野獣国と言われるのを獣人は嫌ってます!
野獣国の城…… というには粗雑な作りをした大きい家。
そこに目つき鋭い華奢な壮年の狼の獣人が玉座に腰を下ろしてじっと考え事をしていた。
さてホンマどうするかなぁ……
今、野獣国は危機に瀕している。
襲い来る魔物の数に対して、戦える戦士の数や優秀な鍛冶屋が少ないのだ。
この問題はこの国の誕生から既に始まっていた。
獣人は人族のように繁殖できない。
獣人はエルフのように長く生きれない。
獣人はドワーフのように器用に手を動かせない。
多種族のような信仰も無い。
神は自然の中にいて獣人を見守ってくれているからだ。自然が神で、あとはあるかままに生きる。
金銭に重要性を感じない。
物々交換で賄える程度の数しか獣人がいないかったからだ。
人口が増えにくい。
人族のように発情期がいつもあるわけではないし、獣人にも色々な種族がいるからだ。
魔物を狩り畑を耕し、皆で分け合い食べ、大きい個体群を作り生活していた……
──ある日その歴史の中に人が入り込んだ……
獣人の生活圏は大きな島の中だけだったから人族との交流が殆どなかった。
人族は珍しい知識をたくさん獣人に与え、我々は人族の考えに促され国を作った。
国という杯になれば中に注ぐものを考えなくてはならない。
注ぐのは芳醇で癖のあるワインか無色透明の水か…… それとも…… 毒薬か……
人族は獣人が、あーだこーだと考えている内に腐るのが早い物を注いだ。
人族の文化の模倣を国に示し人と同じ地政を植え付け、野獣国の趨勢を決めて…… 崩壊するように誘惑した。
…… 外縁を敵が作り、そこに獣人を住まわせる…… そうなるように自然に自然に導かれたのだ。
獣人は人族の生贄や供物に等しくなってしまった。
国という杯に腐り果てた泥水を満たしたなら口に含み嚥下しなければならない。
外交を行う為に人族が推薦する通貨を適用した。
野獣国に島中から獣人が集まり、人口が増えてしまい物々交換では生きていけなくなり、外の大陸との貿易が必要になった。
外交・貿易には金貨が要る。
国王の先代はその日に食べる以上の仕事をしなくてはならなくなった。
苦い思いをしながらも軌道に乗り国民に笑顔が出始め
行政、立法が決まった所に人族が攻め込んできた。
獣の分際で人と対等に話す事に人族は怒ったのだ。
攻め込んだのは人族の教皇国家だった。
彼等は言った。
「ケモノはケモノらしく地面に頭を垂れて生きれば良い、神に与えられた役割を理解せよ」
獣人は男は殺され女は慰み物として奴隷にされた。
神の使徒を名乗るヤツラの所業に我々獣人は憤怒した。
それから戦争が20年続き、教皇国家の被害も大きくなりだしどちらからでもなく停戦となった。
戦争の被害は十分にあった。
人口の減少は我が国には大きな問題で目を向けていられなかった。これは魔物との戦いに頭を悩ませる事になる。
戦争で失われた鍛治職人、戦士……
どうするか……
思考の中で喘ぐ玉座の間に執事が入室する
羊の執事だ。
「どうしたんや? 何かあったんか? 」
「マカミ様、この城下町に人族の子供とドワーフが滞在していると報告がありました」
怪しい人族が王都に来た時は必ず報告を上げる慣わしになっている。
痛い経験から慎重になっている為だ。
「人族とドワーフかいな? ドワーフさんはアレや…… 良さそうな人か? 」
鍛治をレクチャーしてくれるなら僥倖だ。
「…… なにやら人族の子供と仲良くしています。問題はドワーフが人族の子供の名前に"様"をつけているようで」
「そらぁ怪しいなぁ…… 権力者の子供やったら問題が起こるかもしれへん…… ちょい監視を強くしてみてくれへん? 」
羊の執事は頭を下げ玉座の間から退出する。
「…… はぁー…… 何で次から次へ色々おこるんやろ? 」
国王は頭をボリボリ掻いてまた思考の中に落ちていった。
☆★
ワルフと野獣国の王都についたのは海を渡って5時間後だった。
「獣人の王都に行くには最速で2カ月かかるはずなんじゃが…… ワシ、昼にまだ港町のミナールにいた…… よな? 」
「気のせい気のせい! 」
早々に安そうな宿をとる。
通貨はウチの国と一緒だと事前に調べた通り、宿代の支払いに使えてホッとする!心配事が一つ無くなったわ!外貨両替なんて無いだろうし今更一から金稼ぎは辛い。
「えーっと…… 人族さんとドワーフさんは男性同士ですよね? ベッド2つありますが狭い部屋ですよ? 」
まあお金は有限!
無駄遣いはできないよね!
「シノ様と狭い部屋で一晩…… トゥクン…… 」
「ワルフ…… 今度そのギャグをしたら殴り殺すからな? 」
モジモジしながら俺を笑かしにかかるのは分かったが場所を考えろよ! 宿屋の受付の人が真顔になってるぞ……
「ベッド…… 壊さないで下さいね? 」
「いや本当に違いますらね! 」
受付さんに白い目で見られながら部屋に案内されるが、荷物は魔法のカバンだけなのでUターンして受付隣の宿屋の食堂で飯を食べるとする。
「肉が多いな…… 」
日本のロバがびっくりするハンバーグレストランのメニューを2、3倍にした量の肉がお皿に鎮座しておられる。
「これ…… 一人分だよなやっぱり」
ワルフにも同じメニューが置かれる。
「た…… 食べようか…… ワルフ」
「…… うす」
流石のワルフも肉の量にビビリ、体育会系の人みたいな短い挨拶で答える。
ナイフをスッと入れるとその柔らかさに驚く。
肉汁が溢れて皿をテラテラと輝き濡らし、ブワリといい匂いが弾けるように強くなる。
我慢できずに口に入れる。
モニュモニュと柔らかい肉は噛めば噛むほどに美味しさが溢れ出してくる。
これは、牛や豚の味じゃないな…… 異世界万歳。
「うめぇ…… なあワルフ」
ワルフは俺が顔を向けるとバッと自分の体で皿と肉を隠す。
いや! とらねえよ!
なんだコイツは本当に面白いヤツだな!
ガツガツと2人で肉を食べ進むが、やはり美味くても量が多く残してしまう。
「はーっ美味かったなぁワルフ」
ワルフはいつの間にかオーダーした赤ワインをゴクゴクと飲んでいるけど…… 金あんの?
「ワインは喉越しを楽しむ酒じゃないからね!? 」
もはやワルフに対してツッコむ所が多すぎて困惑してしまうシノだった。




