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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第3章

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第24話 ピンクスピネルの指輪



 到着した広場は、多くの人が集まって賑わいをみせていた。

 一画には様々な屋台が軒を連ね、軽食や雑貨などが売られている。


 とりわけ多く見られたのは魚の串焼きだ。テネブラエ湖は魚がよく捕れるため、町の名物になっているとシドリウスが教えてくれた。

 味はさっぱりとしていて、身はふわふわしているのだとか。どこからともなく漂う香ばしい匂いは、通行人の食欲を刺激する。

 フィリーネも屋敷でコーディアルとクッキーを食べてこなければ、ここで魚の串焼きを買っていたかもしれない。


 屋台の端から端まで歩き終えたところで、楽団による演奏が始まった。

 広場の中央ではうら若い男女が集まり、楽しそうにダンスを踊っている。


「フィー、俺たちも一緒に踊ろう」

「ええっ!? 私たちもですか?」


 誘われたフィリーネは面食らった。

 シドリウスと踊るのは成人してからで、まだ先だと高を括っていた。

 まさか今日踊ることになるなんて予想だにしなかった。



 ダンスは毎日練習しているけれど、未だに音楽と合わせては踊れない。今朝だって散々な結果だった。

 流れてくるのは知っている曲でもないし、どう踊るのが正解か分からない。


 ステップを踏み間違えてシドリウスの足を踏んでしまったり、転んでしまったりしたらどうしよう。

 及び腰になっていたら、シドリウスが回り込むようにしてフィリーネの前に立った。


「こういう祭りのダンスは貴族のものとは違ってなんでもありだ。上手く踊ろうなんて考えるな。頭を空っぽにして、ただ音楽に身を任せておけば、自然と身体が踊りたいように踊ってくれる。ほら」

「わっ!」


 シドリウスに手を引かれたフィリーネは、広場の中央まで連れて行かれる。

 ここまで来たら流石に踊って帰らないわけにはいかない。

 覚悟を決めたフィリーネはシドリウスのアドバイスどおりに踊ってみることにした。


 上手く踊ろうという意識は封印して、頭を空っぽにする。ただ音楽に身を任せてみる。

 するとどうだろう。これまでとは打って変わって、身体が自然とリズムに乗れるようになった。


 もつれていた足が勝手にステップを踏む。音楽に合わせてくるりとターンすれば、シドリウスが腰を支えてくれた。

 楽しい。こんなに楽しいのは初めてだ。身体が軽くていつまでも踊っていられる。

 カロンから習った形式的なダンスだけでなくアドリブも加えてみる。


 フィリーネは感じるがままに踊り続けた。

 いつの間にか心に余裕も生まれてきて、最初こそ下ばかり向いていた顔を上げられるようになった。

 一度も失敗することなく踊り終えたフィリーネは、息を弾ませながら満面の笑みを浮かべる。


「フィーらしい愉快なダンスだったな」

「私、らしい?」


 きょとんとした表情を浮かべるフィリーネに、シドリウスが補足してくれる。

「今のは実にフィーらしい。周りとの調和を重んじながらも、こちらを明るくしてくれるダンスだった。他の人にあんな表現はできない」

 フィリーネは息を呑む。


 アバロンド家で抑圧されてきたフィリーネが自分自身を表現したのはこれが初めて。

 あの屋敷で自分はただの召し使いであり、屋敷の労働力でしかなかった。そこに自分らしさなんて求められないし、出したところで煙たがられるだけだっただろう。


(自分らしく表現するのって、こんなに素敵で楽しいんですね)

 自分の新たな一面と出会えて嬉しい。

 それと同時に、これだけ自分は踊れるのだという自信もついた。


「最後までよくできたな。今みたいに、貴族が踊るダンスも形式的ではあるが案外自由だ。舞踏会でもフィーのやりたいように踊るといい。きっと楽しく踊れる」

 シドリウスが優しく頭を撫でてくれる。

「ありがとうございます。なんとなくコツが掴めた気がします」


 フィリーネは目を細めて頷いた。これまで感じたことのない高揚感に包まれる。

 すると突然、周りで踊っていた男性たちが一斉にパートナーの女性たちへ贈り物を渡し始めた。

 きょろきょろとその様子を眺めていたら、シドリウスが懐から四角い黒の箱を取り出す。



「フィーは知らないだろうがこの祭りはダンスの後、男性が大切な女性に贈り物をするんだ。どうか受け取ってくれ」

 シドリウスが箱を開くと、中には指輪が収まっている。

 フィリーネは目を瞠った。


「ピンクスピネルの指輪……。これは舞踏会には関係ない品ですよ!?」

 希少な宝石のピンクスピネル。

 舞踏会で購入してもらった宝飾品よりも高価なのは想像に難くない。

 フィリーネが困惑している間に、シドリウスが箱から指輪を取り出す。


「俺の気持ちを指輪に込めた。肌身離さず身につけて欲しい」

 左手をすくい上げられ、気づいた時には薬指に指輪がはまっていた。

 太陽の光を浴びたピンクスピネルは、フィリーネの胸の高鳴りに呼応するように煌めく。


(あれ? どうしてこんなにドキドキするんでしょうか。シドリウス様にとって私はただの生贄でしかないのに……)


 恐らく『大切な女性に贈り物をする』という部分で勘違いを起こしてしまったみたいだ。

『大切』という部分は間違いないだろうが、フィリーネはあくまで生贄だ。

 恋人でもなければ、婚約者でもない。ただの生贄なのだ。


(私ったら、ちゃんと分を弁えないといけませんね。シドリウス様に美味しく召し上がっていただくために、残りの人生を生きているだけなんですから)

 だから感傷に浸ってはいけない。


 薬指に光る指輪を見つめながら、フィリーネは自分に言い聞かせた。



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