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第5話:賢者の置き土産と静かなる旅立ち

「彼らは、あなたに出国停止を求めています。このままでは、コアを日本国外に持ち出せません!」


 私が焦りを伝えると、悠人はデスクの上にあった一つの試作型マナ電池を指さした。周囲の監視が厳しくなるほど、彼は冷静だった。


「心配ありません。彼らが恐れているのは、私たちが『無限の電力』を世界中にばら撒くことです」


 そして彼は、その試作型マナ電池を床に置き、掌をかざした。


「マナ制御術の基礎応用です。彼らは、私たちが日本にいる限り、技術が漏洩しないと判断するでしょう。だから、私たち自身を足止めする」


 彼の指先から、あの透明な光の波が流れ、マナ電池に集中する。


「これは、私が帰還する前に、異世界で設定した『セキュリティ』です。この電池は、私と綾音さん、私たち二人の生体マナパターンに同期する。覚えていますね、二重の鍵です」


「二重の鍵…?」


「ええ。私たちがこの電池のマナ感知範囲から完全にいなくなった瞬間、つまり私と綾音さんが日本を離れた瞬間、このロックが解除されます。そうすれば、この電池は『無限の電力供給源』として、H大学と周辺の地域に、無期限で安定した電力を供給し始めます」





 私は、数時間前の実験を思い出した。彼の言う『二重の鍵』とは、私たちの生体マナを鍵とした、一種のバイオメトリクス認証セキュリティだ。私たち二人が研究室にいる間はロック状態だが、私たちがここから離脱すればロックが解除され、彼らが最も恐れる『奇跡』が、最も監視が厳重なこの場所で突然実現する。


 彼は、追っ手の視線を自分たちから外し、目の前の現象に集中させるという、途方もないカウンターを仕掛けていたのだ。


 悠人はニヤリと笑った。


「私が日本からいなくなれば、彼らはこの現象を無視できなくなる。そして、この『奇跡』を目の前に、私たちが追求している真の目的を見失うでしょう。彼らがこの『置き土産』の調査に時間を費やしている間に、私たちはアフリカで基盤を築ける」





「行きましょう、綾音さん」


 悠人は、研究の核心であるマナ・リアクターのコアを収めた小さなハードケースを手に取った。それは、この惑星の未来を握る、たった一つの荷物だった。


 私たちは、研究室の電源を落とすことなく、静かに裏口から大学を後にした。東京の夜は深く、監視の目は無数に張り巡らされていたが、私たちの心は既にアフリカの砂漠に向かっていた。


 翌朝、私たちが搭乗した国際線が日本の領空を離脱した、その瞬間。


 H大学のエネルギー研究棟、そして大学に電力を供給していた変電所では、誰も説明できない現象が発生していた。電力計は振り切れ、周辺地域は一瞬の停電すら経験せず、前例のない安定した電力供給が突如として始まった。


 悠人の置き土産は、静かに、しかし決定的な音を立てて、世界の権威と常識の壁を打ち破ったのだ。


 私たちを追っていたIESSAの監視チームは、この異常事態に直面し、追跡を断念せざるを得なかった。彼らがパニックに陥り、この「奇跡」の調査に切り替えた頃、私たちの乗った飛行機は、既にアフリカの空へと入っていた。


 東京の片隅で、世界を変えるための静かなる旅が始まった。

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