13.敵国
牢での生活も何日経っただろう……。水もパンも這いつくばって犬のように食べ飲みするのは慣れた。今は人目も気にしなくなった。飲まなければ、食べなければ生きていけない。何があっても生き延びる。その誓いが私を支えていた。
転機は急にやってくる。
「レシステンシア・ブラダ。立て、牢を出ろ」
衛兵がやってきて突然告げられる。足の拘束が解かれた。
私はよろよろと立ち上がる。暫く縛られたままだったので足取りも覚束無い。
「さっさと歩け!」
でも衛兵は容赦なく私を急き立てる。
一体どこへ向かっているの?聞くことは許されなさそうな雰囲気だった。
歩いていくと立派な馬車が見えてきた。ソニンク辺境伯のものだろうか。
「乗れ」
「えっ、私がですか」
「いいから乗れ」
そうして後ろ手に縛られたまま豪奢な馬車に乗るというへんてこな状態になった。
馬車の中にはソニンク辺境伯が既に座っていた。
向かい合うように座る。
「ソニンク辺境伯……」
「ご機嫌はどうかね救国の乙女、いや『戦場の魔女』」
「なんですかそれは……」
『戦場の魔女』聞き慣れない響きだ。
「スタセリタ王国での君の呼び名だよ!所変われば立場も変わる。君は兵士を次々と屠る恐ろしい魔女というわけだ!」
「……そんな、わたしは敵兵を屠ってなど……」
いない。といえるだろうか?確かに集まってくる敵兵を旗の柄で吹き飛ばしてはいる。それで命を落とした兵士もいないとは限らない……。
「とにかく君はスタセリタへの土産だ。此度の侵攻の失敗の責を私も受けなければならないのでね……これでチャラになると信じているよ、『戦場の魔女』殿」
「ではこの馬車はスタセリタへ向かっているのですね……」
「そうだ、そこで君を向こうに引き渡す!その後どうなるかは……スタセリタ王次第だろうね!せいぜい良い待遇が得られるように女神様に祈っておくがいいさ!」
私は敵国に売られるのだ……!スタセリタ王は私をそんなに憎んでいるのだろうか……。
考えても仕方ない。おのずとその時は来るのだから……。私は目を瞑って馬車の揺れに身を任せた。
馬車の揺れが止まった。
遂に敵国、スタセリタの地に着いたのか。
辺境伯が馬車を降りていく。衛兵が私に馬車を降りるよう言った。
馬車を降りて現れたのは立派な城だった。まさか王城?
歩く私に向けられる視線は痛いほどの敵意だった。
これが『戦場の魔女』へ向けられる敵意。
身震いをしながら辺境伯へ続いて城の中へ入っていった。
やがて謁見の間に通される。
そこに現れたのは、スタセリタの若き王、サリオスだった。
「サリオス国王陛下に置かれましては、今日もご機嫌麗しく……」
「うるさい!これが機嫌よくいられるか!ソニンク!お前はまた苦戦しているそうじゃないか、私が兵を貸してやっているというのに!」
サリオス王はその長めの茶髪を振り乱して怒った。
「も、申し訳ありません国王陛下!しかし、戦局は変わります!こちらのものを捕らえたのです!」
ソニンク辺境伯は汗をかきながら必死に答えた。
「ほう?」
「こちら、救国の乙女改め『戦場の魔女』レシステンシア・ブラダです!こいつのせいでバスラット伯爵領は簡単に取り戻され、王立軍にも苦戦していましたが捕らえたからにはもう安心です!」
そう言ってソニンク辺境伯は私をサリオスの前にと差し出した。
「お前、女神の声を聞いたとか?」
サリオス王が検分するように話しかけてくる。
「……はい、聞きました」
「女神はなんと言っていた?」
「バスラット伯爵領を取り戻すようにと……」
「……っ!はははははは!女神は本当にそう言ったのか!なんと贔屓が過ぎる女神様だ!我がスタセリタ王国にはなんの恩寵も与えないつもりらしい!」
サリオス王は笑いだしたあと急に冷酷な顔になって言った。
「お前は魔女として火刑に処してやる。絶対にだ」
「……っ!」
「誰ぞこいつを地下牢に繋いでおけ!!」
「やめて!離して!」
羽交い締めにされ引きずられそうになるところを抵抗した。
「自分で歩けます」
そう言って、衛兵に大人しく着いていくことにした。
繋がれた先はまた石造りの牢だった。
繋がれた場所が変わっただけ。そう強く自分に言い聞かせて落ち着かせた。
『お前は魔女として火刑に処してやる』
「……っ!」
サリオス王の冷たい言葉を思い出すだけで背筋が凍る。
私は『戦場の魔女』として、火刑にされる……?
そんなこと……嫌だ!
女神様に必死に祈った。どうか奇蹟を。私をどうかお助け下さい!
しかし祈りは虚しくも牢の石に吸い込まれていく様だった。
レオンお兄様はどうしているだろう……。どうか私がここにいると気付いて……助けて……。
そう思わずにはいられなかった。
何とか投稿出来ました……




