表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

第3話「海辺の転校生と消えた弟」

放課後の教室は、いつもより少しざわめいていた。

「今日、転校生が来るらしいよ」

廊下を通り過ぎる生徒たちのささやきに、あかねの心は少しだけざわついた。


その転校生――水島隼翔みずしま はやとは、まだ小柄な中学三年生だという。姉と同じ高校に編入してくるらしいが、町に来て間もないため、クラスの誰も顔を覚えていない。


あかねは、彼の存在をすぐに感じ取った。――かすかな輪郭、だけど、周囲の生徒たちはそれを認識していない。


放課後、体育館の裏で、隼翔がひとりベンチに座っているのを見つけた。


「あなた……転校生の隼翔くんだよね?」あかねが声をかけると、彼は小さくうなずいた。


「……あの、僕の弟、消えちゃったんです」


隼翔の言葉に、あかねの胸がぎゅっと締め付けられる。

「弟……?」


「はい。町に来た日から、誰も弟のことを覚えていなくて……写真も、名前も、全部消えたみたいで」


あかねは迷わず手帳を取り出す。

【水島弟 隼翔の弟 名前は陸 笑顔が元気 妹思い】


書き込むと、かすかに風が教室を揺らし、消えかけた弟の輪郭が、あかねの中で少しずつ戻ってくる。


「見える……!」隼翔の目が少し潤んだ。

「僕、陸に会いたかった……」


あかねは手帳をそっと閉じ、二人に微笑む。

「私が覚えてる。だから、陸くんも、ちゃんとここにいる」


その瞬間、体育館の隅に、小さな影が現れた。光に揺れる髪と、にっこり笑う顔。隼翔の弟、陸だ。


「……あかねさん」隼翔は驚きと感謝の入り混じった声で言った。


あかねはそっと手を差し伸べる。

「怖くなかった? ちゃんと覚えてるよ」


陸はあかねの手を握り返し、二人の間に小さな温もりが流れる。

忘れられたものが、再びこの世界に戻る――あかねの“奇跡”は、今日も静かに、でも確かに町の片隅で起こったのだった。


夜、海沿いの帰り道、あかねはふと空を見上げる。灰色の雲の隙間から月の光が差し込む。


――この町に流れる“忘れの季節”。誰かを忘れるのは、ただの偶然じゃない。何かが、意図的に人々の記憶を変えているのかもしれない。


あかねは手帳を胸に抱きしめる。

次は誰が、消えかけているのだろうか――。


そして、あかねの物語は、少しずつ大きな謎へと近づき始める。

お読みいただきありがとうございました。

続きは明日以降更新を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ