてアーネスト様を連れ戻してちょうだい」

 侍女は表情を変えず、深々と頭を下げて言う。

「申し訳ございませんお嬢様、私にそのような権限はありません。どうか今はお寛ぎになってくださいませ」

「はあ? 最初から諦めるの? どうやったらできるのか考えなさいよ!」


 叱責するものの、侍女は平謝りに謝るだけで結局何もしてくれなかった。

「この役立たず。もういい。帰る!!」

 お茶を胃に流し込んだミリーネは、怒りを抱えたまま公爵家を後にした。




 馬車に乗り込むと、腕を組んでぎりぎりと親指の爪を噛む。

(結婚して嫁いだら、あの無能な侍女は絶対にクビよ。あんなのが公爵家で働いているなんて許せない!)

 あの侍女の顔はしかとこの目に焼きつけている。


 自分が公爵夫人となり、屋敷を管理するようになった暁には、暇を出してやろうとミリーネは誓った。次に、怒りの矛先はエリンジャー家へと向かう。

(エリンジャー家の者は遠慮って言葉を知らないのかしら。竜王陛下とランドレイス家の伝書鳩みたいなものなのに出しゃばらないで欲しいわ。舞踏会に関する話らしいけど、どうせ大した内容じゃないんでしょ)


 毎年この時期はランドレイス家の古城で舞踏会が開かれる。

 ミリーネもアーネストの婚約者として花を添えていた。

 今年は公爵が床に伏せっているため、アーネストが主体で動かなければならず、仕事の合間に招待状リストの作成や、飾りつけの打ち合わせを行っていた。


 ミリーネも積極的に手伝おうと手を挙げたが「君は精霊師の仕事が忙しいから迷惑はかけられない」と断られてしまった。

 だからエリンジャー家の者と舞踏会の打ち合わせをすると聞かされて、面白くないのもある。自分はダメで、どうしてエリンジャー家の者なら良いのだろう。


 将来伴侶となるミリーネよりも竜王陛下の忠臣という部分だけが同じエリンジャー家とでは信頼関係が雲泥の差ではないだろうか。

 アーネストの相変わらずな態度にミリーネは懊悩した。



「はあ。気晴らしに買い物をしたいけど、できそうにないから町でも散策してストレスを発散するしかなさそうね」

 確かこの辺りの町では、お祭りが開催されていたはずだ。

(たまには平民の祭りを見物するのもいいかもしれない)


 ミリーネは前の窓を叩いて御者に行き先の変更を伝え、町へと繰り出した。

 祭りの会場近くで下ろしてもらったミリーネは、少し離れたところから聞こえて来る音楽に耳を傾ける。広場の中央では、うら若い男女が楽しげにダンスを踊っていた。


(上流階級の優雅で重厚なダンスとは違って、平民のダンスは陳腐で低俗ねぇ)

 自分とは住む世界が違うと改めて実感していたら、目を疑う光景が飛び込んでくる。

 ダンスを踊っている中にフィリーネがいたのだ。眼鏡はかけていないが、あれはフィリーネで間違いない。


「どうして忌み子が踊っているの? しかも男と一緒ぉ!?」

 ミリーネは驚愕した。男と楽しく踊っているフィリーネは屋敷にいた時とは比べものにならないほど幸せそうだった。


 踊っている相手は一体どんな人物だろう。

 ミリーネは目を凝らして相手を確認する。

「まあ、なんて美しい顔なの!」


 ミリーネは思わずため息を吐いてしまう。フィリーネと一緒に踊っている相手はアーネストを軽々と凌ぐ絶世の美青年だった。

 美青年が優しい面差しでフィリーネとダンスを共にしている。そう思った途端、ミリーネは敗北感のようなものに襲われた。


 ただ不幸を振り撒く存在で、自分よりも劣っているはずのフィリーネが美青年と幸せそうにしているのが許せなかった。

「私はアーネスト様に見向きもされずに辛い想いをしているっていうのに」

 地団駄を踏んでいると音楽が鳴り止む。


 やがて、踊っていた男性たちが一斉に女性へ贈り物を始めた。

 それには当然あの美青年も含まれるのだが、あろうことに大粒の宝石――ピンクスピネルがついた指輪をフィリーネなんかに贈っているではないか。


 男たちから散々贈り物を渡されてきただけあって、ミリーネは宝石の価値をそれなりに理解している。ピンクスピネルは希少価値が高く、滅多に手に入れることのできない宝石の一つだ。


 稀少な石の指輪をフィリーネに贈るだなんて。あれでは豚に真珠もいいところだ。

 指輪を受け取ったフィリーネはというと、満更でもない様子で頬を赤く染めている。

 その光景を見てミリーネは悟った。


 フィリーネは、あの美青年に恋心を抱いているのだと。



(無理もないわね。あんな美しい青年に指輪を渡されたら誰だって恋に落ちるわ)

 大きな宝石の指輪を買えるだけの財力と、品を感じる優雅な所作。

 恐らく彼は、どこかの貴族令息で間違いなさそうだ。舞踏会で顔を見たことがないので、地方貴族だろう。


(爵位はアーネスト様の方が上だろうけど、財力でなら負けないんじゃないかしら……)

 その上、フィリーネはあの美青年を慕っている。

 ミリーネはその様子を見て閃いた。


 もしも、社交界のエトワールと呼ばれている自分があの美青年を骨抜きにして奪ったら、フィリーネはどんな反応をするだろう。そして、ランドレイス家でなくても莫大な財力があるなら、あの美青年に貢がせて借金を減らせばいい。これなら一石二鳥だ。


 ミリーネは口角を吊り上げる。

「うふふ。今年の舞踏会は全ての上流階級の人間に招待状を送ったって、アーネスト様が言っていたわね。なら、あの美青年も出席するはず。このことはお父様に報告しないといけないわ」


 好きな相手を取られて絶望するフィリーネの顔を想像したら、楽しくて仕方がない。

 愉悦の表情を浮かべるミリーネは踵を返すと、馬車に乗り込んだ。



 屋敷に戻ると、真っ先に書斎へ向かう。

 書斎は葉巻の匂いが充満しているのに加え、どんよりとした空気で重たかった。

 その発信源であるハビエルは席について悄然と項垂れている。

 ミリーネは早速フィリーネの消息について報告した。


「忌み子は生きていたのか? しかも身なりの良い男と一緒だったと。でかしたぞ!」

 ハビエルは机に手をついて立ち上がると歓喜した。

 フィリーネを通してその美青年に頼めば、借金を肩代わりしてもらえると期待しているのだろう。

「お父様、その彼は私が取り入るわ。忌み子には勿体ない相手なんだもの」

 すると、ハビエルが呆れ返る。


「馬鹿も休み休み言え。おまえはアーネスト様の婚約者なんだから火遊びも大概にしろ。それより、アーネスト様に援助の話はしたのか? いくら要求できたんだ?」

 先ほどから金の心配しかしていないハビエルにミリーネが赫怒する。

「そんな話できるわけないでしょう!? だってアーネスト様は……」

 自分に無関心だからと言いかけたところで、パンッという乾いた音が書斎に響いた。


「いい加減にしろミリーネ! おまえは与えられた役目すらまともにできないのか。これなら金持ちの男に取り入った忌み子の方がよっぽどマシだ!!」

 じりじりとした熱を感じる頬を手で押さえる。

 叩かれた衝撃でミリーネの纏めていた髪が解けた。

 生まれて初めて、ハビエルから手を上げられたミリーネは驚きを隠せない。


「アーネスト様に愛されないのはおまえの力不足だろうが。彼に話すのが無理なら一刻も早く公爵様を治して目覚めさせろ。義娘の頼みなら喜んで出してくれるだろうよ」

 わざとらしくため息を吐いたハビエルは、葉巻に火をつける。

「用が済んだのなら下がりなさい。どうやってランドレイス家から金を引き出すかよく考えるんだな」

 ぷはっと煙が吐き出され、室内はより一層葉巻の煙と匂いが充満する。

 俯くミリーネは頬を押さえたまま、書斎を出た。



(借金はお父様の自業自得なのに、私に八つ当たりされても困るわ。……ああ、服についた葉巻の匂いは取れるかしら)

 部屋に戻ったら、マーシャを呼んで着替えを手伝ってもらおう。

 ミリーネは服の裾を嗅ぎながら廊下を歩き始める。



 どうしてこんなに惨めな気持ちになるのだろう。

 ふと、ミリーネはフィリーネの幸せそうな様子を思い出す。

 美青年から大切に扱われるフィリーネが羨ましくて堪らない。

 羨望という感情が嫉妬へと変化していくのが自分でも分かる。


(何の取り柄もないのに、あれが私より愛されるなんておかしいわ。私の方が光の精霊師で凄いのに。私の方が何倍も努力して綺麗なのに……)

 ミリーネは拳を握り締める。


「私の方が優れている。愛されて当然なのはこの私なの……」

 ブツブツと呟くミリーネは誓う。


 ハビエルが何と言おうと、フィリーネからあの美青年を絶対に奪ってみせると。

(ランドレイス家の舞踏会にあの美青年が参加する。だったら……)

 ミリーネは、頭の中で今度の舞踏会で行動に移すための計画を立て始めた。



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