12.捕囚
目覚めるとそこは石作りの牢だった。
そこに横たわっていると頬に硬い感触が当たる。
相変わらず後ろ手に縛られているし、いつの間にか裸足になった足も縛られている。
何とかモゾモゾと動き、身を起こした。
一体ここはどこだろう……。
意識を失う直前、ソニンク辺境伯の手の者が私を攫ったということが分かった。つまりここはソニンク辺境伯領なのだろうか。
なんのために私を捕らえたのだろうか……。
そこへ物音がして誰かやってきた。
「やあ、きみが救国の乙女かね。名前は……」
「レシステンシア・ブラダです」
「そうだったそうだった。あの貧乏貴族のブラダ家に生まれた希望ってやつだったな」
「あなたは……ソニンク辺境伯……」
「そうだ。セリエンホルデ王国を裏切りスタセリタ王国と手を組んだ」
「やっぱり!バスラット伯爵領への侵攻もあなたの手引きですね!」
「そうだ。上手くいったのに、あっさりと取り返されて……。君のせいだがね」
ソニンク辺境伯はこちらを睨みつけてきた。
「娘も行動が遅い。侵略とともに王太子を片付けてしまえばよかったのに……ああ、使えない!」
ルミナス嬢のことまで……。自分の娘も道具扱いなのだろうか……。
「一体私をどうする気ですか」
「単に邪魔なので捕らえたのがひとつ、君がいては兵士はたちまち癒え戦線復帰してしまう。それに士気も高まる。いなくなってもらわないと困る」
辺境伯は滔々と語った。
「それともうひとつ、バスラット伯爵領の侵攻に失敗したスタセリタ王は大変お怒りだ。お怒りを鎮めるための土産が必要ということだよ」
「私をスタセリタに……!?」
「そうだ!一体どんな酷い目に合わされるだろうね……敵国のみに与えられた女神の奇蹟。腹ただしいものだろうよ……!」
「うう……」
今の私にはスタセリタに送られてどんな扱いをうけるかなど想像も出来なかった。いや、したくなかったの方が正しいかもしれない……。
「スタセリタに送るまで死なれては困るのでね、しっかり食べたまえ」
檻の隙間からパンが投げ入れられた。
せめてもの抵抗として、辺境伯が去っていくまで食べなかった。
辺境伯が去ってから、後ろ手に縛られた状態で地面に落ちたパンを食べる。まるで犬のような、それよりも惨めな有様に泣きながら食べた。
食べることを拒否すれば、いつか餓死できるのかもしれない。
でも私はリサとエマに誓った。食べて、生き延びてやる、と。
部隊の仲間はどうしているだろうか。私がいないことに気づいただろうか……。あの白い天馬の旗。決して手放してはいけないと分かっていたはずなのに……。悔しくて涙が出てきた。
レオンお兄様に会いたい。どうか私を助けて……。
***
「レシステンシア、遅いな。どうしている」
負傷兵の治癒に行くと言ってから数時間は経った。日も暮れてきたので今日のところは一旦撤退し、長期戦に備えることにした。
しかしレシステンシアの姿が見当たらない。天馬の旗も見当たらない。まさか……彼女の身に何かあったのか。
「我らが旗を見たものはいるか!?」
「あっはい、ここに……」
新兵が旗を持っていた。
「……どこにあった?」
「あっちの外れの洞窟の前に落ちていました……救国の乙女様は、姿が見えませんでした……」
「洞窟だな!?」
俺はすぐさま件の洞窟に馬を向けて走り出した。
「ここか……レシステンシア!居るのか!?」
薄暗い洞窟の中には誰もおらず、ただ自分の声が響くだけだった。
しかし洞窟の中には靴が落ちていた。
ヒールの折られた形跡のある靴。明らかにレシステンシアのものだ……!
「レシステンシア!いないのか!」
返事は無い。ということは……ここで誰かに襲われた?しかし血の跡はない。殺されないように、攫われた?
「クソっ!アイツか!」
レシステンシアに負傷兵がいるので来てくれと呼びに来たあの兵士。あのあとからレシステンシアは行方不明になっている?
レオンは自分の無警戒ぶりを後悔した。レシステンシア一人で行かせるようなことをすべきではなかった……!
裏にいるのは……、やはりソニンク辺境伯だろうか。
傷つけずに攫った以上命はあるだろうが心配だ。
何よりどうする気かわからない。もしかするとスタセリタ王国に売るようなことがあるかもしれない。
そうなればレシステンシアはどうなる?
救国の乙女も所変われば戦場の魔女だ。
どんな酷い目に合わされるかわかったものでは無い。
王太子に頼んでソニンク辺境伯に書状を書いて貰うくらいしか今のところ手は無い。
せめて場所が分かれば助けに行けるのに……とレオンは歯噛みした。
レシステンシア、何処にいる……。お前を助けに行きたい……。
二人の思いはただ天に消えるのみだった。
更新速度落ちるかもしれません。すみません。




