第35話 探索1
スラム目指してしばらく歩いていると、周りの景色が変わっていく。賑やかな光は減っていき、まるで世界が変わっていくかのように周辺の家は寂れ不気味な雰囲気を醸し出す。繁華街と比べると隔絶されたような空間だ。
もう少し歩くと僅かにあった光は完全に消失する。しかし、猫の目には無駄なようで視界にはあまり影響しない。
「ーー酷いな。これが俗に言う貧富の差ってやつか」
周囲の家は木造などのしっかりしたものではなく適当に集めたガラクタみたいな物質で出来ていて、周りの音は一切聞こえない。歴史で学ぶ事はあったけど、実際に見たのはこれが初めてだ。
「気配察知には何も引っかからないニャ」
「なるほど……なら反応があるまで探索するぞ」
気配察知と本能の併用で大体半径60メートルもの気配が分かるから、このまま適当に歩いて行けばきっと何らかの反応が得られるはず。
そんな知能を使わない作戦でスラムを探索する俺は、懸念点について考える。
まず、アランは悪魔が王国にいると言っていた。
そして今回の誘拐?にザックの話した何らかの組織が関わっていた場合、その組織と戦うことになることが予測されるから……悪魔に俺たちの存在が気づかれる可能性がある。そうなると、悠長に悪魔を倒すための特訓が出来なくなってしまうかもしれない。
だからもし、組織みたいなのが関わっていたとしたらコソコソと行動するのが吉になるだろう。
ーーと、普段何も考えていない俺が珍しく真面目に思考を巡らせているとスキルに何らかの気配が引っかかった。
「複数人……だな」
気配は俺たちに近づいているようだ。相手は弱そうな雰囲気だけど、とりあえず毛を逆立てて身構えておく。
「主、寝たいニャ」
「頼むルイ、今は我慢してくれーー」
そのように相手が来るまで少し会話をしていると、腕が背後から伸びてくる。
「……動くな」
気配はあらかじめ知っていたので落ち着いて振り返ると、3人の髭面おっさんブラザーズがお見えになった。俺はそれを噂の誘拐犯だと理解すると、ある作戦を思いつく。
その作戦というのは『あえて攫われてしまえば簡単に敵地に潜り込めるのではないか?』というよくある手法だ。咄嗟の思いつきにしては天才だなと自分を自画自賛してから俺はルイに対してスキル「一心同体」で念を送る。
こういう時に会話なしで意思疎通が取れる一心同体は便利だ。
俺は作戦通りおっさんブラザーズに身を任せていると、おっさん達は無言で何かの粉が付いてる布を口に当てて、それから俺を大きな袋へと突っ込む。ルイの方は何か頭を撫でられて放置されている。
「よし、これでノルマは終わりだ」
「これで殺されないで済む……」
オッサン達が袋(俺)を持ち上げて歩き始めると談笑を始め、寝たふりをしている俺は彼等の会話からある情報を得る。どうやら、このおっさんブラザーズの仕えている人はルーガス?とかいう男らしい。それ以外は何も分からないが、オッサン達の様子からしてかなり恐ろしい人のようだ。
「……久しぶりにボアージュを食べたいな」
「よっし、俺が帰りに食わせてやる」
「馬鹿!そこは虫料理を食うのがセオリーだろうが」
俺は一体何を聞かされているのだろうか。よく分からないけど暫くオッサンたちが歩いていると、煙を出している工場らしき建物が視界に飛び込んでくる。
建物はかなり大きく銀色の鉄のような物質で出来ていて、周りのガラクタハウスと比較すると突然工場が異世界召喚されてしまったかのような不自然さだ。
(あれってただの工場だよな?)
実際この国ではいくつかああいう建物は見た。でも、あれほど大きいのは見た事がない。おっさん達はそこに向かっているようだし、あそこが誘拐先と見て間違いなさそうだ。
重そうなドアが開かれて建物の中に入っていくと、俺は地面に投げられ「悪く思うなよ?」とオッサンの1人に言われて彼らはそのまま去っていく。何故こんな出口付近で放置されたのかは知らないが、遠くからついて来ていたルイは姿を現して俺の隣に来た。
「……主、何か嫌な予感がするニャ」
「獣の勘か?頼りになるけど、ここまで来て戻るわけにもいかないだろ」
珍しくルイが険しい顔を見せている。俺はそれを見て怖くなるけど、別に悪魔以外なら大体倒せるだろうし恐れすぎるのはあまりよろしくない。だから気合を入れるために頬を軽く叩いてから、周りを軽く見渡し始める。
中はスラムのような寂れた感じはなく、変な機械が乱雑に転がってたりして中々不気味だ。そして周囲にはそれだけではなく、全長40センチ程のロボットみたいな奴らがいた。今のところ動く気配はない。
「異世界の機械技術舐めてたわ……中世ヨーロッパぐらいのレベルだと思ってた」
「中?せよーろっぱ?」
「すまん気にしないでくれ」
ゴソ……
俺は袋から出て立ち上がる。すると『素体を確認……ネコ?』周囲のロボット達が突然動き始めた。
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