第23話 息抜きデート
一式揃えてくれるのは大変ありがたいことだが、本当にこれらの品は必要なのだろうか。
(買ってくださってる品のすべてが質の高いものばかりです。値段は分かりませんが相当な額になっているのでは!?)
竜王陛下に挨拶をするたった一回のために、高価なものばかり買い与えられては気後れしてしまう。
ハビエルに眼鏡を買ってもらった時は散々しぶられたし、『忌み子に高価なものを身につける価値はない』とも言われていた。
その刷り込みもあって、自分に高価な品は分不相応だとフィリーネは思っている。
「シドリウス様、どれも身に余る高級品ばかりです。私のために張り切らないでください。必要最低限で構いませんから」
店から出たフィリーネは、隣にいるシドリウスに本音を伝えた。
因みに購入品はすべては屋敷に届けるよう手配しているため、フィリーネもシドリウスも手ぶらである。
「お金なら気にしなくていい。どれも必要経費だ。あと、品位は保っておかないと恥をかくことになるぞ」
そう言われるとフィリーネは反論できなくなる。
格式にそぐわない格好で舞踏会に参加をして自分だけでなく、隣に立つシドリウスにも迷惑をかけることになってしまう。
必要経費と言われればそこまでだが、やはり申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
フィリーネが眉尻を下げていると、シドリウスに人差し指で頬をぷにっと突かれた。
「これくらいで気後れしていたら、次の店では気絶するぞ」
「そうなんですか?」
フィリーネはきょとんとした表情で首を傾げる。
どんな店に連れて行かれるのかと思ったら、次は宝飾店だった。
店内のガラスのショーケースにはネックレスや指輪が展示されていて、どれも大粒の宝石がついている。確かにここは別格だ。
シドリウスは近づいてきた店員と話し始め、一人残されたフィリーネは煌びやかな宝石たちに圧倒されていた。
(うう、宝石たちが眩しいです。別世界にいるみたいです!)
立ちくらみを覚えていると、ある宝石が目に留まった。
それはオーバル型のピンクの宝石がはまった指輪だった。
周りは小さな白の宝石に囲まれて花のようなデザインになっている。
フィリーネは吸い寄せられるようにショーケースに近づいた。
「とっても綺麗です」
見惚れていると、店員と話を済ませたシドリウスが近づいてくる。
「フィー、何を見ているんだ? ああ、それはピンクスピネルとダイヤモンドの指輪だな」
「ピンクスピネル……初めて聞く名前です!」
「希少な石だから無理もない。なんだかフィーの目の色と似ているな」
「そうでしょうか?」
自分の目の色をじっくり見たことがないので分からない。
きょとんとしていたら、丁度戻って来た店員が部屋へと案内してくれる。
商談用の部屋なのか室内は革張りのソファとローテーブルだけが置かれていた。
フィリーネとシドリウスがソファに腰を下ろすと、店員が用意していた黒色の箱をテーブルの上に置く。
蓋が開かれると、中には真珠の三連ネックレスとダイヤモンドのブレスレット、イヤリング、真珠とダイヤモンドで作られた蝶の髪飾りが入っていた。
「……これは明らかに男性ものではないですね」
嫌な予感がしたフィリーネは、隣にいるシドリウスへ視線を向ける。
シドリウスはくすりと笑って頷いた。
「もちろん、これはフィーのために作った宝飾品だ。おまえの楚楚とした雰囲気が増すようにデザインしてもらっている」
「どうですかお客様、ご満足いただけましたか?」
フィリーネはあまりの豪華さに二の句が継げない。
わざわざデザインしたというので完全なオーダーメイド品であるようだ。
(こ、このダイヤモンドはお姉様が持っているどの宝石よりも大きいです。こんな高価なものを私が身につけても大丈夫なんでしょうか!?)
宝石の輝きを遮るように手を前に出しながらも、再度一瞥する。やはり豪華だ。
満足かどうか訊かれたけれど、これは完全に分不相応である。
どう答えるべきか狼狽えていると、代わりにシドリウスが真顔で答えた。
「俺の予想より遥かに良い出来だな。フィーによく似合いそうだ。満足している」
「ありがとうございます。それではお屋敷に配達するよう手配いたしますね」
店員は蓋を閉じると箱を持っていなくなる。
力が抜けたフィリーネはソファの背もたれに背中を沈めた。
「あんな豪奢な宝飾品は初めて見ました。私が身につけて本当に良いんですか。宝の持ち腐れでしょうに」
何がおかしいのかシドリウスはくすくすと笑いだす。
「宝の持ち腐れなんかじゃない。あれはフィーのために俺が作らせたんだ。お前以外に誰があれをつける? 一式持っておいて困らない品だし、あれくらいは普通だ。それに、フィーの晴れ舞台を一緒に準備できて俺は嬉しい」
面映い表情を浮かべるシドリウスに、フィリーネはハッとした。
どこの店でも気後ればかりして、彼の好意を無碍にしてしまっていた。
純粋に買い物を楽しめば良かったのに、申し訳ない気持ちが勝ってできていなかった。
(せっかく初めて町に来たんです。素直に楽しまないと勿体ないですね)
舞踏会も竜王陛下への挨拶も最初で最後の体験になる。
これは人生最後の思い出づくりだ。怯んでばかりいては勿体ない。
フィリーネはお腹に力を入れると背もたれから身を起こした。
「ありがとうございます。私もシドリウス様と一緒に準備ができて光栄です。折角なので、いろんなところを見て回ってもいいですか?」
買い物に来てから一度も見せなかった満面の笑みを向けると、シドリウスの顔が綻ぶ。
「もちろんだ。フィーが行きたいところは、どこでも一緒に行くぞ」
フィリーネたちは再び町へと繰り出した。
「舞踏会に必要な小物は買い揃えたし、どこか行きたいところはあるか?」
「でしたら少し遠いのですが、広場に行ってみたいです。先ほどお祭りのポスターが貼ってあるのを見たので、見物して帰りたいです」
「そう言うと思った。早速行ってみよう」
「ありがとうございます……わっ!!」
フィリーネは対向者と肩がぶつかってよろけてしまう。
シドリウスの腕が抱き留めてくれなければ、転んで怪我をしていたかもしれない。
体勢を整えたフィリーネがお礼を伝えると、何故かシドリウスに右手を握られる。
「広場に行くにつれて人が増える。逸れないよう手を繋いでおこう。あと、ぶつかりそうになったら俺がフィーを守るから」
指と指を絡めて握り締められただけなのに、フィリーネは心臓までギュンっと握り締められたような感覚に陥った。
今までにない体験にフィリーネは戸惑う。
「わ、分かりました」
気のせいだと自分に言い聞かせたフィリーネは、シドリウスと手を繋いで広場に向かった。




