21.死の舞踏
ワルツの流れるなか、サリオス王のリードに身を預ける。
たった二人しか踊らない舞踏会の空気はひんやりとして、ともすれば頬が切り裂けそうだった。
「こんな細腕であの軍旗を掲げ、戦場を駆けていたのか……」
サリオス王が私の腕を撫で上げ呟く。鳥肌が止まらない。
「それが私の使命ですから」
戦場が私の居場所、そう定めたのは自分だ。
ステップを踏みながらサリオス王はうっとりと語り出す。
「我が妃になれば二度と戦場には駆り出すまい。我が城の貴賓室にて一生を過ごさせよう」
一生、それは監禁というのではないか。
「ああ、レシステンシア。お前がいる生活はどんなだろう!朝はお前に祈りを捧げて1日を始めよう、女神の恩寵があるように!昼間は私の執務の間も隣にいてもらう、夜はもちろん共に眠ろう!」
ワルツのリズムに合わせて、かの王は愛を囁くように耳元で語りかける。
「そんな生活、吐き気がします」
言ってしまった……恐る恐る顔を上げる。
「何故そんなつれないことを言うのだ、レシステンシア!」
サリオス王が激昂する。
レシステンシアから身を離し、頭を抱えて苦悩している。
「ああ、そうだろう。私はお前を火刑に処したのだから……。」
サリオス王は何かに取り憑かれたように変貌し、レシステンシアをなじり始めた。
「そうだ、吐き気がする。魔女を娶れだと!なにを言うか!朝はお前に呪詛を吐こう!昼はお前を拷問にかけて悲鳴とともに執務を行おう!夜は乙女などと崇拝されるお前に陵辱の限りを尽くそう!」
再びレシステンシアと距離を詰めるサリオス王、その手には、短剣!?
楽団は音楽を辞めない。サリオス王は短剣の切っ先を私に向けて突きつけてくる。
私はそれを避けるのに精一杯だ。
短剣は腕へと、胸へと、私は後ずさる。壁際に追い詰められる。
まるで踊っているように……。
短剣が私の胸を切り裂くと、念の為下に着ていた鎧が防いでくれたが、ドレスは大幅に千切れてしまった。
「サリオス王!!何をしている!」
いつの間にかレオンお兄様が助けに来てくれていた。サリオス王にタックルをかまし、距離を取れた。
「お兄様、危ないです!」
「お前こそ、怪我はないか!」
実の所サリオス王の繰り出す短剣の斬撃は私の肌にいくつかの傷を作っていた。
それを見て嬉しそうに嗤うサリオス王。
……この人、正気では無い……!
(レシステンシア、我が乙女よ……)
女神様!?こんな時に……。
(その男、サリオスを殺すのです)
そんな!私が人を殺すなんて……!
(それも救国の乙女の役目……)
……そう私は女神の御使い、救国の乙女……。
「お兄様、サリオス王から短剣を奪えますか」
「やってみるが、何故……」
「お願いします」
私は、お兄様と二人がかりでサリオス王に飛び掛った。
私を囮にして、お兄様が短剣を奪おうと体当たりを繰り出す。その間にも私への斬撃をサリオス王はやめなかった。
何度かそうしているうちに、短剣がサリオス王の手から弾け飛んだ。
私はすかさず短剣の元へ走る。
拾って蹲っていると、サリオス王が覆いかぶさってきた。
「レシステンシア、戦場の魔女、私を殺すか!?」
「ええ!殺します!女神の御意向のままに!!」
無防備な喉に向かって短剣を思い切り突き刺す。
肉を切り裂く嫌な感触、飛び散る生暖かな血。
「……かはっ!人殺し……!お前はやはり魔女だ……」
サリオス王はそう言い残すと力が抜けて私の上に倒れ伏した。
人を、殺した……。女神のお告げとはいえ、私のこの手で……!
「レシステンシア!レシステンシア!大丈夫か!?」
お兄様がサリオス王の亡骸を避けて私を抱き寄せる。
「お兄様、私はこれで良かったのでしょうか……女神様のお声がしたのです。サリオス王を殺せと……」
「……お前は救国の乙女だ。女神の声に従って悪いことなどあるものか……!」
レオンお兄様は周りが騒然とする中、血に塗れた私をしばらく抱きしめていてくれました。




