ワルフの後悔!
「ぶえっくしょん!」
あまりの寒さで、くしゃみをして目をさます。
なんだ? 何で寒いんだ? 俺、宿にいるよな?
目を擦り、自分の掛け布団がない事に気付く。
「あー…… 寝相悪くてベッドから落ちたか…… 」
床を見る…… が、掛け布団がない。
怖いなー幽霊かなー…… って思ってたら、あったの! ワルフが2枚使っていたの!
コイツ…… 寒いから夜中に俺から取りやがったな……
狭い部屋に泊まっていたので2人のベッドは1メートルも離れていない。
夜中に寝惚けて取ったか、気付いていて、あえて取ったか……
叩き起こして問い質しても、嫌な雰囲気にしかならないのでスヤスヤと眠るワルフの寝息にムカつきながら部屋を出た。
「なんでワルフを連れてきてしまったんだ…… 」
今更、海を渡って帰れとは言えない。
いや、本人が帰ると言ってくれたなら…… 言わねぇだろうなぁ……
俺は冷えた体に、喝を入れながら宿屋を出た。
野獣国の朝は早い……
身体能力が優れているからか、明るくなると目が冴えてしまうのかは獣人じゃないからわからないけど……
オーディーの町で言うなら昼前の賑やかさや市場の売買が早朝からあった。
市場を覗くと肉!屋台での食べ物も肉!
なんだ肉しか食べ物はないのか?
しかし今の俺の体は転生して若い体、肉の焼ける匂いに腹がクーっと鳴る。
俺にしては意外にも可愛い音が鳴ったってので、へへへ…… と、一人で勝手に恥ずかしがりながら肉の串焼きの屋台の前に並ぶ。
「はい! いら…… しゃぃ…… 」
ほほー、緩急ってこうつけるんだー、という見本みたいな対応をされる。え? なんで?
「え? なんで? 」
いけね。思った事がそのまま口に出てしまった。
「い…… ぃぇぃぇ…… 300ぇんに…… なります…… 」
ええーっ…… ショックですわ…… 周りを見回したら他の獣人も俺から明らかに距離を取っている。
旅のスタートからこれ?ワルフも含めてこれ?…… もうオーディーの町に帰ろうかな…… ?
俺、心、ここに、折れかける!!
キョロキョロと挙動不審になりながら買った肉串焼きを受け取って肉を食べる。
「こんな早く、ごはんを食べるタイプじゃないのに…… 」
人目から逃れたくて肉を飲み込みとにかく早足で宿屋へ帰った。
部屋に急いで入りワルフを見るとまだ寝ていて…… 俺の掛け布団だけ床に落としていた。
「ああ…… 太陽が出る時間になって暑くなったんだな」
フフフと笑いながら嫌な気分になった。
ボスンン!
…… かなりいい感じの打ち下ろしの拳が入り、ワルフは目覚めた。
☆★
「え!? 人族が嫌われている? 」
「そうだ…… 知らないで野獣国に来たのか?」
宿屋の主人に野獣国で獣人がどれだけの事をされたか説明された。
奴隷のように扱い、獣のように蔑み、無知を嘲笑いながら騙し、神を信じぬ下等生物と占領された歴史があるというのだから……
「この国に来たのは失敗だったのか…… 」
俺は呆然となりながら、宿屋の食堂で膝をついた。
なるほど…… 朝の屋台での対応はそういう事か……
これはダメだ。なんというか…… アウェイだわ。
「ピンチですなぁー! シノ様!? 」
人族ではないドワーフのワルフが煽るのでジッと睨む…… でもピンチなのは確かだ……
「はぁーっ…… 着いたばかりだけど違う国に移動しようかな…… 人生は辛いなぁ…… ん?」
コソコソと目の端に何かが走る。
なんだ? と宿屋の主人に目で確認する。
「ああ…… 来たか…… この子達は人族との戦争で親を失った子らです」
宿屋の主人は料理の残り素材を孤児らの籠に入れる。
子供達はペコリと頭を下げて俺を見ながら走り去った。
「人族だった…… 」
「こわいね…… 」
小声で聞こえた言葉に心が痛い。
地球で戦後を生きた俺の子供時代より酷い生活をしているじゃないか……なんてこった。
「御主人…… 子供達を邪険にしないんだな…… 」
宿屋の主人は、はて? と首を傾ける
「子供を出来る限り助けるのは大人の仕事でしょう? 」
うん、この主人はいい人だ。俺も前世の子供時代にこんな人に出会いたかったよ。
☆★
子供を助けるのは大人の仕事。
多分、人族なら偽善や自己満足と言われるだろうが獣人は仲間意識が強いのか本当に当然と言っているのが分かる。
『雨なら服が濡れる』という感覚と『子供を助けるのは大人の仕事』も同じように普通の事……獣人さんは凄いわ。
宿屋の主人の話では子供達の住む孤児院は、老朽化が進み冬場どうするか問題になっているらしい。
俺は宿屋で場所を聞た孤児院に来た。
え?ワルフ…… ? ちょっと金を渡したら獣人の性風俗店に走って行ったよ?
「120分二万円コースじゃぁぁぁ! 」
街中なのに叫び走るワルフは阿保としか言えない。
あー月曜日は可燃ゴミだったー忘れてた……ってな感じで出し忘れたゴミを残念な感じで見るのと同じ目でワルフを送り出したよ……
孤児院は老朽化というか半壊していた…… もう冬だから寒いだろうに……
「うん、この感じなら…… 建て直す方が早いな」
オーディーの町で経験した建築作業がこんなところで役に立つとは…… なんでも経験しとくべきだな。
宿屋の主人に感化され、大人だから助けたい精神を搭載した俺は資材を探して近くの森に来た。
風魔法で木々を伐採していき、錬金術で木の水分を分解して乾燥させ樹皮を剥がしていく……
オスカー大公閣下に作ったログハウスよりは少ないだろうが、孤児院ぐらいなら余裕で建設できる素材を用意した。
[記憶ファイル]からログハウスキットの図面を見つけ、木材を念動力で浮かしてそれに合わせて魔法で木をカットして…… よし、あとは組み上げるだけだ!
もう、コンビニで売ってるワンコインプラモデルぐらい楽に建材の加工が出来る様になったな!
早速、孤児院を修繕……改めまして、ログハウスを建てる場所を確認しに行くと子供達にヒソヒソされる。
「人族だ…… 」
「怖い…… 」
おー、やっぱり怖がられとるな。獣人に何をやったんだよ人間!
「ごめんなさい…… 人族として謝ります。孤児院が直ったら嬉しいかな? 」
頭を下げてから…… 笑顔で子供達に聞けたと思う……いや無理だったかな?
────また何か取り上げるの?
子供にそんな顔をされたら、本当に辛い……
俺は涙を流さないように森に戻り、加工した木に強化魔法を這わせ一緒に瞬間移動する。
地面には怖がる子供達がいるから、孤児院の上空に現れて作業を始めた。
もうオーディーの町で何度も作り上げてきたので慣れている。
孤児院の隣には空き地があるので、そこに空から基礎用の木をからゆっくり念動力で降ろして組み上げていく。
パズルのように組み上がっていく家に子供達の歓声が聞こえる。
「これで大丈夫だ。」
子供達にもし御礼を言われたら、なんか偽善の押し売りに拍車がかかりそうで…… 俺は孤児院にログハウスを作り上げ、そのまま空に飛び去った。
☆★
宿屋にはすでにワルフが帰っていた。
もう艶々(つやつや)で元気ハツラツなワルフに、あれ? マジで、なんでコイツを連れて来てしまったんだ? と本気で悩む。
コイツをこれからどうするか?それを悩んでいると宿屋の主人の大きな声が聞こえた。
「人族のお客さん! ちょっと来て下さい! 」
宿屋のロビーには…… なぜか野獣国の数人の兵士が待っていた。
え?人族は拘束される法律とかあるの?
「シノーンさん…… ちょっとお話を伺いたいので来て下さい」
おおぅ…… 逮捕? これ逮捕?
何かした? やっぱり人族は問答無用で逮捕なの?
血の気が引くのを感じながら兵士と一緒に宿屋を出る。
ふと…… 自分の部屋を見るとワルフと窓越しに目が合う。
ワルフ…… 一緒に来てくれるのか? それなら不安も少しはマシになるだろう。
俺の不安から来る懇願の目に…… ワルフは、目が合ってないフリをしてスーッと目線を外しベッドがある場所に消えた。
もう、外の光が眩しい的な?そんな動きをして目線を逸らしやがった!
「アイツ…… 寝やがった…… 」
本当に何しに来たんだよアイツは!
俺は王城に連行される間、ワルフを連れてきた事を酷く後悔していた。




