15.火刑
翌朝、今日の裁判で私はどうなってしまうのか……寝た心地がしなかった。
ご丁寧に衛兵は私の手の拘束も外してくれた。そう、私が自分で髪を切り服を着替えたと訴えるために……。
やがて衛兵が迎えにやってきて、法廷へと向かう。そこに現れた私の姿を見て傍聴席の野次馬がざわついていた。
「あの女髪を切って男の服を来ているぞ!」「これは異端者の証だ!」「魔女が火刑になるぞ!」
そんな言葉の数々を耳を塞ぎたくなるのを耐えて、胸の前で手を組んで祈った。女神様、どうか私をお助けください……!
「静粛に!」
裁判官が木槌を叩いて野次馬を黙らせる。
「被告人、その髪の毛と服装はどうしたことだ。昨日の法廷では髪の毛はこれ以上切らない、男物の服を着ないと誓っていたでは無いか!」
「昨日の法廷の後、衛兵にドレスを無理やり脱がされたのです!!髪の毛も無理やり剣で削ぎ落とされました!私は無実です!」
本当に私の意思では無い。しかしこの見た目、どこからどう見ても自分の誓いを破った者にしか見えないだろう……。
告発人も発言する。
「被告人の言うことは全くのデタラメです!衛兵がそんなことをするはずがない!証拠もないでは無いですか!」
「ではドレス以外に着るものもなかった私がどうして男物の服を持っていると言うんですか!あなた方の策略で牢に投げ入れたのでしょう?下着姿のままここに立てというのですか、それこそ異端者のすることです!」
「双方静粛に!」
また木槌が叩かれる。
「被告人、レシステンシア・ブラダ。被告人は昨日の法廷で『これ以上髪を切らない、男物の服も着ない』と誓ったな?」
「……誓いました」
「その誓いは異端からの改悛と認められた。しかし、今それがまた破られた。そなたは再び異端を犯したのだ、これ以上の改悛は認められない。すなわち、そなたを魔女とみなし火刑に処す!」
残酷な言葉が告げられた。魔女として火刑になるなんて……!
「待ってください!私の意思では無いんです!衛兵がやったんです!!私は異端を犯してなどいません!魔女ではありません!私は救国の乙女です!」
私の叫びなどお構い無しに、左右から衛兵に身柄を拘束される。
また後ろ手に縛られて、縄で繋がれる。
そして外の広場へと連れていかれた。
驚くべきことにそこには予め火刑の用意がされていて、見物客が今か今かと私を待っていたのだ。やはりこの裁判は茶番で、最初から私には火刑以外の結果など用意されてはいなかったのだ……。
足元に薪が用意された一本の柱に縛り付けられる。
衛兵が去った後にさらに薪が追加される。
ここに火が付けられるのか……。恐ろしい。直視できない。私は涙を必死に堪えようとしていたが、恐怖による震えで零れてくるのを止められなかった。
ああ!女神様!私は救国の乙女ではなかったのですか?ここで火刑にされて死ぬ運命なのですか?
どうか、どうか私をお助け下さい……!
いよいよ足元の薪に火が入れられた。ああ、もう終わりなのか、女神様に祈るが、諦めかけたその時、懐かしい声が聞こえた。
「レシステンシア!」
レオンお兄様……。これは走馬灯というやつでしょうか。
「レシステンシア、諦めるな!しっかりしろ!」
諦めるな!そう言われて目を見開くと、そこには見物客と衛兵を蹴散らすレオンお兄様が居た。
「レオンお兄様!!」
「救国の乙女よ!助けにまいりましたぞ!」
ジルさん!
「火ぃつけられたからって弱気になってんじゃねえぞ!」
テオさん!
「もう少し堪えろ!レシステンシア!」
マリアさん!
天馬部隊のみんなが、助けに来てくれた……!
私の涙は恐怖から喜びの涙に変わった。
しかし下からは焔の熱が近づいてきていた。ダメ、諦めない!私は縛られた全身に力を込めてなんとか縛めを解こうと奮闘した。
「レシステンシア!歯ァ食いしばれ!」
足元からテオさんの声がした。その斧で私の縛り付けられた柱を倒すつもりらしい。言われた通り私ら歯を食いしばってその時を待った。
ぐら……と柱が揺れ、私ごと柱は倒れた。私は半ば逆さ吊になるがぐっと、堪えた。
そこへレオンお兄様がやってきて、私の縛めを全て解いてくれた。
「レオンお兄様!お兄様!怖かったです……し、死ぬかと……」
私は思わずお兄様に抱きついた。レオンお兄様も優しく抱き返してくれた。
「レシステンシア、よく生きていてくれた!さあ急いでセリエンホルデに帰るぞ!」
「はい!」
私の身柄を確保したレオンお兄様たちは急いで馬に乗り、駆け出した。このままセリエンホルデまで逃げる算段らしい。
幸いにも追手は多くはなかった。追手を退けつつ走り続け、山の中に入った。
「山の中からはわがバスラット伯爵領だ。安心していいぞ、レシステンシア」
「帰って来られたんですね……、セリエンホルデに……」
私の故郷に……。私は心から安心して、涙を流してしまった。
「皆さん、助けてくれてありがとうございました!」
天馬部隊の皆に向けて頭を下げた。
「あなたは救国の乙女、なくてはならない存在ですとも」
ジルさんが私に跪いた。
「魔女裁判で火炙りなんて夢見が悪くならァ助けて当然だ」
「そう言って、お前が一番心配していたのではないか?」
テオさんがマリアさんにからかわれていた。
こうして私は火刑を免れて、セリエンホルデ王国に戻ってくることが出来たのでした。




