冬の海は寒い!
連続瞬間移動に驚いて気絶したワルフは、翌日の昼前に宿屋のベッドで目を覚ました。
よく寝るなこのアホめ…… 起きる気配を見せないワルフのせいで大幅に予定が遅れたわ。
なんだこのチクショウめ……
宿屋に置いて行ってやろうとも思ったんだが、コイツは宵越しの金は持たない漢なので置いて行くのは可哀想だと思って起きるのを待っていたのだが……
「イヤじゃイヤじゃ! シノ様と一緒じゃ! 」
起きてスグ町に帰るよう言って、ワルフに馬車代を掴ませ宿屋から追い出そうとしたら駄々を捏ねはじめた。
「ワシもシノ様と一緒に行く! 」
俺と一緒に行くと言いながらも、馬車代を掴ませた手をゆっくりゆっくり…… 俺に気付かれないように自分のポケットへ…… 凄く…… 見えてます…… ゆっくり動いたら見逃すとでも思うのか?
「いやお金を受け取って何を言ってるの!? 」
「…… お金? 」
オッサン首をひねるな! メチャクチゃちょろかましてるでしょーが!
今、俺は港町であるミナールにいる。
昨日の夜はミナールにある格安の宿屋に気絶をしたワルフを引き摺り入れて泊まった。
宿屋の主人は俺とワルフが『そういう関係』と思ったようで、態々(わざわざ)と小声で受付をして他の客から隠すように部屋に通された…… 深夜の屈辱だった……
「そうか……昨夜はワシとシノ様が同じ部屋で…… トゥクン…… 」
「いやギャグでもそれはねーわ! 」
心臓が高鳴るポーズをするワルフの頭を叩き宿の外に出る。
…… ミナールの港町はオーディーの町より一足早く冬が来ていた。
「冬の港町は寒いなぁ……」
風の音で耳がバカになりそうなぐらい強い風が吹いている。
「この地域には、もうすぐ雪がきそうだな…… 」
もう太陽は空の真上にある…… ヤバイな……昼じゃん!
オスカー大公閣下が俺の捜索に加わっているならもうすぐにミナールの町に追いついてしまう……
「ワルフ…… 本当にオーディーの町に帰ってくれ…… 」
「イヤじゃ! シノ様と一緒に行けないなら死んでやる! 」
もっちゃもちゃ屋台で焼き鶏肉を買って美味そうに食べながら主張するワルフ。
死ぬ気ゼロだな…… 本当に美味しそに食べるなぁ。
寒いから熱いのが美味いだって? 平穏だなワルフ帰れよ!
「はぁーっ…… 次の船はあと3時間後…… か…… 」
港にある船の時刻表を見る。
時間はおおよその時間だ…… 船なんて遅れる可能性の方が高い。
今になって蒸気船を作って広げておけば良かったと後悔する。
この海の向こうに野獣国の大陸があるっていうのに…… [記憶ファイル]からこの星の[世界地図]を取り出し脳内で閲覧する。
間違いない…… あの方角か……
野獣国(ビースティアがある方向の海を眺める。
「ワルフ…… 俺は今から野獣国に行く! ここで帰らないと厳しい旅になるかもしれないぞ? 」
「野獣国! あそこは獣人の女が強く好みじゃ! ワシゃ余計に行きたい! 」
正直に言うと、ワルフが来てくれたら嬉しいかもしれない…… いやどうだろう?
性格が明るい奴との旅は寂しさを感じないからな…… でもなぁ…… ワルフなぁ……
港に強い冬の風が吹く…… 寒ぃぃぃ…… とっとと行こう! とにかく寒い! ワルフに最終確認だ!
「本当に行くんだな? ワルフ!? 」
「おうよ! シノ様についていけば面白い事がありそうじゃからな! 」
俺はワルフに闇魔法で黒い影のような小さな玉を2つ作ってワルフの目に貼り付ける。
「な…… 何も見えんぞ!? シノ様!? 」
よしよし…… ちゃんと目隠しになったみたいだな……
「大丈夫、俺の魔法だ。今からちょっと目隠しをさせてもらう…… 行くぞ! 」
ワルフと肩を組み引き寄せる。
「……トゥクン…… 」
「いやそのギャグは要らないからね!? 」
俺はワルフと自分に身体強化魔法をかけて超能力で空に飛び上がる。
「なぁ! 浮いとりますか?シノ様!? 」
恐怖でワルフがじっとり汗をかく…… ワルフの汗の湿りがべったりするな……捨てようかなぁ……
「うへーっ」
ワルフの脂汗がベタベタと強制的に俺の腕に流れ着くのに引きながら再度[記憶ファイル]で港から野獣国のある大陸までの遠さと方角を確認して瞬間移動を使った。
さて! 違う大陸に移動だ!
流石に海を移動するのには距離が掛かる。
何時間かの間、ワルフは目も見えなくて不安だろう…… しかしだな俺の超能力をお喋り魔人のワルフに見せるのはまだ嫌だ。
旅をしたらいずれ見られるだろうが、まだ心の準備が出来ていない。
ワルフの為に小島でもあれば着陸しようと思ったら…… ワルフめっちゃ寝ているし!
コイツ本当にタフだな! 心強いよ全く……
俺はワルフの豪胆さに笑いながら空を駆け続けた。
☆★
港町ミナールに飛んで行く人影を見たと民から情報があり来てみたのですが……
「シノは居たか? 」
「いえ! 見当たりません! 」
大公は兵士達からの報告に顔を赤くする。
きちんとシノ様の監視を兵団に命じずに、ファミリーレストランで暴食をしながら酒を呷り寝てしまった事に臍を噬む思いなんでしょう。
はぁ…… 昨日のシノ様の魔力がまだ私の中で蟠っている……
ジンジンと私の魔力に絡みついて体が…… 心が…… シノ様を求めてしまう。
「……マイムマイム訓練は……まるで麻薬ですわ」
私が王女という立場でなければ、いつまでも縋り付いついてシノ様を求めたでしょう。
「あぁ…… シノ様は今どこに…… 」
広い海にシノを思い浮かべて王女リリアはため息を吐いた…… 彼等はシノーンが船を使わずに、冬の寒空を飛んで海を渡ったとは想像もしていなかった。




