20.終戦会談
唐突にサリオス王から終戦会談の開催を提案がなされた。
やや疑念を抱きながらも、シュネル王太子はこれを受け、元ソニンク辺境伯邸で行うこととした。
お互いに武装はしないこと。これを持って二国間の戦争を永久に終了させること。
このふたつの条件を元に終戦会談は行われることになった。
「一応、天馬騎士団の面々には同行して欲しい。武装はできないが、念の為な」
シュネル王太子はレオン騎士団長に命じた。
「はい、レシステンシアには軍旗を持たせても良いでしょうか」
「……武器では無いからな、何があってもいいように持たせておこう」
「は」
レオンは跪いて応えた。
────元ソニンク辺境伯邸大ホールにて、終戦会談。
スタセリタ側には、王と廷臣たち数名、それに司祭たちが目立った。さらには舞踏会でも開こうと言うのか、お抱えの楽団も連れてきていた。
セリエンホルデ側は、シュネル王太子と廷臣数名。それにレシステンシアを含む天馬騎士団と共に会談に向かうこととなった。
ふたつの陣営は長テーブルに一列になって並んでいる。
ここでふたつの陣営の長が終戦の誓約書に署名すれば戦争は終戦となる。
「サリオス王は本当に戦争を辞める気でしょうか?」
レシステンシアは普段着のドレスに白い天馬の軍旗を持ち、誰にともなく呟いた。
「……共犯のソニンク辺境伯も処断された。我が国侵略の足がかりはもう無い。……それよりお前に求婚してきたというのが気になる。」
レオンが囁くように小さな声で答えた。
「……たしかに気になります……」
レシステンシアはサリオス王の方を見やった。
私を捕らわれの身にし、異端者として火刑に処そうとしたひと……。
そのせいか私には吸血鬼王という渾名の通りとても恐ろしく見えた。
『 誓約書
スタセリタ王国とセリエンホルデ王国は
ここに両国王の署名をもって永久に戦争を放棄するものとする。』
粛々と二人の王の署名は進められた。
「この誓約書には両国王の署名とあるが……?」
サリオス王がシュネル王太子に問い詰めた。
「父は床に伏せっている。全権を委任されているのは私だ」
シュネルは毅然として答える。
「……そうか。しかし王太子妃も隣ににないというのはどういうことだ?」
シュネルは不味いという顔をする。
「なあ!王太子妃の救国の乙女よ!レシステンシアよ!」
サリオスは大声で天馬騎士団として並ぶ私を指さした。
……シュネル王太子。お断りしたのに。しかし私を守ろうとしてくださったのも事実……。
仕方ない。私は腹を決めた。
私は微かに震えの残るこえで、しかし毅然となるように答えた。
「私は王太子妃ではありません!」
「んん?聞いた話と違うでは無いか!」
サリオスは問い詰めてくる。
「シュネル殿下との婚姻はお断りしました!」
「では私からの求婚を受けられるということだな!?」
来た、サリオス王からの婚約の話……。
「レシステンシア・ブラダ!我が妃となるがいい!そしてわがスタセリタに救国の乙女の恩寵をもたらせ!」
……王太子も王も、私に求婚してくる殿方は私を救国の乙女としか見ていない……。
そんな殿方とは結婚できません!
「サリオス陛下……婚姻のお話は謹んでお断り致します」
「そなたを処刑しようとしたことは謝罪しよう。私は悔悛したのだ。そなたこそ真なる女神の御使い……。どうか我が手を取って欲しい」
なんて自分勝手な……。
「たしかにここで言い合いをしているだけでは私の心も伝わらなかろう。どうだ、ここはひとつ共に踊ろうではないか!」
サリオス王が手を挙げて合図するとスタセリタから連れてきた楽団がワルツを奏で始めた。
サリオスが席を立ち、こちらに近づいてくる。
サリオス王を睨んでいる天馬騎士団の面々。私はマリアさんに軍旗を預けてサリオス王の元へと歩き出す。
「レシス、本気か」
レオンお兄様が肩に手を掛けて制止するが、私は振り切って歩いた。
「話を付けてきます」
サリオス王の前に立つ。震えを足で踏ん張り耐える。
その黒色の瞳から伝わってくるのは何?
好意?憎悪?女神への信仰?
ただ私の姿が映るだけだった。
「さあ、レシステンシア」
サリオス王が伸ばした手に手を重ねて、二人きりの舞踏会がはじまるのだった。




