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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第3章

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第25話 光の精霊師(ミリーネ視点)



 ***


 寝間着姿のミリーネはドレッサーの前に座り、入念に肌の手入れをしていた。顔全体に美白効果が期待できる美容液をつけ、蓋をするようにクリームを塗り込んでいく。

(明日は精霊師としてランドレイス家の古城を訪ねる日。アーネスト様にも会えるし、肌のコンディションを整えておかないと)


 社交界のエトワールと名高いミリーネは、多くの令息たちの憧れの的だ。

 ミリーネが夜会に出席すれば、彼らはたちまち媚態を呈する態度を取ってくるし、婚約者がいると分かった上で高価な贈り物までしてくる。

 ドレッサーの上にある宝石箱には、令息たちから贈られた指輪やイヤリングなどの宝飾品がたくさん収まっていた。


 周りからチヤホヤされるものの、心は満たされていない。

 その理由は、婚約者であるアーネストに原因があった。


(他の男たちから言い寄られているっていうのに、アーネスト様は嫉妬するどころか私に一切興味を示さない。……どうしてよ)

 昔は今みたいにギクシャクした関係ではなかった。

 お互い好き合っていたし、幸せな時間を過ごせていたように思う。


 ミリーネの心はいつまでもアーネストを想っている。

 変わってしまったのはアーネストの方だ。もとの優しい彼に戻ってもらうため、ミリーネは態度を改めるよう指導だって試みた。

 ところが、その努力は裏目に出てしまったようで、アーネストにはため息とともにいい加減にしろと言われてしまった。



(いい加減にして欲しいのはこっちの方よ。大事な婚約者に冷たい態度を取って恥ずかしくないのかしら? 一体どこか品行方正のランドレイスよ!!)

 苛立ちを覚えたミリーネは奥歯をグッと噛みしめる。


 特にアーネストの冷淡な態度に拍車がかかったのは、ランドレイス公爵が倒れてからだ。

 二人で過ごす時間はどんどん減っていき、出かけることすらままならない。以前なら会えない時でも手紙を送ってくれていたが、近頃はそれすらもなくなってしまった。


 アーネストの心は完全に冷めている。特にそれが顕著に表れ始めたのは、フィリーネと会ってからだ。

 きっと、フィリーネがアーネストに良からぬことを吹き込んだに違いない。

 でなければ、アーネストの態度がここまで悪化することはなかった。



(忌み子は私の印象を悪くするためにわざわざ階上にやって来て、根も葉もない話をしたんだわ。ああ、イライラする! ていうか、なんで行方不明になるのよ!)

 ミリーネは親指の爪を噛む。


 マツの木と結婚を言い渡したあの日、フィリーネは自力で帰ってくるだろうとミリーネは高を括っていた。ところが、二、三日経ってもフィリーネは帰ってこず、そうこうしているうちに商談に出かけていたハビエルが屋敷に帰ってきた。



 事実を知ったハビエルからは散々叱られた。

 すぐにマツの木がある崖へアバロンド家の騎士団を向かわせたが、そこにあったのは根元付近の幹だけだったという。

 近辺を隈なく捜索したが、結局フィリーネは見つからなかった。


 騎士団長の見立てでは、マツの木ごとテネブラエ湖に落ちて溺死したのではないかとのことだった。

 死体がないか騎士たちに捜索させたが、とどのつまりは見つからなかった。


(どうせどこかで生きているに違いないわ。忌み子は雑草並みにしぶといもの。帰ってこないのは、私が二度と屋敷に戻ってくるなって言ったのを真に受けているからよ。まったく、これだから教養のない愚か者は困るわ)


 ミリーネは鏡に映る自分を見る。苛つきすぎて眉間に皺が入っている。

「忌み子に気を取られてはいけないわ。お手入れしたばかりなのに効果が薄れてしまう」

 眉間の皺をなくすべく指で押さえていると、突然ハビエルが部屋に入ってきた。


「お父様、レディの部屋にノックもなしに勝手に入ってこないでくださる?」

 咎めるミリーネだったが、ハビエルの様子を見て態度を改める。

「どうしたの? 顔色が悪いわ」

 疲れ果てているハビエルは身体を引きずるようにして近づいてくると、ミリーネの両肩を掴んできた。



「ミリー、折り入って頼みたいことがある。おまえの持っている宝飾品をいくつか私に譲ってくれないか?」

「え? どうして?」

「……前にプセマ準男爵との商談があると言っていただろう? あれは鉱山採掘の投資話だったんだが、大損してしまった。それに加えて領地で落石事故が発生して大規模な整備も必要になった。要するに我が家は今、莫大な借金を抱えている」

「なんですって!?」


 ミリーネは素っ頓狂な声を上げた。

 どれほどの損害を被ったのかは、ハビエルの切羽詰まった態度で一目瞭然だった。


 宝飾品を譲って欲しいと実の娘に頼んでくるくらいなので、完全に首が回らなくなっているらしい。

 これまで先代伯爵たちが築き上げた財産でも支払えないのなら、あとは領地やこの屋敷を売るしかない。最悪の場合は、爵位も視野に入れないといけない。


 由緒正しい光の精霊師一族であるアバロンド家が窮地に陥るなんて夢にも思わなかった。

 肩を掴むハビエルの手に力が籠もる。


「ミリー、明日ランドレイス家に行くんだろう? だったら援助してもらえないか訊いてみるんだ。うちが困っていると知ったら、あちらも手を貸してくれるはずだ」

「だけどお父様……」


 ミリーネは言葉を詰まらせる。

 ランドレイス公爵が倒れて数ヶ月。彼は夢塞病に侵されていて、ミリーネは定期的に公爵家に通い、光魔法で治療に当たっている。しかし、公爵が目覚める兆しはまるでない。

 何故なら、ミリーネが行っているのは夢塞病の治療ではなく、体力の回復だからだ。


 光魔法は怪我や体力を回復する治癒の魔法に特化しているだけで、精神系の病は治せない。

 そうなると、援助の話はアーネストに頼むほかないのだが、婚約者のミリーネを顧みない彼に借金を抱えていると伝えたら、婚約解消の口実になるかもしれない。


(無理よ。アーネスト様には口が裂けても援助してだなんて言えないわ)

 ミリーネが口を開きかけると、ハビエルに遮られる。


「頼みの綱はおまえだけだ。何をそんなにもたついているのかは知らんが、さっさと公爵の病を治してしまえ。でないと私たちは赤貧洗うがごとき生活を送る羽目になるぞ。分かったな?」

 ハビエルは光魔法がなんでも治せてしまう優れものだと勘違いしている。幾度となくミリーネが光魔法の特性を伝えているが、まるで理解していない。


(他の魔法と違って、光魔法は曖昧な部分もあるから想像しづらいんだわ。一応、夢塞病は私の魔法では治せないって伝えたはずだけど。切羽詰まって忘れているのかしら?)

 ミリーネはどう説明しようか思案する。


 すると、ハビエルがドレッサーの上にある、宝石箱から勝手に掴めるだけの宝飾品を掴み取った。

「お父様、何をするの!? それは私のよ。勝手に取らないで!!」

「これは当面の生活費としてもらっておく。一つでも多く返して欲しければ、明日ランドレイス家と話をつけてくるんだ。分かったな!」

 ハビエルは捨て台詞を吐くと、部屋から出ていってしまう。


 残されたミリーネは下唇を噛み、身体を震わせた。

(自分で撒いた種なのに好き勝手言わないで欲しいわ。私がどれだけ心を砕いていると思ってるのよ!)

 噛みしめる下唇はじんわりと血が滲んでいる。

 ミリーネは怒りを爆発させるようにダンッと化粧台を拳で叩きつけるのだった。




 次の日、光の精霊師としてミリーネはランドレイス家の古城を訪ねていた。

 執事に公爵が眠る寝室へ案内される。


 ベッドに横たわる公爵は血の気がなく、頬は痩けていた。前回の治療で訪れた時よりも、容態が悪化しているのは明らかだった。

「公爵様、ミリーネ=アバロンドです。本日も治療にあたります。身体を楽にしてくださいませ」

 ミリーネは両手を広げると召喚呪文を唱えた。


「精霊界より契約者の声に応え、姿を現せ。我に力を貸したまえ」


 ミリーネの声に反応するように彼女の足下に黄金の粒がいくつも現れる。

 それらはミリーネの身体を軸として回転しながら、上へ上へと登っていく。

 そして肩の辺りに到達すると、光の粒が一つとなり、黄金の猫が姿を現した。


 猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、ミリーネの肩の上にのり、長い尻尾を揺らしている。

「ニア、公爵様を癒やしていくから力を貸して」

「ミァ!」


 ミリーネはランドレイス公爵の手を握り締めると、自身の額に当てる。

 たちまちミリーネの全身が輝き始め、その光がランドレイス公爵の身体に移って黄金に輝き始める。

 ミリーネは光の精霊師としてランドレイス公爵の身体を癒やしていった。


 夢塞病で目覚めない公爵が何も食べずに無事でいられるのは、ミリーネの治療の賜物だった。

 こうして一時間かけて、公爵の治療は完了した。


 魔法を使い続けたこともあり、全身から疲労を感じる。

「ありがとう、ニア。もうあげられる魔力はないから帰っていいわよ」

「ミッ!」

 ミリーネがお礼を言うとニアは瞬く間に姿を消した。



 公爵の治療を終えて寝室を出た後、執事に応接室へと案内される。

 応接室は公爵の寝室の隣にあり、ミリーネ専用の部屋として設けられていた。

 テーブルにはミリーネが好きな焼き菓子が数種類用意されている。


「どうぞ、お寛ぎください」

「ありがとう。遠慮なく休ませてもらうわ」


 ミリーネが席に着くと、後ろで控えていた侍女がお茶を淹れてくれる。

 淹れたてのお茶を飲んでホッと一息入れていたら、アーネストがやって来た。


「ミリーネ嬢、治療してくれてありがとう。父の代わりにお礼を言うよ」

 手の甲にキスをして挨拶をするアーネストにミリーネは悦に入る。


 普段は忙しくて塩対応なアーネストも、この時ばかりはいつも以上に優しくしてくれる。

 感謝して大事に扱ってくれる。

 ミリーネは嬉々とした表情を浮かべていた。


「光の精霊師として、これからもしっかり務めは果たしていくわ。公爵様には元気でいてもらわないといけないし」

 義父となる公爵に恩を売っておいて損はしない。目覚めた時になんと良い娘が嫁に来てくれるのだと感動してくれるはずだ。

 気乗りはしないが、援助の件も頼みやすくなるだろう。



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