17.王城からの迎え
故郷のブラダ男爵邸で過ごす毎日は暖かく、春の日差しの中にいるようだった。
すっかり元気になって外で遊びたがるオルテンシアに付き合って、外で花を摘んだりして遊んでいることがほとんどだ。
遠くから馬車が近づいてきた。よく見ればそれは王室の紋章の刻まれた馬車で、王城からの使者が乗っていた。
「救国の乙女レシステンシアよ。速やかに王城に戻るようにと、王太子シュネル様は仰せです」
やっぱり、いつまでもここにいる訳にはいかないのだ。
私は急いで支度をする。戦場を駆ける為の膝丈のドレスに着替え、ヒールのない靴を履く。あとは簡易な鎧を纏えば戦場を駆ける救国の乙女の完成だ。
父上と母上に挨拶をする。オルテンシアにも。
「どうか皆元気で、私は行ってきます!」
「レシステンシア、お前の無事を祈るよ……」
父上も母上もオルテンシアも、心配そうしてくれている。
「大丈夫ですよ、私は救国の乙女。女神様がお守り下さります」
そうして王城からの馬車に乗り込んだ。
家を出て軍に入ったあの日も、馬車に揺られていたなあ。リサ、エマと出会ったのも馬車の中だった……。
懐かしく、不思議な感傷に浸っているうちに、馬車は王城へと到着した。
謁見の間に案内されると、そこには天馬部隊の面々が揃っていた。
「よう!レシス。里帰りは楽しかったか?」
テオさんが片手を上げて聞いてくる。
「はい、みんな息災で、憂いは無くなりました」
「まるでもう帰らないみたいな言い草だな」
マリアさんが心配そうな声色で問いかける。
「私は救国の乙女ですから。戦場が私の居場所だと、改めて思ったんです」
「おお!これぞまさに聖なる乙女の心意気!ますます崇敬の念が深まりますな……」
「ジルさん。そんな、普通に接してください……」
ジルさんが私に跪いて祈るようなポーズをとるので、慌てて止める。そんな大層な者じゃないですから……。
レオンお兄様もいたが、私と面々のやり取りを微笑んで見ているだけだった。
やがて王太子シュネル様が、姿を現した。
「皆の者、集まってもらってすまない。お前達の此度の戦での功績はとてつもなく大きいものである。よって、部隊の者たちに勲章を授与し、騎士の位を与える!」
ザワザワとする謁見の間。
「これからは、天馬騎士団を名乗るがいい!」
わぁっと歓声が上がった。
シュネル王太子自ら、部隊の面々の前に立ち、勲章を授与していく。皆嬉しそうだ。テオさんだけはなんだか嫌そうな感じを見せていたけれど……。
そして私の番。
「お前は特に救国の乙女として活躍してくれた。これは本来王族にのみ授与される大勲章だが、特別に授ける」
シュネル王太子は私の顔を意味ありげに見つめながら胸に大勲章を付けた。
全員に勲章の授与が終わり散開の命令が出されるが、私だけは呼び止められた。
「レシステンシア、話がある」
「王太子殿下、なんでしょうか」
するとシュネル様はバツの悪そうな顔をして打ち明けた。
「スタセリタの王、サリオスからお前に婚姻の申し込みがあった……」
スタセリタ王サリオス……!
『魔女として火刑にしてやる!』
蘇る独房での苦痛に満ちた日々……。火刑に処された日、あの足元まで火の熱が迫る感覚……。
私をそんな目に遭わせた王が、なんですって?
「こ、婚姻ですか!?」
驚きを隠せず悲鳴にも似た声を上げる。
「もちろん方便だろう。何としてもお前の身柄を手に入れて処刑しようという魂胆だろう」
「……そうですよね……」
サリオス王はそこまで私に執着しているのか……。背筋にうすら寒いものを覚えた。
「男爵令嬢風情が王からの婚姻を突っぱねるのはなかなか厳しい。無視すれば戦争になるかもしれない」
「……そんな」
「そこでだ、レシステンシア。私と再び婚約を結ぼうではないか!」
……私は沈黙する。確かに私の男爵令嬢という身分と王という身分では私はなんの抵抗もできない。
王太子妃となれば流石に王も身を引くしかなくなるだろう。
実に理にかなった提案。
だけど。
一度婚約破棄されたのにもう一度婚約なんて、乙女心が許せない!!!
「お断りします!!!」
「なんでだ!!」
「忘れていませんよ!殿下は私との婚約を破棄したではないですか!」
私は人差し指をさして猛烈に抗議した。
「っそれは、そのときはそうしたかったのだ……ルミナスもいたし……」
殿下はもごもごと言い訳をする。
「ルミナスさんにも結局騙されていただけじゃないですか!!」
「ああー!黙れ!命が惜しくないのかお前は!」
「……女神様がお守りくださると信じておりますので!」
たしかにこの提案を突っぱねてどうなるのか……今度こそ命は無いかもしれない。
でも、これだけは譲れなかった。
「では、失礼します!」
「レシステンシア!……あーもう!」
殿下の声を後ろに私は謁見の間を出て扉を閉めた。
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